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ベン・ホワイト。フットボールの試合を見ない世界有数の選手

2024.03.08

 今季のプレミアリーグは佳境を迎え、優勝争いも上位3チームに絞られた。残り11試合の状況で、2ポイント差の中にリバプール、マンチェスター・シティ、アーセナルの3チームがひしめく大混戦。そして今週末にはリバプールとシティの首位攻防戦が繰り広げられる。世界中のフットボールファンが注目する大一番だが、そんなライバル勢のビッグゲームを見ないかもしれない選手がいる。アーセナルのDFベン・ホワイト(26歳)である。

家に帰ったらフットボールを除外

 ホワイトは“サッカーが好きじゃない選手”として知られている。過去のインタビューで「僕はフットボールの試合を見ない。子どもの頃から見てこなかったし、今も見ない」と言い放って周囲を驚かせた。無論、本当に嫌いならばアーセナルのレギュラーとして活躍することなどできない。ミケル・アルテタ監督もホワイトの練習姿勢について「まるでUEFAチャンピオンズリーグ決勝でプレーするかのように練習する」とドキュメンタリー番組内で称えたことがある。

 それでも、スタジアムや練習場を離れて家に帰れば、完全にフットボールをシャットアウトするという。「自分は切り替えるのが得意なのさ」とホワイトは英紙『The Guardian』のインタビューに語っている。「皆さんからは、フットボールが好きじゃない選手と思われているよね。家に帰ったら、もうフットボールは頭の中にないんだ。普通の人と同じようにリラックスするのさ」

 しかし、ひとたび練習場に足を踏み入れれば、監督が語ったように強度の高いプレーを繰り広げる。彼は生粋の負けず嫌いなのだ。Unoのようなカードゲームの時でさえ本気になるという。「どんなことでも勝ちたいんだ。家で妻と一緒にいろいろなゲームをするけど、決して妻に勝たせない。僕は子どもの頃からいつもアグレッシブにプレーし、いつも勝とうと必死だったよ」

見なくても戦術理解度は高い

 2021年にアーセナルに加入したホワイトは、アルテタ監督が求める複雑な戦術のなかでカギを握るSBとしてプレーする。どうやら、サッカーを見なくても戦術理解度を高めることは可能なようだ。その点についてホワイトは監督を称える。

 「いつ、どこにポジションを取るべきか、たくさん指示を受けたんだ。ミケル(アルテタ)はシンプルに教えてくれるので、彼のような監督がいれば比較的簡単なのさ。大半の選手がこのポジションでプレーできるはずさ。そもそもアーセナルでプレーするためにはテクニック、強さ、スピードを兼ね備えている必要がある。だから、うちにいる選手の大半はこのポジションでプレーできるはずさ」

 ホワイトは今季アーセナルがゴールを量産しているセットプレーでも大事な役割を任されている。相手GKの前に立ってブロックするのだ。当然、ゴール前は肉弾戦になるが、勝つためなら迷わず体を張るという。

 「いろいろなことが起こるよ。足を踏まれたり、肘打ちがあったり。でも気にしない。僕は相手の前に立ち、どうなるか様子を見るのさ。ネットに投稿される映像を見ると、かなり激しい。それも勝つためなら何でもやるという話につながるのさ」

小さなことの積み重ねが結果に繋がる

 昨季のアーセナルはプレミアリーグで248日間も首位に立ちながら、終盤にシティに追い抜かれて優勝を逃したが、今季は追いかける立場だ。周囲は優勝争いの話で盛り上がっているが、ホワイトは自分たちができることに専念し、小さなことにこだわるという。その小さなことが積み重なって結果になるという。

 「失うものはない」とホワイトは話す。「ここ数試合のように自分たちのベストを尽くすだけ。新たに加入した選手たちもビッグゲームで違いを生み出している。僕らはチームとして大幅に成長した。もし昨季と同じ状況になったら、今回は全く違う結果になるはずだ」

 サッカーの試合を見ないベン・ホワイト。それでも監督が求める戦術を正確に理解し、アーセナルを20年ぶりの栄冠に導くかもしれない。


Photo: Getty Images

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アーセナルベン・ホワイトミケル・アルテタ

Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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