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今夏最高の補強と評価。名門復活に向かうスタンダールを牽引する川辺駿

2023.11.09

 活躍の場をスイスからベルギーへ移した日本代表MF川辺駿に注目が集まっている。2021年にサンフレッチェ広島からスイスのグラスホッパーへと海外移籍を果たし、2023年からベルギーのスタンダール・リエージュ(以下スタンダール)に移籍。ここまで13試合4得点と大車輪の活躍を見せている。

開幕からレギュラーに定着

 アンデルレヒト、クルブ・ブルッヘと並ぶベルギー屈指の名門スタンダールはリーグ優勝10回を誇るが、2008-09シーズンを最後に10年以上、優勝から遠ざかっている。

 近年はトップ4にさえ入れず、欧州カップ戦にも出場できていない名門は、復活をかけて昨季にクルブ・ブルッヘをUEFAチャンピオンズリーグでベスト16に導いたカール・フーフケンス監督を招聘。サウサンプトンからマリ代表FWムサ・ジェネポ、インテルからベルギー代表DFジーニョ・ファンフースデンを復帰させるなど、積極的な補強を行った。川辺もその1人として、保有元のウォルヴァーハンプトンから130万ユーロ(約2.1億円)で、スタンダールでは川島永嗣、小野裕二、永井謙佑に続き、歴代4人目の日本人選手として加わった。

 当初、期待値はさほど高くなく、ベルギーのスポーツ紙でもレギュラーから外した予想も多かった。しかし、プレシーズンでフーフケンス監督からの信頼を得ると、[3-5-2]の開幕スタメンに名を連ねた。

 開幕6試合で3分3敗と最悪のスタートを切ったスタンダールだったが、第7節のオイペン戦では、前半終了間際に川辺がコートジボワール人FWウィフルレッド・カンガのゴールをアシストすると、続けて自身が左足でゴールを決め、シーズン初勝利に大きく貢献した。

「クラシコ」で殊勲のゴール

 第11節ではアンデルレヒトと対戦。ベルギーのナショナルダービーであり「ベルギーのクラシコ」と呼ばれる一戦だ。数多くの激闘と事件が巻き起こる国内最高の熱狂を誇る試合に川辺はスタメンで出場した。

 今季好調のアンデルレヒトに序盤から押し込まれ、デンマーク代表のカスパー・ドルベリ、アンドレス・ドレーヤーのゴールによって、前半を2点ビハインドで折り返した。スタンダールのホーム、スクレッサンは大ブーイングにさらされ、発煙筒の投げ込みさえいとわないような不穏な空気になった。

 後半は目が覚めたようにスタンダールのペースに。52分にコロンビア人MFスティーブン・アルサテがゴールを決めると、55分に右サイドのアメリカ人MFマーロン・フォッシーのパスを受けた川辺が放ったシュートが、アンデルレヒトの守護神カスパー・シュマイケルの守るゴールを突き破り、同点ゴールを決めた。更にスタンダールは61分にDFネイサン・エンゴイがゴールを奪い、3-2の大逆転勝利を収めた。

 不甲斐ないときはチームへのブーイングもためらわず、時には暴動も起こし、数々の事件を起こしてきた熱狂的で手厳しいサポーターも、宿命のライバル相手の大逆転劇を演出した川辺には絶大な信頼を寄せている。

今夏最高の補強と評価

 ベルギー紙『Le Soir』は、今季最高の補強として川辺の名前を挙げている。

 スタンダールのスポーツディレクターのファーガル・ハーキンは「ハヤオは日本でプレーしている時から我われのスカウトが注目していた。スイスでの2年間によってベルギーで貴重な戦力になれるとスカウトから推薦されており、映像を見て、私たちが求めていた選手だと確信した。戦術眼、パス、得点力は多くのゴールを生み出してくれると思っていたが、今季が開幕し、すでに多くの決定的なパスに成功しているのは驚きだ。タイミングとボールスピードはいつも完璧だ」と語る。

 近年は極度の財政難によって破産の危機もあったスタンダール。2021年からオーナーとなったアメリカ資本の777パートナーズは、大型補強を行わない方針で、今夏のマーケットで費やした移籍金総額は約700万ユーロ(約11億円)と控えめだ。その中で130万ユーロの移籍金で大きな成果を出している川辺は、スタンダールの財務を助ける選手としても評価は高い。広島出身の28歳のMFは名門復活の大黒柱として期待がかかる。


Photo: Getty Images

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アンデルレヒトグラスホッパークルブ・ブルッヘスタンダール・リエージュ川辺駿

Profile

シェフケンゴ

ベルギーサッカーとフランス・リーグ1を20年近く追い続けているライター。贔屓はKAAヘントとAJオセール。名前の由来はシェフチェンコでウクライナも好き。サッカー以外ではカレーを中心に飲食関連のライティングも行っている。富山県在住。

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