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バイエルンのチームマネジメントはロッカールームでの人心掌握がカギ

2020.02.09

 今シーズンのバイエルンは、ロッカールームの雰囲気がチームの成績に及ぼす影響を見る上で、興味深いサンプルになるだろう。元々“FCハリウッド”と呼ばれてきたように、スター揃いで、ドイツ国内の主要メディアに対しても影響力を持つ選手たちが集うバイエルンを率いるのは、簡単な作業ではない。

 とりわけ、クラブの首脳陣が象徴的な存在とみなす選手がいる場合、純粋にサッカー以外の面でのマネジメントを誤ると、監督自身のクビが飛ぶことになる。

ミュラーの扱いを誤ったコバチ

 今シーズンの二コ・コバチも、この難しさに苦しめられた監督の一人だ。1月29日の『シュポルト・ビルト』は、生え抜きのトーマス・ミュラーの扱いに失敗したことが、2019年11月のコバチ解任の引き金になったと伝えている。

 ミュラーはミュンヘンから車で1時間ほどのところにある小都市で生まれ、11歳の頃からバイエルンの育成機関で育った。まさに生粋の生え抜き選手で、2014年ブラジルW杯優勝の立役者でもある。もはや1974年西ドイツW杯優勝に貢献したバイエルン黄金期の国民的スターたちともひけを取らない実績を残している。元会長のウリ・ヘーネス、CEOのカールハインツ・ルンメニゲの秘蔵っ子であり、現会長のヘルベルト・ハイナーも「ミュラーのいないバイエルンを考えるのは難しい」と話す。

 そのミュラーを6試合ベンチに置き、「監督と選手」という関係をハッキリさせようとする“権力争い”に敗れたのがコバチだった、というのが同誌の見解だ。

名将はロッカールームもマネジメントする

 バイエルンはミュラーをクラブの象徴的存在とみなしており、ロッカールームでの存在感も圧倒的に大きい。キャプテンを務めるのはドイツ代表主将でもあるGKマヌエル・ノイアーだが、実際に“発言力が大きい”選手はミュラーだという。

 マンチェスター・ユナイテッドで長期政権を築いたサー・アレックス・ファーガソンは、ハーバード大学の講演においてチームマネジメントについて語っており、チーム中で“スター選手”と“その他の選手”を別カテゴリーに分けて対応していたことを示した。黒板には「各個人の間に生まれる弊害について、非常に優れたモデレーション(調整)を行う」のがマネージャーの役割だと書いている。

 このことから、この名将が監督としてピッチ上だけでなく、ロッカールームの状態にも目を光らせていたことがわかる。

ビッグクラブの監督に必要な資質とは?

 コバチの後を引き継いだハンジ・フリックは、ドイツ代表で長年アシスタントコーチを務め、バイエルンでは選手として5年間プレーした。目立つ選手ではなかったものの、100試合以上も出場していることから、チーム内での役割を読み取り、全うすることに長けた選手だったと予測できる。リーダーにありがちな“我の強さ”をコントロールし、選手との関係をうまく構築できていることが、クラブとの信頼関係を築けている要因だ。

 現在は名伯楽として名を馳せるユップ・ハインケスも、名ストライカーから指導者に転身した若かりし頃は、バイエルンの監督として苦労していた。オリバー・カーンやローター・マテウスなど個性的な選手たちから最も評価の高かったオットマー・ヒッツフェルトは、プロ選手としては際立った存在ではなかったが、現役のプロ選手として300試合近くプレーしながら大学で教師としての資格を取得するなど、集団を運営・管理する指導者としての実績を残す礎を築いている。

 ビッグクラブの監督を務める上で、クラブ組織の在り方を読み取り、ロッカールーム内のバランスを見極めることは不可欠だ。監督と選手の関係が、上位下位の縦関係のヒエラルキー構造ではなく、“部署”が事なるフラットな役割の違いであることを理解する必要がある。監督の仕事が、トレーニングや戦術などサッカーの専門的な能力で選手を納得させるだけではないことを、バイエルンの人事は示唆している。


Photo: Getty Images

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トーマス・ミュラーニコ・コバチバイエルン監督

Profile

鈴木 達朗

宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。