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恒例のチャリティーマッチ開催。ジーコのサッカー人生を賭けた使命とは

2023.01.02

 2022年12月28日、リオデジャネイロのマラカナンスタジアムでジーコのチャリティーマッチが開催された。18回目を数えるこのイベントは2004年にスタートして以来、パンデミックで開催不可となった2020年を除いて毎年行われている。5万人以上の観客を集め、ブラジルサッカーの年中行事の1つとして認識されているほどだ。その収益は経済的に苦しい子供たちのための施設などに届けられる。今回も6万356人がこのフェスティバルで歓声をあげた。

注目の新星も活躍

 W杯カタール大会に伴う各国リーグのスケジュール変更によりヨーロッパでプレーする現役選手たちが参加できなかったものの、スターの存在には事欠かない。

 今回の目玉の1人は、先日レアル・マドリーとの契約を締結したばかりのエンドリッキ(パルメイラス)だった。3ゴールを決めて盛り上げた彼は、会場に到着した時には少し緊張気味にも見えたが、試合後は満面の笑みだった。

 「僕の人生において、この試合に参加するチャンスを与えてもらえたことをとても感謝している。初めてマラカナンでゴールを決めることができたし、僕もみんなもすごく楽しんだ。ジーコもとても楽しそうだったよ。そして、一番大事なのはサポーターのあの喜びだよね」

エンドリッキは3ゴールの活躍でイベントを大いに盛り上げた

 エベルトン・リベイロ(ブラジル)やジョルジアン・デ・アラスカエタ(ウルグアイ)ら、フラメンゴに所属する現役の代表選手たちも、ゴールにアシストにと活躍した。

 この試合で監督に初挑戦したダビド・ルイス(フラメンゴ)は「僕らのアイドルであるジーコの試合に参加できるのは、とても大きな喜びなんだ。みんなに理解して欲しいのは、人とともに生きる人生は、1人で生きるよりもっと素敵で楽しいものだということ。みんなにキスを送りたい。2023年に幸多かれ!」と新年のメッセージを送ってくれた。

多彩な面々が盛り上げる

 このチャリティーマッチの常連たちも顔をそろえた。元ブラジル代表CBのフアンやアウダイール、MFマウロ・シウバや、ジーコと同世代のSBジュニオールも健在だ。それぞれにジーコとの深い友情について語ってもらった際には、このイベントに関しても「僕は第1回から参加している」「僕が出なかったのは1年だけ」など、誇らしく語る。

 鹿島アントラーズで活躍したアルシンド、サントス、モーゼルも、このチャリティーマッチには欠かせない。アルシンドはもちろん「トモダチナラ、アタリマエ!」と決め台詞を発してくれた。

 フラメンゴで現役生活を終えたばかりのジエゴは、再び華麗なプレーを見せてサポーターを歓喜させた。

 「マラカナンに集まるサポーターはいつでもスペクタクル。このイベントの一端を担えるのは本当にうれしいことだ。しかも、尊い理由でね。ジーコのイニシアチブにおめでとうを言いたい」

 そのジエゴがペナルティエリアで倒され、PKをもらった時には、すぐにボールをジーコに渡してキッカーを頼んだ。ジーコはおそらく「君が蹴れば良いのに」とでも言ったのだろう、ジエゴが説得して、ペナルティマークに引っ張っていく微笑ましい様子も見られた。

ジエゴ(左)からPKキッカーを譲られるジーコ。キックは相手GKに阻まれた

 ただし、ジーコが蹴った時、相手の元ブラジル代表GKカルロス・ジェルマーノは花を持たせようなどと手加減せず、現役さながらに飛びついて弾き出してしまい、選手たちに盛大に突っ込まれて場を盛り上げた。

 彼は、決まればビューティフルゴールになったはずの、ジーコの見事なヒールキックによるループシュートもスーパーセーブしていた。

手術を乗り越え、自らゴールも

 そういう楽しい場面が見られたのも、観客にとっては幸せなことだ。そして、もちろんジーコ自身にとってもそう。彼は2021年7月に股関節の手術をし、普通に歩くこともままならなかった。その年のチャリティーマッチでは、それでも感謝を込めて6分間だけピッチに立った。そして2022年2月に人工関節を入れる手術に踏み切り、現役選手さながらのハードなリハビリを続けてきたのだ。

 ジーコは試合後、語っていた。

 「私自身、1年半前は再びボールを蹴ることができるかどうかわからなかった。手術を受けた時は、サッカーどころか生活の質を心配していたほどだからね。しかし、すべてうまくいった。看護士との賭けに負けたよ。彼は2月の時点で、僕がこの12月のチャリティーマッチでプレーできると言っていたからね(笑)。大きな喜びとともに、その賭け金を払おう」

 ジーコはそれでも足を引きずっていたが、後半も残り10分間を切ったところでゴールを決めた。GKが飛び出しているところに、ふわりとしたシュート。その瞬間、スタジアムが大歓声に包まれた。

 試合後、今回も再び大成功を収めたチャリティーマッチを総括してもらった。

 「このイベントも18年目を迎えて、サポーターやメディア、スポンサーに信頼されていることはわかっている。だから我われにとっても遊びなんかじゃない。ブラジルサッカーで歴史を築いた選手たちとともに、喜びを持って人々を魅了しようとしている。そのために参加してくれる仲間たちがいることをうれしく思う。それに、運営メンバーたちの闘志と決意、ここに来てくれたサポーターのみんなの力が1つになって、素晴らしいフェスティバルができた。このマラカナンで、この素晴らしい夜に起こったことすべてに感謝するばかりだよ」

「サッカーができるのは幸せなこと」

 毎年のことだが、この試合の後、ジーコの話を聞くためには、軽く2時間は待つことになる。彼がスタジアムを一周し、スタンドに居残って待つサポーターの一人ひとりに対して写真やサインに応じているからだ。イベントを成功に導いてくれるのが観客だから、ジーコはその一人ひとりに感謝を込めて応対する。

試合後のジーコは、丁寧に時間をかけてファンサービスを行った

 世界では、戦争やパンデミックなど、今なお平和を妨げる問題が存在し続けている。そんな中でも、歓喜に満ちた時間をつくり出すジーコの言葉を、最後に紹介したい。

 「いつでも喜びをもたらそうとしている。それが、サッカーを始めた時からの私の使命だ。サッカーをプレーできるというのは、とても楽しく、幸せなことだからね。それがマラカナンであれ、ストリートであれ、私の生まれ育った貧しい地区キンチーノであれね。だから、サッカーを通して何らかの正しい仕事をし、レガシーを残したいんだ。近年、我われが過ごしてきた難しい時期のすべてを残念に思う。だからこそ一人ひとりが家族の愛情を感じられるのは素晴らしいことだ」

 「ここでは親御さんたちが子供たちをスタジアムに連れてくることができる。試合の後、1時間が経っても彼らはここに残っている。それでも何も問題は起こらない。もちろんクラブ間のライバル意識もない。そんなふうに、このフェスタに色々な喜びを凝縮できたことを心から幸せに思い、感動しているよ」

「サッカーをプレーできるのはとても楽しく、幸せなこと」と語ったイベント後のジーコ


Photos: Kiyomi Fujiwara

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エンドリッキジーコジエゴダビド・シルバ

Profile

藤原 清美

2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。

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