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Rマドリー移籍か、それともPSG残留か…いまだ見えないムバッペの未来

2022.02.24

 2月15日に行われたUEFAチャンピオンズリーグのラウンド16、パリ・サンジェルマンvsレアル・マドリーの1stレグ。PSGの本拠地パルク・デ・プランスで行われたこの試合は、終始PSGが押し込んでいたが、肝心の1点が奪えないままアディショナルタイムに突入した。

 このまま0-0で終了か……とファンの望みも尽きそうになった、その時だった。

 ネイマールからのバックパスを受けたキリアン・ムバッペが、前を塞いだルーカス・バスケスとミリトンの間を突っ切り、鮮やかなシュートをゴール右隅にぶち込んだ。

 1-0での貴重な勝利に、スタジアムは「ウォオオオオオオ〜」という地鳴りのようなファンの歓声に揺れた。しかも彼らにとって、これは「デジャブ」だった。

 ムバッペはこの試合の4日前にも、リーグ1・レンヌ戦のアディショナルタイムに得点してチームをスコアレスドローから救うという、まったく同じドラマチックな展開を演じていたのだ。

 アディショナルタイムに得点が決まって試合に勝つほどエキサイティングな瞬間はない、というくらい、スポーツ観戦の醍醐味であるこのスリリングなドラマを、2戦続けて、しかもCLでのRマドリー戦という特別な試合で見せられた彼らの興奮は、察するに余りある。

Rマドリー戦の後半アディショナルタイムに決勝ゴールを決めたムバッペ。スタジアムは歓喜に包まれた

手放したくないPSG

 Rマドリー戦後のスタジアム周辺は「ムバッペ! ムバッペ!」の大合唱だった。シーズン前半はブーイングしていたのに、まあ、愛憎は表裏一体というものだ。ネイマールがいようとリオネル・メッシが来ようと、サポーターにとって「PSGのエースはムバッペ」であることは明白だった。

試合後、スタジアム周辺では興奮冷めやらぬサポーターがムバッペの名前を連呼していた(Photo: Yukiko Ogawa)

 しかしこうなるといよいよ、PSGとしてはムバッペを手放したくない気持ちでいっぱいである。

 Rマドリー戦の後、カタールのお偉方が直接ムバッペの関係者に接触して圧力をかけた、というスペイン発の情報もあったが、あながち飛ばし記事ではないかもしれない。

 また、スペインの『マルカ』紙は「ムバッペの母ファイザ・ラマリさんはPSGとの契約延長を望んでいる」と報じている。

 そしてフランスのラジオ番組でも、元PSGのMFジェローム・ロテンが、彼が関係者から得た情報として「昨年8月の時点では、ムバッペが次の夏にRマドリーに移籍する可能性は99%だったが、今は65%くらいに減っている。この後も下がる可能性がある」と語り、ラウンド16でRマドリーに勝利するかが重要なポイントになるだろうと話した。

 「PSGがRマドリーに勝てば、PSGの方が魅力的だと思うかもしれない!」という期待感を抱いているのがカタールのお偉方だけでないことは、Rマドリーとの1stレグ前日の会見で、PSGの主将マルキーニョスに「これに勝てばムバッペに(残留を)納得させられるのでは?」という質問が投げかけられたことからもわかる。

 この質問に対し、ブラジル人DFは冷静に「この試合の目的はそれではない。いいゲームをすることだ」と返答し、「こんな状況でも彼はピッチで良い仕事をしている。落ち着いているし、僕たちと一緒にいることを喜んでいる。後のことは、彼自身がどう決めるかだ」と答えた。

魅力的なプロジェクトを求めて

 契約延長に合意しないムバッペに対し、PSGはすでに2年、それが難しければ最低1年の「ミニ契約」という譲歩策を提示している。

 その場合でも、複数年延長の条件として提示した推定6000万ユーロの年棒とほぼ同額を支払う、という「何が何でも」感にあふれた破格のオファーだ。

 カタールのオーナーたちは、今年11月から12月にかけて自国で開催されるFIFAワールドカップの際には、何としてでも「PSGのムバッペ」をカタールにお迎えしたいという熱い希望を抱いているらしいのだ。

