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久保裕也、MLSシンシナティへ。特別指定選手契約は期待の表れ

2020.01.10

文 シェフケンゴ(@shevkengo

 2017年1月にヤングボーイズからヘントに移籍した当初、久保裕也は他のアタッカー陣の不調もあってすぐにポジションを獲得し、約4カ月間で11ゴールを記録。翌17-18シーズンは、監督交代の影響もあって得点ペースは落ちたものの、プレーオフ1で1トップに固定され、11ゴールと2シーズン連続の二桁ゴールを記録。加入から1年半は攻撃の中心を担っていた。

新鋭台頭でドイツ移籍も苦戦を強いられる

 18-19シーズンはウクライナ代表FWロマン・ヤレムチュクとともにエースとして期待されたが、開幕2戦の低調なパフォーマンスによってベンチに降格。代わってチャンスを与えられたカナダの新鋭ジョナサン・デイビッド(当時18歳)が4試合5ゴールと大ブレーク。2列目でも当時19歳のジョージア代表MFギオルギ・チャクベターゼが台頭しており、彼らの活躍によって出場機会を失った久保はドイツ・ブンデスリーガに昇格したニュルンベルクに1年間の期限付き移籍をすることになった。

 リーグレベルではベルギーを上回るブンデスリーガへの移籍とは言え、戦力がヘントより格段に落ちるニュルンベルクでの挑戦は苦戦を強いられた。毎試合押し込まれる展開を強いられ、久保らがプレーする前線までボールがなかなか回らない。久保は22試合1ゴールに終わったが、チーム最高得点もFWイシャクとMFベーレンスの4得点と少なく、とても実力を発揮できるチームではなかった。ニュルンベルクはリーグ最小の26ゴール、わずか3勝で終わり、最下位で2部降格となった。

再起を図るもレジェンド復帰で暗転

 ニュルンベルクへの期限付き移籍期間が終了し、ヘントに復帰した久保。現地メディアから「今夏最初の補強」と評されるなど、シーズン前からの期待は大きかった。デンマーク人のイェス・トールップ監督は[4-3-1-2]を採用し、最前線の久保とヤレムチュク、セカンドトップのデイビッドとともに3トップを組み、プレシーズンマッチのAZ戦で1得点、UEFAヨーロッパリーグ予選2回戦のビートルル・コンスタンツァ戦では2得点を挙げ、今シーズンの復活を期待させた。

 二桁得点の実績がある3トップを擁するアタッカー陣への期待は開幕前から大きかったが、7月23日にハダーズフィールドから元ベルギー代表FWローラン・ドゥポワトルが3年ぶりに復帰すると、久保の立場は一変する。強靭なフィジカルから“ビースト”の愛称で親しまれ、14-15シーズンは初優勝の立役者となり、15-16シーズンにはUEFAチャンピオンズリーグのベスト16にも導いたレジェンドの復帰はサポーターを大いに喜ばせたが、ポジションが重なる久保にとっては不運な移籍だった。

 合流直後のドゥポワトルはオーバーウェイト気味で、開幕戦ではベンチスタートだったが、7月25日以降、得点から遠ざかっていた久保に代わってレギュラーに定着。自らゴールを決めるだけでなく、フィジカルを活かしたポストプレーでヤレムチュクやデイビットらの引き立て役にも回れる利他性を発揮し、チームの得点力をさらに向上させた。

選手層が厚いヘントで出番は減少

 今シーズンのヘントは公式戦33試合終了時点でヤレムチュクが17ゴール4アシスト、デイビットが13ゴール9アシスト、ドゥポワトルが14ゴール4アシストと、いずれもシーズン半ばで二桁得点を決めている。レギュラー陣がハイペースにゴールを積み重ねる現状では、久保に与えられるチャンスは必然と少なくなり、公式戦通算3ゴール2アシストに留まっていた。出場時間も535分と少なく、2019年10月6日のクルブ・ブルッヘ戦を最後にプレーしていない。

 国内タイトルと欧州カップ戦での上位進出を目標とするヘントは、中堅クラスのシントトロイデンと比較して約3倍となる4500万ユーロの年間予算を持つ「ベルギー6強」の一角であり、毎年のように各国から将来有望なアタッカーを獲得している。ある選手が数試合結果を残せないでいるとすぐに他の選手にチャンスが与えられ、チーム内競争も非常に激しい。久保とポジションを争ったライバルはスペインやイングランドの名門クラブからも注目されており、ドイツのメディア『Transfermarkt』によると、ヤレムチェクは推定市場価値が1200万ユーロ、デイビットは2000万ユーロまで跳ね上がっている。

 今シーズンのヘントは前半戦を3位で終え、ELもボルフスブルク、サンテティエンヌらを抑えてグループリーグを無敗の首位で突破している。久保が2017年に加わった当初とは、もはや別のチームに変貌している。欧州主要5大リーグの中位に匹敵する戦力を有するヘントでは、ベルギーリーグで結果を残す以上に、チーム内のレギュラー争いに勝ち続ける方が難しい。

“ベッカムルール”でシンシナティへ

 1月9日、久保のアメリカMLSのFCシンシナティへの移籍が決定した。日本人選手として初めて「特別指定選手(Designated Player)」としての加入となる。

 降格のないMLSでは、リーグ全体の戦力バランスを保ち、チーム間の戦力格差が生じないよう年俸の上限制度が導入されている。しかし、ビッグネームの積極的な獲得を促すために、2007年に特別指定選手制度が導入され、各チーム3人まで年俸上限の範囲外で獲得できる。デイビッド・ベッカムが適用第1号としてLAギャラクシーに加入したことから、通称“ベッカムルール”と呼ばれている。過去にはティエリ・アンリやズラタン・イブラヒモビッチなど数々のビッグネームが特別指定選手としてMLSでプレーし、現在はナニ(オーランド・シティ)、カルロス・ベラ(LAギャラクシー)、ヘンクで伊東純也の同僚だったアレハンドロ・ポスエロ(トロントFC)などが登録されている。

 シンシナティはオランダやベルギーのクラブで指導者を歴任し、13-14シーズンにはズウォレをKNVBカップ優勝に導いたロン・ヤンスが昨年7月から監督を務めている。現役時代はマツダ(現サンフレッチェ広島)でもプレーしたヤンスは日本人選手を高く評価する指導者の一人で、スタンダール・リエージュではGK川島永嗣、フローニンゲンではテクニカルディレクターとして堂安律や板倉滉をサポートしており、今回の久保の獲得も監督の意向によるものだという。

 MLS参入初年度だった2019シーズンは最下位で終了したシンシナティ。最下位クラブでの再スタートは険しい道程となるが、戦力格差が小さいMLSでは久保の活躍次第でチームが躍進する可能性も十分に有り得る。特別指定選手としての獲得はクラブからの高い評価の現れであり、選手層の厚さによってチャンスに恵まれなかったヘントとは違い、重責を担うことになる。1年半の不遇からの復活に期待したい。


Photo: Getty Images

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Profile

シェフケンゴ

ベルギーサッカーとフランス・リーグ1を20年近く追い続けているライター。贔屓はKAAヘントとAJオセール。名前の由来はシェフチェンコでウクライナも好き。サッカー以外ではカレーを中心に飲食関連のライティングも行っている。富山県在住。