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“チームあっての個”がモロッコを圧倒。フロント4が共存共栄するデシャン・フランスの集大成

2026.07.13

【特集】北中米W杯深掘り分析スペシャルレビュー #12

4年に1度のW杯は、後世に語り継がれる名勝負の宝庫だ。しかし高度化した現代サッカーの裏側には、徹底した分析と綿密なシミュレーションに基づく極限の戦術的駆け引きが存在する。footballista編集部が選んだ識者たちが、注目国同士による「本気の闘い」を深掘りレビュー。あの90分で何が起きていたのか。勝敗を分けた戦術の妙に迫る。

12回は、準々決勝のフランス対モロッコ。常時4人の攻撃手を置いて超攻撃的ゲームを実践しながら、一人ひとりが自己犠牲的なプレーを進んでこなす――レ・ブルーの強さが際立った一戦を振り返ろう。

“おとなしいライオン”にさせたカウンターの脅威

 北中米W杯の準々決勝、第1戦目はフランス対モロッコという、前回大会の準決勝と同じカードとなった。結果は、4年前と同じく2-0でフランスの勝利。フランスはこれで3大会連続、つまりキリアン・ムバッペが加わって以降、すべての大会においてベスト4に到達している。ムバッペ・ジェネレーション、恐るべしである。

 この日もレ・ブルーの大エースは60分に先制点を決め、6分後にはウスマン・デンベレのゴールを引き出す1ゴール1アシストの大活躍。大会通算8得点でリオネル・メッシと並んで首位に立っている。

 ちなみにデンベレもこれが今大会5点目。同一大会で同じチームの選手2人が5点以上マークするのは、2002年日韓大会のブラジル代表、ロナウド(8)、リバウド(5)以来の快挙なのだそうだ。

 と、エース2人がしっかり仕事をした形となったが、試合内容を振り返ると、相手方のモロッコは、“アトラスの獅子”にしては、ややおとなしいライオンだった気がする。超カウンター軍団フランスが、彼らを慎重にさせたわけではあるが。

 フランスは、開始4分にさっそく1本目のシュートを見舞った。デジレ・ドゥエがアクラフ・ハキミとのデュエルに勝って密集地帯にパスを通し、受けたムバッペが迷わず右足を振り抜く。やや左ポストを外れていたかというシュートはGKボノが回避。そこでゲットしたCKから、今度はCBダヨ・ウパメカノがヘディングを浴びせたが、これもボノがセーブした。

 ラウンド16のカナダ戦(○0-3)でもファインセーブを連発してクリーンシートをキープした彼は、まさにモロッコの守護神だ。この試合のフランスは最終的にシュート数22本、うち枠内が8本という猛攻ぶりだったが、それで2得点に終わったのだから、GKボノがいかに好守を披露していたかがわかる。

 モロッコは、4年前より戦力的にも経験値や自信といった面でも大きくアップしていて、しっかりボールを保持して自分たちの形で攻めるスタイルを確立している。そしてカナダ戦でも見せたように、縦への推進力やカウンターは、彼らにとってもお家芸のはずだった。

 とりわけキャプテンの右SBハキミはパリ・サンジェルマン(PSG)で「アタッカーか!?」というくらいに攻撃面でも絶大な貢献をしていて、モロッコ代表でもボール保持時にはサイドハーフ的な働きをしている。

 ただ、彼ら以上のカウンターの脅威を持つフランス相手には、より慎重さが必要、と思い知らされたのが25分のシーン。

 モロッコがフランス陣内でボールを保持してシュートチャンスをうかがい、ハキミもアタッキングサード内まで上がっていた。しかしドゥエの接触プレーでボールを失い、拾ったマイケル・オリーセの激走からカウンター発動。パスを受けたムバッペがペナルティエリアに爆進すると、ヌサイル・マズラウィが必死のディフェンスでムバッペを倒してPKを献上してしまった。

 結果的にムバッペのキックをボノが見事に読み切って失点は免れたが、ハキミが上がっていたあの場面、ムバッペの前には広々としたスペースが開かれていた。この時ハキミ以下モロッコ代表の面々は、フランスのカウンターの脅威をあらためて思い知ったと同時に、攻めつつも守りを崩さない、そのバランスの取り方の難しさを痛感することになった。

 フランスはその後もドゥエのシュートや、前半終了間際のリュカ・ディーニュのロングボレーでゴールを煽ったが、ボノの好セーブもあって無得点。一方、モロッコもアディショナルタイムにアドリアン・ラビオのハンドで得たCKからハキミが直接ゴールを狙った一打がこの日の初シュートで、ボール支配率では上回りながらも、攻めの恐怖はまったく与えられずに前半を終えた。

 そうしてスコアが動いたのは後半の60分。

 ラビオのボール奪取からドゥエへとつなぎ、受けたムバッペが、股抜きを警戒してか足をぴったりと閉じて対峙したCBイサ・ディオプの脇、ギリギリを通過して右ポストの内側に収まる、わずかなコースを見事に突いて先制点をゲット。

ハイライト動画

 この1点が、その後の局面を大きく変えた。追いつく必要があるモロッコは、もう引いてボールを回しているだけではいられない。62分には、守備力の高いアユブ・ブアディに代えてボール奪取の鬼ソフィアン・アムラバトを投入するなど、戦闘モードに突入。しかしそうして前へ出て行けば、おのずとスペースは開く。

 待ってましたといわんばかりに、先制点から6分後にデンベレが追加点。起点のパスはオリーセからだった。

……

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Profile

小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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