 とはいえ、ムバッペが契約延長に応じる決定打はサラリーの額面ではない。「チームの中心になること」だ。

 Rマドリーでは、ムバッペをプロジェクトの中心に据え、彼を十分に生かせる選手を4、5人連れてきて、ここから新時代を構築していく、というプランが提示されていて、そのことにムバッペは意欲をかきたてられていると、以前、母のラマリさんも話していた。

 PSGももちろん、契約延長交渉では「君がプロジェクトの中心だ」と言ってムバッペを説得している。昨夏にメッシが入団した時も、ナセル・アル・ケライフィ会長は会見で「これでキリアンも戦力に不満はないはずだ」と自慢げに発言している。

メッシの加入会見で「これでキリアンも不満はないはず」と語ったアル・ケライフィ会長(Photo: Getty Images)

 しかし実際、ふたを開ければ、マウリシオ・ポチェッティーノ監督はムバッペに汎用性があるのをいいことに、メッシやネイマールを生かせるシステムを採用している。

 また、これは報道されている内容で、彼自身の口から発せられるのを聞いたわけではないが、一部の南米選手に練習に遅れたり、大事なCLの試合の合間にパーティーをしたりといった規律に欠けた行動があることをムバッペは快く思わず、「この有様では自分が目指しているものはPSGでは実現できない」という思いもあって、チームを変えたいと望んでいるという。

天秤はどちらに傾くか

 ムバッペの心も実際、揺れていることだろう。Rマドリーでプレーしたい気持ちは揺るがないだろうが、移籍時期については変わる可能性はある。その理由の1つは、この夏に移籍した場合、PSGに移籍金を残せないことだ。

 PSGに対する強いクラブ愛があるムバッペは、これまでの恩返しの証としても「移籍金を残したい」と以前から口にしていた。だからこそ昨夏、契約がまだ残っている間に移籍することを切望していたのだ。

 加えて「カタールでのW杯はPSGの選手として」というオーナーたちの思いや、母も提案している「2024年のパリ五輪までPSGでプレー」という、2つのビッグイベントに絡んだ時期的なタイミング。2024年の五輪を終えた時点でも、彼はまだ25歳と、年齢的に遅すぎることはない。

 この2つを満たしつつ、最終的にはRマドリーに移籍できるという「ミニ契約」は、ムバッペにとっては検討しがいのある提案だ。

 その一方で、PSGはジネディーヌ・ジダンを次期監督として連れてくることを目指しているから、彼の下で正真正銘の「キリアン中心のプロジェクト」を始動させることで、もしかすると「ミニ契約」を経ての延長、さらには生涯にわたってPSGのフランチャイズプレーヤーに、という展開もなくはない、とクラブ側は思い描いているかもしれない。

 パリ市長のアンヌ・イダルゴ氏までが「彼(ムバッペ)はサッカーの枠を超えて若者たちに希望を与えてくれる人物として、とても重要な存在だ。だからこそ、どうか残ってほしい。彼がこの国、この街で、多くの若者の手本となっていることを伝えたい」と熱烈にアピールしている。

 その中で決断するのはどんなに難しいことかとこちらまで胃が痛くなりそうだが、あれこれ口は出す両親も、「最終決定はキリアン」であると語っている。ムバッペは誰に忖度することもなく、最終的には自分が納得する答えを出すだろう。

「Rマドリー戦が終わるまでは将来のことは話さない」と明言していたから、最低でもCLの結末が出るまで、あるいはシーズン終了まで公表されることはないかもしれない。

 今季の彼のプレーには、たとえ今季が最後になったとしても悔いを残さない、という意志が感じられるような、これまでとは異質なレベルの迫力がある。最高の置き土産として、CL優勝をPSGに捧げたいとさえ思っているようにも見える。

 ただ、ロテンの言葉どおり、天秤の目盛りは少しPSG側にも傾いてきた感じはある。

 ムバッペの心の針が揺れ出したタイミングを狙って、PSGは次の“ウルトラC級作戦”を投入してくるかもしれない。


Photos: Yukiko Ogawa, Getty Images

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Profile

小川 由紀子

1992年より欧州在住。96年から英国でサッカー取材を始め、F1、自転車、バスケなど他競技にも手を染める。99年以来パリに住まうが実は南米贔屓で、リーグ1のラテンアメリカ化を密かに歓迎しつつ、ブラジル音楽とカポエイラのレッスンにまい進中。