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【北中米W杯の5つの戦術トレンド】「メンタルゲーム化の加速」:“戦術のコモディティ化”時代の新たな勝敗論

2026.07.10

北中米W杯の5つの戦術トレンド#3

クラブサッカーが戦術の最先端を切り開く一方で、4年に一度のW杯はその潮流を映し出すだけの舞台ではない。選手の組み合わせや準備期間、そして一発勝負ならではの環境は、クラブとは異なる”勝ち方”を生み出していく。では、北中米W杯ではどのような傾向が見られているのか。本特集では5人の識者が、それぞれ最も印象に残った「戦術トレンド」を1つずつピックアップ。5つの視点からW杯の論理を掘り下げる。

3つ目のテーマは「メンタルゲーム化の加速」。配置やシステム、守備原則は世界中で共有され、戦術そのものが差別化要因ではなくなりつつある。だからこそ勝敗を左右しているのは、試合終盤のモメンタム、感情の揺れ、そしてピッチ上のリーダーシップだ。“戦術のコモディティ化”が進んだ先で、W杯は何を競う舞台になったのか。

「戦術のコモディティ化」が進む現代サッカー

 ベスト8が出揃った段階で、このW杯をざっと俯瞰的に振り返りつつ、「戦術トレンド」について考えを巡らせた時、最初に浮かんで来たのは、山口遼さんが開幕間もない時点でのブラジル対モロッコのレビュー『万能同士の情報戦。ブラジル対モロッコを支配した「メタゲーム」の正体』で指摘していた「戦術のコモディティ化」という言葉だった。

 チームの基本的な配置や構造という観点から見れば、強豪国から弱小国までそのあり方はこれまでにないほど均質化している。最も多く見られる基本配置は[4-4-2/4-2-3-1]と[4-3-3/4-1-4-1]だが、攻守両局面でこの配置を保っているチームはほとんど見当たらない。フェーズによって配置を可変するのはもはや当たり前。多くのチームは、ビルドアップ時にはセントラルMFが下がったりSBが上がったりしておなじみの[3-2-5]の構造を作るし、プレッシングやミドルブロックでは[4-4-2]になる。

 [3-5-2]や[3-4-2-1]といった3バックのシステムを採用しているチームも、ビルドアップ時には[3-2-5]や[2-3-5]、あるいは[3-3-4]のようなポジショナルな配置を取るし、非保持時には[5-2-3]ローブロック化して、相手の攻撃の枚数に合わせて最終ラインから1枚上げて[4-5-1]になったり、MFが下がって[6-3-1]になったりする。相手のプレスとの関係で噛み合わせが悪ければ、試合中にすぐ修正されるので、ポジショナルな構造そのものが優位性を作り出すことはもはやほとんどない、と言っても過言ではない。

 カーボベルデもキュラソーも、ハイチもパナマも、戦術的秩序は十分に整っている。これは、近年急速に進んだビデオアナリシスとデータアナリシスの進化と「民主化」がもたらした最も大きな影響だろう。選手の多くがヨーロッパの中堅国以上のリーグでプレーしているから、欧州スタンダードというか、モダンサッカーの基本的な作法が当たり前のように身についている。その観点から見ると、グループステージ敗退組の中で最も多かったのが、自国リーグでプレーしている選手の割合が多いアジア勢だったというのは示唆的だ。

 配置や構造だけでなく、保持局面でビルドアップとダイレクトプレーのどちらを主体にするか、非保持局面やセットプレー守備において人とスペースのどちらに基準を置くか(マンツーマンかゾーンか)といった戦術スタイルも、それ自体が優位性を作り出す要素でないことはもちろんだ。というよりも、そのどちらか一方に極端に軸足を置いたチームはほとんどなくなり、そのどちらもできるのが当たり前になっている。スタイルそのものではなくその運用の方に焦点が移ってきていると言ってもいいだろう。相手のゴールキックに対してはマンツーマンでハイプレス、オープンプレーのビルドアップに対してはゾーンのミドルブロックという使い分けはすっかり一般化した。ただ今大会に関しては、気候条件やコンディションの要因から、ハイプレスはごく限られた条件下(時間帯、明確なトリガー)でしか行わず、ミドル/ローブロックで構えるゾーン内マンマークの受動的な守備が主体になっていた。

ラスト15分に表れた“心理戦”

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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