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ブラジルに訪れた試練。ネイマール、受難の2試合とケガ克服への長い道のり

2023.10.31

 10月の南米予選2試合は、ネイマール(アル・ヒラル)にとって、非常に厳しいものとなった。

 9月には、2月に負った右足首のケガを乗り越えて今年初めて代表に合流、南米予選第1節ボリビア戦で2ゴールを決めて代表での通算ゴール数79に達し、ブラジル代表歴代最多得点記録を塗り替えたばかりだった。

ポップコーンを投げつけられる

 今回も「良い試合をして勝つことを、とても楽しみにしているよ。ブラジル代表としてプレーすることは、本当に幸せなことなんだ」と笑顔で語っていた。

 10月の1試合目はホームでのべネズエラ戦。3日間しかない練習日のうち、1回は最後の30分間が、開催地クイアバーのサポーターに公開された。多くの声援の中でも、特にスタンド全体のネイマールコールは、繰り返しスタジアムに響き渡った。ネイマールも練習後はビニシウス・ジュニオールやロドリゴ、リシャーリソンらを連れて、サポーターに手を振りながらスタジアムを1周した。

 ホテル前でも、チームバスに乗り降りする際に、待ち受けるサポーターと写真を撮ったり、サインをしたりと、ネイマールはいつものように、最も積極的に応対していた。

練習後にピッチを1周し(上)、ホテル前でサインに応じるなど熱心にファンサービス(Photos: Kiyomi Fujiwara)

 しかし、試合で事件が起こった。引いて守りを固めるベネズエラの戦い方と、相手GKの数々の好セーブに苦しみながらも、49分にネイマールのCKから、CBガブリエウ・マガリャエンス(アーセナル)がゴール。しかし84分に失点し、1-1で試合を終えた。

 スタジアムの大歓声は静まり、一部ではブーイングが起きた。そして、ピッチから選手の入り口付近に帰ってきたネイマールに、スタンドからポップコーンを袋ごと投げつけたサポーターがいたのだ。中身は飛び散り、その袋がネイマールの頭に当たった。

 投げたのはただ1人の観客だが、熱烈な歓声をあげていた観衆の中には、選手も1人の人間であることを忘れてしまう人間がいるということだ。非常に衝撃的な瞬間だった。ネイマールは投げた観客に怒鳴ったが、すぐにチームメイトたちに引っ張られて廊下へ入っていった。

 試合後、取材エリアに出て来たネイマールは、この一件について静かに、しかし強い言葉で語った。

 「すごく悲しいよ。僕はここに一番愛すること、国のためにサッカーをプレーするために来たんだから。僕らはベストを尽くしたけど、時には結果が出ないこともある。それは、サポーターが期待していたこととは違うけど、あのサポーターが投げてきた時には、僕もすごく神経質になった。ああいう態度を、僕は非難するよ。サッカーにとっても、1人の人間である上でも、すごく良くないことだ。彼には教養がないし、自分の子どもにできるだけ良い教養を与えることもできないだろう」

ポップコーンを投げつけられたことについて「すごく悲しい」とコメント(Photo: Kiyomi Fujiwara)

 翌日にはクイアバーを去る選手たちを見送りに、多くのサポーターがホテル前に集まった。おそらく出発時間も考慮したのだろう、そのままバスに乗ってしまった選手も多かった中で、ネイマールは足を止めた。前夜のスタジアムで何があろうと、いつもの通り、サポーターに応対するためだ。持って来たボールにサインをしてもらった幼い少年が、感動で大泣きしていた。

29回目にして初となる膝のケガ

 そして、運命のウルグアイ戦だ。相手のハードな守備に対し、打開しようとしたネイマールは、43分のドリブルの際、相手MFニコラス・デ・ラ・クルスに当たられた後の最初の一歩で、左足がピッチにつくと同時に倒れた。そして、手で顔を覆って泣きながら担架で運び出されたのだ。

 カゼミロ(マンチェスター・ユナイテッド)は試合後「彼にはケガが続いている。ケガ、ケガ、復帰して試合勘を取り戻したら、次のケガ。今回は何でもないことを願っている。僕らにとって非常に重要な選手だし、何よりも僕らは彼をすごく愛しているからね」と語っていた。

 ロッカールームから松葉杖をつきながら、深刻な表情で出てきたネイマールは、それでもなお、待ち受けていた幼い少年のサインに応じていた。

 そして翌日、左膝の前十字靱帯断裂と半月板断裂という検査結果とともに、回復には少なくとも半年かかることが発表された。

 ブラジルのサッカー情報サイト『グローボ・エスポルチ・ドットコム』が、ネイマールのケガの歴史を掲載していた。2013年にバルセロナ移籍でヨーロッパに渡ってからここまで、欠場1試合で済んだものも含め、また、1度のおたふく風邪と、1度の新型コロナ感染も含めて、今回が29度目の負傷と記されている。

 足首を含む右足と、左腿のケガが7回ずつと最も多い。2014年ワールドカップでは、コロンビア代表フアン・スニガから受けたファウルにより、あと2cmズレていたら車椅子生活になっていたというケガを負ったこともある。

 ドリブルやフェイントで仕掛けていく彼のプレースタイルにより、相手の守備やファウルによるケガは非常に多く、常に心配されてきた。そして今回は、彼にとって初めての膝のケガ。そして、経歴の中でも最も大きなケガの1つとなってしまった。

エースの長期離脱はジニス監督(右)にとっても大きな打撃だ(Photo: Vitor Silva/CBF)

ブラジル代表にとって大打撃

 ケガの直後、ネイマールがSNSで発信した言葉からは、落胆した様子が読み取れる。

 「ものすごく悲しいし、最悪の時を過ごしている。僕は強い。それは分かっているけど、今回はもっと、家族や友達を必要としていくはずだ。ケガや手術をするのは簡単じゃない。4カ月かけて回復した後に、すべてを再び経験することになるのを想像してほしい。神を心から信じている。僕の力を更新できるよう、神の手に委ねたい。僕を支える、愛情のこもったメッセージをありがとう」

 移籍したばかりのアル・ヒラルからは、監督やチームメイトからの激励のメッセージビデオが公表され、FIFAからクラブに補償金が出ることが報道されている。

 もちろん、ブラジル代表にとっても非常に大きな打撃だ。若手も育ってきているとは言え、彼がいるといないとでは、組織プレー、個人技、相手に与える物理的・精神的影響など、すべてが違う。

 治療の流れや回復具合については、今後、ブラジルサッカー連盟やアル・ヒラル、そして彼自身や事務所から、その都度発表されていくことだろう。ネイマールにとっての、長い戦いが始まる。


Photos: Kiyomi Fujiwara, Vitor Silva/CBF

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ウルグアイ代表カゼミロネイマールビニシウス・ジュニオールブラジル代表

Profile

藤原 清美

2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。

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