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単なる控えから“フィニッシャー”へ。コロナ禍が控え選手の定義を変える?

2021.04.16

 コロナ禍の影響でフットボールも変化を強いられている。その1つが交代枠の拡大である。今シーズン、プレミアリーグを除いた多くのリーグが通常の「3枚」から「5枚」に交代枠を増やしている。プレミアリーグも、交代枠こそ変わっていないが、過密日程における選手交代の使い方が注目を集めている。

 先日、スポーツ情報サイト『The Athletic』がプレミアリーグにおける選手交代を特集した。控え選手のゴール関与数、交代回数、交代時間など様々なデータを集め、そのクラブの特徴を分析したのだ。

チームで異なる交代枠の使い方

 今季、途中出場した選手が最もゴールに関与しているのはマンチェスター・ユナイテッドだという。途中出場の選手が9ゴール6アシストを記録(4月14日時点)。現役時代に“スーパーサブ”として名を馳せたオーレ・グンナー・スールシャール監督の采配が的中しているようだ。

 今季プレミアリーグで唯一、すべての試合で交代枠3枚を使い切っているのはアーセナルだ。しかし、交代出場選手のゴール関与は3ゴール1アシストに留まっており、『The Athletic』は「ベンチに下げる選手と同じようなタイプの選手しか投入しない現状維持タイプ」とミケル・アルテタ監督を分析する。残念ながら「質より量」の交代だという。

 一方、最も交代回数が少ないのは首位を独走するマンチェスター・シティだ。あれほど交代枠の拡大を訴えてきたペップ・グアルディオラだが、今季プレミアリーグ32試合で選手交代は64回。1試合平均で2回だ。今季のペップはスタメンをいじることは多いが、途中交代は少ない。温存させたい選手に関しても、ベンチには入れてもピッチには投入せず、完全に休ませることを好む。それが今季の過密日程に対するシティの対応だ。

 今季のプレミアリーグで最も交代に踏み切るのが早いのはリーズだ。平均の交代時間は「63.8分」。あまりローテーションを好まないマルセロ・ビエルサ監督は、スタメンがうまく機能していない時に早めに見切りをつけるという。そのため、ハーフタイムでの交代が10回以上もあるそうだ。

ラグビーでは重要な“フィニッシャー”

 こうして見ると、選手交代一つとってもチームによって様々な特色がある。そう感心していた時、アーセナルのオンライン記者会見で興味深いやり取りを見かけた。

 先日、アーセナルはUEFAヨーロッパリーグのスラビア・プラハ戦で主将のピエール・エメリク・オーバメヤンをスタメンから外した。今季のオーバメヤンは精彩を欠いているためスタメン落ちも仕方ないが、やはり物議を醸した。そして、後日の会見で「控え選手」の話が出た。

 ある記者が「ラグビーでは控え選手を“フィニッシャー”と呼ぶが、フットボールも控え選手の認識を変えるべきか?」とアルテタ監督に尋ねたのである。

 イングランドでは、ラグビーの控え選手を「フィニッシャー」と呼ぶことがある。トライを獲り切る選手という意味ではなく、控え選手そのものをそう呼ぶのだ。これは日本代表を率いたことのあるエディー・ジョーンズ(現イングランド代表ヘッドコーチ)が、2017年頃に「フィニッシャー」という用語を使い始めたことがきっかけのようだ。

 現代ラグビーは総力戦のため、ベンチスタートした選手の活躍も不可欠だ。そのため、ベンチメンバーを含めて全選手が「主力」という考えから「フィニッシャー」と呼ぶそうだ。実際にイングランドラグビー協会(RFU)も「フィニッシャー」という言葉を使い始めるようになったという。

 エディー・ジョーンズは日本で働いている頃から「フィニッシャー」という用語を使っており、日本のラグビー界でも“フィニッシャー”は「控え選手」と「トライを獲り切る選手」の2つの意味を持つようになっている。

ラグビーイングランド代表のエディ・ジョーンズヘッドコーチは「フィニッシャー」という言葉を定着させた

「控え選手」の定義は変わるか

 話を戻すと、会見で質問を受けたアルテタ監督は「ラグビーとフットボールでは役割が違うと思うが、共通点もあるはずだ。(フットボールでも)途中出場からゲームの流れを変えられる選手がいるのだからね」と答えた。

 私たちは、本当にコロナ禍をきっかけに「控え選手」の評価を見直すべきかもしれない。年々、フットボールは戦術の細分化が進んでいる。だから途中出場を生業とするベンチスタート専門選手が出てきてもおかしくない。

 90分間を通してプレーする選手とは違い、10~15分の短時間で最高のパフォーマンスを発揮するのだから、練習法も変わってくるだろう。

 コロナ禍が続けば、そういった“フィニッシャー”が誕生するのかもしれない。


Photos: Getty Images

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Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。