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ブラジル代表チッチ監督、ウクライナの現状について言及する

2022.03.16

 3月下旬のワールドカップ南米予選2試合(チリ戦、ボリビア戦)に向け、3月11日、チッチ監督によるブラジル代表招集メンバー発表会見が行われた。初招集の選手、久々にチャンスを得て復帰する選手、今後のワールドカップ準備のプランなど、いつも通りチーム作りに関する様々な質問に丁寧に答えるチッチ。

 そんな中、ブラジル代表の話からは逸れるものの、戦場となったウクライナから命を守るために家族を連れて脱出し、今、サッカーができる環境を取り戻そうとしているブラジル人選手たちに向けて、チッチからメッセージを送るよう頼んでみた。

「人間として嘆くしかない」

 チッチはこちらの質問を聞いている間、考えを巡らせる表情を見せていた。彼は旧知のジャーナリストから、発言には注意した方がいいと言われたという。

 「私はサッカーのことしか話さないわけじゃないからね。より広い範囲の社会的なことも話すから」

 そして、今回のロシアのウクライナ侵攻についてもキッパリと答えてくれた。

 「私のことを知っている人は、私がいかにヒューマニストであるかを知っている。だから、そういう立場で話そう。私には戦争を理解するための根拠もなければ、それを考えることもできない。理解できないし、議論もしたくない。その余地もない。まず、人間として嘆くしかない。争いを解決するには他にもやり方があるのに、これは考えられ得る中でも最もレベルが低い方法だ。それが私、アデノール(チッチの本名)という60歳の人間としての思いだ」

 チッチは帰国してきたブラジル人選手たちの今後についても言及した。FIFAは現在のウクライナ情勢を受けて、ウクライナとロシアのクラブに在籍する外国籍選手や監督が、少なくとも両国のシーズン終了となる6月30日まで、現行契約に関係なく、他のクラブと自由に契約を結ぶことができるという措置を打ち出した。それを受けてのコメントだ。

 「人として良識のある、正当な提示だ。なぜなら、それによって選手たちが自分の仕事を行えるからだ。仕事とは、人に尊厳をもたらすものだ。彼らにもより良い仕事をする機会があって然るべきなんだ」

 もちろん、ヨーロッパではシーズン終盤、ブラジルでは序盤のこの時期に、3カ月間という短期間、彼らを必要とするクラブがあるとは限らない。それでも、すでに打診やオファーが来ている選手たちは、それぞれにサッカー人生の再スタートを切ろうとしている。

ブラジルや欧州のクラブと交渉

 シャフタール所属選手たちの中でも、FWジュニオール・モライスはコリンチャンスと2023年末までの契約を結んだ。もともとシャフタールとの契約が今年6月までだったため、FIFAの措置でフリーになったことで契約が実現した。二重国籍を取り、ウクライナ代表として活躍しているが、クラブとしては12年ぶりのブラジル復帰となる。

 MFマイコンには古巣コリンチャンスが2022年末までのレンタル移籍のオファーを出し、交渉が進んでいる。

 FWデイビジ・ネリスには古巣サンパウロと、フラメンゴ、コリンチャンスというブラジルの3つのビッグクラブが興味を示している。ただ、シャフタールの前はアヤックス(オランダ)で成功していたこともあり、ヨーロッパのクラブ優先でオファーを待っていると伝えられている。

シャフタール所属選手の中で、デイビジ・ネリス(右)には古巣サンパウロなどが興味を示しているという

 FW/MFのペドリ―ニョは、故郷でコンディション調整をしながら次の移籍期間を待つ、という態勢に入っている。シャフタールとは2025年までの契約を交わしているため移籍は簡単ではないが、ブラジルのいくつかのクラブや、プレミアリーグのウォルバーハンプトンなど、打診のあったクラブとコンタクトを続けている。

ペドリーニョは国内外のクラブとコンタクトを取り続けているという

「まず平和でいてほしい」

 会見では、ブラジル代表コーディネーターのジュニーニョ・パウリスタも、こうした選手たちにエールを送った。

 「FIFAとUEFAが、選手たちが危険なエリアから脱出するために大きな手助けをしたそうだ。そして今、僕らは何よりもまず、あの選手たちが家族とともに平和でいられることを願っている。彼らに起こったことをビデオなどで見ていたから、彼らにはまず平和でいてほしい。そしてその次に、彼らが自分たちの仕事ができるよう願っている」

 ブラジル代表では、この3月下旬にもワールドカップ予選のプレーオフや親善試合を利用して、ヨーロッパでワールドカップ出場国の試合を、可能な範囲で視察することにしている。その行き先を検討した時のことを思い出し、チッチはこう補足した。

 「スカウティングのためのスタッフ派遣を考えた時、ジュニーニョが『ああ、心配だよ。誰かが戦争に巻き込まれるようなことはできないから』と言い、最初に注釈を入れたのは『誰も危険にさらさないこと』だった。もしトルコ代表がプレーオフを勝ち進み、試合がトルコで開催されることになったら……誰も行かないし、行かせない。我われはそう考えている」


Photos: Lucas Figueiredo/CBF

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Profile

藤原 清美

2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。

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