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クリスタルパレスの補強に一役買う「監督の知名度」「立地」「クラブ愛称」

2022.08.06

 新シーズンの開幕を迎えるイングランドのプレミアリーグでは、やはり今夏も移籍市場が大忙しだ。世界最高峰のリーグで戦い抜くために、各クラブが戦力強化に奔走している。

 とはいえ、必ずしも狙った選手を獲得できるわけではない。とりわけ、資金力で劣る中堅以下のクラブは、試行錯誤しながら補強を進めないといけない。その際に、新戦力を口説く上で重要になるのが監督の“評判”だが、その点においてパトリック・ビエラ体制2年目を迎えるクリスタルパレスは恵まれているだろう。

誰もが知る元スター選手

 昨季からチームを率いるビエラは、言わずと知れた元スター選手だ。アーセナルで無敗優勝を含む3度のプレミアリーグ制覇に貢献し、フランス代表としてもFIFAワールドカップとEUROで頂点に立った。プレミアリーグで選手協会が選出するベストイレブンに6シーズン連続で選ばれた偉人であり、昨年から始まったプレミアリーグの殿堂にも選ばれている。どんなに若い選手でも、ビエラの名前を知らない者はいない。

 今夏の移籍市場でクリスタルパレスに加入した選手たちが、移籍の決め手にこぞって挙げたのも、やはり彼の名前だった。例えば、バイエルンから850万ポンド(約14億円)で加入したアメリカ代表DFクリス・リチャーズ(22歳)は「監督の青写真」に魅力を感じたという。「パレスのプロジェクトに心を惹かれた。若い選手が多いしね。そして監督のビジョンが選ぶ決め手になったよ。監督はクラブの闘争心について話してくれた。それから若い選手が多いので、チームのポテンシャルについてもね。監督のプランがうまくいくように思えたのさ」

 ダービー(イングランド3部)からやってきた18歳の逸材も、ビエラに対して畏怖の念を抱く。チェルシーやアーセナルの下部組織に在籍していた経歴を持つFWマルコム・エビオウェイは、昨季イングランド2部のダービーでプロデビュー。シーズン後半からはレギュラーに定着し、チームが3部に降格するなかで強烈なインパクトを残した。チームを率いていたウェイン・ルーニーも185cmの大型ウィンガーを高く評価しており、マンチェスター・ユナイテッドへの移籍の噂が出たほどだ。しかし、彼は世界的なビッグクラブではなくパレスを選んだ。

 「僕は昔からロナウドに憧れていた」と語るエビオウェイ。さらにダービーでお世話になった元ユナイテッドのルーニーについても「彼と話す時は少し緊張したほどさ」と明かしており、ユナイテッドを移籍先に選んでもおかしくなかった。しかし、緊張を覚えるのは「パレスの監督と話すときも同じだろうね」と述べて「監督とはZoomで良い話し合いができたんだ」と振り返った。

 新戦力のGKサム・ジョンストン(29歳)もビエラの手腕に惹かれたそうだ。イングランド代表にも名を連ねるジョンストンは、昨季いっぱいでウェストブロミッチとの契約が満了。フリーエージェントとなった同選手は多数のクラブから誘われたはずだが、今冬のW杯出場を目指すためにパレスを選んだ。そして、ビエラがパレスに取り入れたポゼッションサッカーにも魅力を感じたという。「ビエラ監督に会ったよ。貴重な体験だった。監督については素敵な噂を耳にするので、彼の下でプレーするのが楽しみさ。昨季、ビエラ監督はポゼションベースのサッカーをうまく取り入れたと思うよ」

「可能な限り高みを目指したい」

 そんな指揮官の影響を最も受けた新戦力が、フランスのランスから加入したマリ代表MFシェイク・ドゥクレ(22歳)である。守備的MFのドゥクレは、2020年にランスをリーグ1昇格に導くと、過去2シーズンはチームの主軸としてフランス1部で2年連続7位に貢献。そして今オフ、クラブ歴代4位となる移籍金2100万ポンド(約34億円)でパレスにやってきたのだ。

 移籍についてドゥクレは、自身と同じポジションで歴代最高プレーヤーの呼び声高い監督の存在が「重要な決断材料だった」と明かす。「監督は『俺が成長させてやる』と言ってくれたんだ。『以前からお前のプレーを知っているし、お前に何が必要か分かっている』ってね。確かに、僕のプレーはまだ完璧じゃない。だから謙虚に努力するだけさ。監督からいろいろなことを学んで、可能な限り高みを目指したい」

ビエラに「お前を成長させてやる」と口説かれ移籍を決断したシェイク・ドゥクレ

 無論、ビエラだけの手柄ではない。移籍の決め手は監督以外にもあるという。例えばクリス・リチャーズは、加入後の最初のインタビューでパレスの絶対的エースであるFWウィルフレッド・ザハについて聞かれると「僕は子供の頃からザハのプレーを見てきた。最初はパレス、そのあとはユナイテッドでもプレーしていたね」と憧れを口にしたのだ(インタビュアーに聞かれて咄嗟に答えたに過ぎないと思うが)。

 一方で、18歳のエビオウェイは「南ロンドンで生まれ育ったので、そういった意味でも(パレス移籍は)大きいね」と、今季プレミアリーグに所属する7つのロンドン勢のうち、唯一“南ロンドン”を拠点とするパレスへの入団を喜んだ。

 そしてドゥクレに関しても、監督以外にパレスを選んだ決め手があるという。それが“イーグル(ワシ)”の存在である。パレスのエンブレムには“ワシ”があしらわれており、チームの愛称は「ジ・イーグルス」で、試合前にはスタジアム内で本物のワシを飛ばすことでも有名だった。実は、ドゥクレのマリ代表チームのエンブレムにも“ワシ”があしらわれており、チームの愛称は「ル・エーグル」(イーグルの意)なのだ。「僕は運命を信じる」とドゥクレ。「だからパレス以外のクラブは選べなかったよ。僕は子供の頃からずっと“イーグル”だからね!」

 「監督」「ワシ」「立地」。様々な手段で選手を口説き落とすパレスに注目したい。


Photos: Getty Images

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ウェイン・ルーニークリスタルパレスパトリック・ビエラ移籍

Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。