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【北中米W杯の5つの戦術トレンド】「8番の不在」:現代サッカーが手放した「主体的な意図」とは?

2026.07.13

北中米W杯の5つの戦術トレンド#5

クラブサッカーが戦術の最先端を切り開く一方で、4年に一度のW杯はその潮流を映し出すだけの舞台ではない。選手の組み合わせや準備期間、そして一発勝負ならではの環境は、クラブとは異なる”勝ち方”を生み出していく。では、北中米W杯ではどのような傾向が見られているのか。本特集では5人の識者が、それぞれ最も印象に残った「戦術トレンド」を1つずつピックアップ。5つの視点からW杯の論理を掘り下げる。

最終回のテーマは「8番の不在」。多くの強豪国で姿を消した“関係性をつなぐMF”の減少。その背景にあるのは、「主体的な意図」をゲームにどこまで介在させるかという各国のFootball観の違いだった。

 「今大会を通して見えてきたトレンドはありますか?」と問われ、大会の途中ながら本稿を執筆しているわけだが、W杯を見て現代のFootballのトレンドを語るというのは、今日ではなかなか難しいお題だなという感想であった。というのも、これまでも繰り返し述べてきたように、戦術構造のコモディティ化とそれによるメタゲーム化が、トレンドというよりは定着した現代のFootballにおいて、「人が意図した形での明示的なトレンド」というのはもう生まれづらくなっていると思うからだ。

 特にW杯という開催頻度が非常に低く、メンバーの補強も移籍もできないナショナルチームの大会で観測できるのは、エコシステム全体の資本の移動や分布に偏りが生じ、特定の個人の明示的な意思が介在しない形で生まれるような「傾向」くらいのものではないだろうか。そういう意味では、今大会が始まる前、選手名鑑などで予習をしている頃から少し気になっていた「傾向」があり、それが「8番」の不在、正確には偏在であった。

「8番」が消えたW杯

 例えばフランス代表のMFを見てみると、オーレリアン・チュアメニ、マヌ・コネ、エンゴロ・カンテ、アドリアン・ラビオの4人がボランチとして選出されている。いずれも好選手ではあるが、全員大きくて(カンテは小さいが)、速くて、コンタクトに強くて、守備力が高いという、判を押したように同じようなタイプの選手たちを揃えている。おそらくは互換性の高さ、誰が出ても戦術構造に変化を及ぼさないことこそが求められているのだろう。そしてこれはフランスに限った話でなく、強豪国で見てもブラジル、ドイツ、イングランドあたりはいずれもこういったタイプの中盤で「統一」されている。

 “8番”不在が目立つ各国のスカッドとは対照的に、スペインとポルトガルだけは8番大国と言っていい人材の集中具合で、ペドリ、ファビアン・ルイス、ビティーニャ、ベルナルド・シルバと世界最高クラスの8番役が揃っている。ピュアな8番でなくとも、部分的に8番タスクがこなせる6番や10番まで含めれば、ダニ・オルモ、ロドリ、マルティン・スビメンディ、ジョアン・ネベス、ブルーノ・フェルナンデスなども挙がってくる。

 興味深いのは、国別で見るとこれだけ偏りがある一方で、クラブレベルで見ると彼らはCL決勝トーナメントクラスの各ビッグクラブに満遍なく散らばって所属していることだ。つまり、クラブレベルでは、特にトップオブトップのクラブでは8番の需要は失われていないということになる。このW杯でほとんど出番が得られていないスビメンディはアーセナルでCL決勝まで到達したし、バルセロナのマルク・ベルナルに至っては代表に選ばれてすらいないが、CL決勝ラウンド出場チームの主力である。彼らはピボーテでこそあるが、8番的な有機的なつながりを生み出すタイプであり、これはまさに欧州トップレベルのクラブはほとんど“スペイン/ポルトガルの血”を中盤に求めているという証左になる。

 まとめれば、少なくともトップオブトップのクラブレベルにおいての8番需要は非常に高い一方で、供給元は非常に偏っているということになる。この2カ国以外とすると、パッと思い浮かぶのはルカ・モドリッチとマテオ・コバチッチのクロアチア、アレクシス・マカリステルとエンソ・フェルナンデスのアルゼンチン、フレンキー・デ・ヨングとライアン・フラーフェンベルフのオランダくらいだろうか。ここでも、輩出される国からは複数人輩出されるが、輩出されない国からの供給はほとんどないという、供給国の偏りの傾向が見られる。また、クロアチアは彼らの後継が今のところ見当たらない点や、オランダはよりソリスト的で「有機的なつながり」を産む8番タイプとは言い切れないところがある。つまり、供給国第2グループとしてはなんとかアルゼンチンが該当すると言えるくらいだろうか。

