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「117位」と指揮官の訃報からの復活劇、ウェールズが64年ぶりにW杯へ

2022.06.09

 今月5日に行われたワールドカップ欧州予選プレーオフで、ウェールズがウクライナを下して年末のワールドカップ本大会出場を決めた。彼らがW杯に出場するのは史上2度目。1958年のスウェーデン大会以来、64年ぶりの快挙となる。

スタジアムに6300人

 ウェールズは実に長い道のりを歩いてきた。W杯の開催地がカタールに決定した2010年12月、彼らは本大会出場を狙えるような状況になかった。当時はFIFAランク112位。その半年後の2011年8月には、3万3000人を収容するカーディフ・シティ・スタジアムに6300人しか観客が入らず、親善試合でオーストラリアに1-2の敗戦を喫した。

2011年8月のオーストラリア戦では、わずか6300人の観客しか集まらなかった

 その前年から数えて8試合で7敗目を喫したウェールズは、同国史上最低の「117位」にまで低迷し、フェロー諸島や北朝鮮、ハイチよりも下の順位にいた。ヨーロッパの中では、下から8番目の順位だったのだ。

 だが、それがどん底ではなかった。代表チームの改革を任された当時の指揮官、ギャリー・スピードが同年11月に42歳の若さで他界したのである。自ら命を絶ったとされる監督の訃報に、英国中が悲しみに打ちひしがれた。ウェールズは、そんな挫折から立ち上がってみせたのだ。2016年のEUROでは初出場にしてベスト4に入る快進撃を見せると、昨年のEURO2020でも見事に決勝トーナメントに進出した。

 今回のプレーオフでも、世界情勢を鑑みて恐らく世界中の人がウクライナを応援したはずだが、ウェールズの国民は愛するチームを信じていた。その期待に応えて母国を1-0の勝利に導いたのは、スピード監督の下で11年前のオーストラリア戦にも出場したギャレス・ベイルであり、GKウェイン・ヘネシーだった。

クラブチームのような団結力

 期待されていない時こそ結果を残すのがウェールズなのかもしれない。今季ベイルはレアル・マドリーで構想外となりクラブを退団。MFアーロン・ラムジーもユベントスで出番が限られ、シーズン後半はレンジャーズにローン移籍した。GKヘネシーは所属するバーンリーで控えに甘んじ、プレミアリーグでは2試合しか出場できなかった。

 それでも彼らはウェールズのユニフォームに袖を通すと変貌を遂げる。チームを率いるロブ・ページ監督が「選手たちは単なる同僚ではなく、親友同士なんだ」と結束力を称えるように、ウェールズはまるでクラブチームのような団結力を発揮する。ウクライナ戦でも、攻撃を牽引する主将ベイルが直接FKから相手のOGを誘発して先制ゴールをマークすると、ラムジーも中盤から敵ゴール前まで飛び出してチャンスに絡んだ。そしてGKヘネシーが幾度となくピンチを救ってみせた。

 ウクライナは、今回の欧州予選で無得点に終わったチームとしては最多となる9本の枠内シュートを放ったが、その度にヘネシーが立ちはだかった。83分にはFWアルテム・ドフビクにフリーでヘディングシュートを放たれるも横っ飛びで見事に止め、「これまで見てきたGKの中で最高のパフォーマンス」とUEFAチャンピオンズリーグ決勝でベンチからGKティボー・クルトワの好セーブを見届けたベイルに言わしめた。

一緒なら、より強い

 試合後、ページ監督はW杯出場の快挙を今は亡き“先輩”に捧げた。「12、13年前にギャリー・スピードが始めたことなんだ。だから、この勝利をギャリーに捧げたい。彼が今のウェールズの文化をスタートさせ、環境を変えてくれたんだ。我われはもうEUROやW杯への出場を夢見なくなった。今は出場できると信じて戦える。それが一番の変化だろう」

 ベイルは「117位」からの冒険を「あの状況から2度のEUROと今回のW杯出場だから、クレイジーな道のりだったよ」と振り返る。一方でページ監督は、定期的に国際舞台に出場できるようになったことについて「若い選手たちを甘やかしすぎかもね!」と冗談を飛ばす一方で、国の変化を実感している。

 「私が子供の頃、やるべきスポーツはサッカーではなくラグビーだった。でも時代は変わったと思う。今はサッカーがNo.1スポーツだと思う」

 本大会ではイングランド、アメリカ、イランと同じグループBに入るウェールズ。64年ぶりの大舞台でも「Together Stronger(一緒なら、より強い)」を合言葉に躍動を誓う。


Photos: Getty Images

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アーロン・ラムジーウェールズ代表ウクライナ代表ギャリー・スピードギャレス・ベイル

Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。