 W杯のようなナショナルチームの大会では、クラブレベルでは可視化されづらいこのような偏りが、性質上明確に可視化される。足りないピースを移籍市場で獲得することもできなければ、関係性や戦術を作り込む準備期間も与えられないナショナルチームとは、良くも悪くもその国のFootball観や育成環境の総体である。そういう意味ではW杯は「最先端のFootballの博覧会」ではもはやなく、どちらかと言えばFootballの生態系の特徴や偏りといった「傾向」を観察する機会として機能するようになってきている。では、この大会で見られた「8番の供給源の偏りと、多くの国での需要のなさ(それとも供給がないだけ?)」という「傾向」は何を示唆するのかということを考えてみよう。

8番とは「関係性」を生む選手である

 8番のコアイメージを前提として整理しておこう。

 こういった背番号表記は、背番号=ポジションの時代の名残だが、可変的なシステムが一般化した今では、言うまでもなく単にポジションだけを表すわけではない。ポジションの要素も多少は残っているが、かなりの割合で「その選手が担うタスク」の方のニュアンスが多くを占めている。例えばペドリとロドリがダブルボランチを組んでいたとしても、ペドリは8番、ロドリは6番(バルセロナ的に言うと4番)の役割を担うことは明らかである。

 あらためて「8番」という言葉のコアイメージについてだが、ポジションで言えば主には「インテリオール/インサイドハーフ」が代表的で、タスクや資質としての8番のイメージは「中間的な存在」というのがしっくりくる。6番の要素も10番の要素も一定備えているが、一方で6番ほど構造やポジション、守備に縛られないし、10番ほどゴール関与やチャンスクリエイトに縛られることもない。ビルドアップでは列を降りて起点になることもあり、前進の局面ではライン間で受けて前を向き、崩しの局面ではパス交換で味方とつながりながらブロックの内部へ侵入することもある。複数の資質を備え、複数のタスクをこなす。ゲームメイカーのようにも、ドリブラーのようにも、ファンタジスタのようにも振る舞える多面性がある選手が、8番的であると言える。

 突出した武器が必ずしもあるわけではなく、わかりやすいゴール関与の頻度が必ずしも高いわけでもないので、彼らの役割としての本質が見えにくい部分があるかもしれない。8番が担うべき役割の本質は、「彼ら周辺の“関係性”の活性化」である。彼らは、ボールを絶対奪えるボランチやアンカー、突破力や崩しの感覚に優れたアタッカー、チャンスクリエイトのアイディアが豊富な10番タイプといった複数のタイプの選手と、その多面性ゆえに感覚を共有することができるので、キャラクターが強烈な各選手を接続し、整えることができる。複数の選手のネットワークの媒介となり、少しずつ周囲と自分がプレーしやすい状況を作り、優位性を複利的に増やしていくのだ。

 逆説的に言えば、8番タイプであればあるほど、その機能性はつながりや関係性の質に非常に依存的であり、単体として存在しているだけではその真価を発揮するには至らないことが多い。私がよくする思考実験なのだが、「ペドリやガビが日本で育成されていたらどうなっていたか」ということを考えるとわかりやすい。おそらく彼らはインテリオールとしてはそもそも起用されない。「守備の強度が低い」、「明確な強みがない」、「ゴールに関われない」、あたりが問題視されるためだ。そして[4-4-2]の左サイドハーフあたりで、「そこそこテクニックがある選手」として育成され、最終的にはやはり「守備強度が低い」と言われて後半途中から起用されることが多い選手になるという可能性が非常に高いと見ている。

 つながりや関係性、あるいは彼らが生み出す「複利的な優位性」の価値を理解し、重要視する文化背景やコンテクストなしでは彼らは単なる小粒な器用貧乏にしかなり得ないということだ。

ペップが“主役”にしたポジション

……

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Profile

山口 遼

1995年11月23日、茨城県つくば市出身。東京大学工学部化学システム工学科中退。鹿島アントラーズつくばJY、鹿島アントラーズユースを経て、東京大学ア式蹴球部へ。2020年シーズンから同部監督および東京ユナイテッドFCコーチを兼任。2022年シーズンはY.S.C.C.セカンド監督、2023年シーズンからはエリース東京FC監督を務める。twitter: @ryo14afd

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