アユブ・ブアディ(モロッコ):鮮烈W杯デビュー!フランス育ち、ヒーローはモドリッチ、頭脳明晰で多芸多才な18歳の人生設計
【特集】北中米W杯で輝く次世代スターの軌跡 #8
アユブ・ブアディ(モロッコ代表)
エンドリッキ(ブラジル)、アルダ・ギュレル(トルコ)、アレクサンダル・パブロビッチ(ドイツ)、ビクトル・ムニョス(スペイン)、ラヤン・シェルキ(フランス)、ジュリアーノ・シメオネ(アルゼンチン)、エリオット・アンダーソン(イングランド)――ロシア大会で数々の記録を塗り替えながら、当時19歳でフランスの20年ぶり優勝を牽引したキリアン・ムバッペのように、初出場のW杯で主役の座へと駆け上がり、次のサッカー界を背負っていくU-23の新星は誰か? そして彼らの世界を驚かせる才能は、一体どのような「環境」と「育成」で磨かれてきたのか? 北中米大会で輝くであろう、次世代スターたちの軌跡をたどる。
第8回は、W杯最初の90分間で一躍その名を世界に轟かせたMFが、いかにして誕生し、なぜフランスU-21代表から“2カ月間”でモロッコA代表入りを決断したのか。
北中米W杯3日目、6月13日のグループC初戦ブラジル対モロッコで、ちょっとしたセンセーションを巻き起こした選手がいた。
モロッコ代表の背番号6、アユブ・ブアディ。
[4-2-3-1]の2ボランチの一角を占めたブアディは、アタッキングサード内に敵が侵入するのを防ぐ最初の防波堤役となり、ラフィーニャも、カゼミロも、この危険なエリアへの侵入を試みるたびにブアディに阻まれた。
相手の足下からスルッとボールをかすめ取るスキル、真正面からぶつかっていくフィジカルなデュエル、絶妙なプレスで相手を危険地帯の外に押し出す誘導テクニック、そして瞬時に数的有利の状況を作るポジショニング……。
知的さと優れたビジョン、それを活かす確実なテクニック。それらすべてを兼ね備えた彼は、なんとまだ18歳であり、W杯はおろか、A代表の公式戦としてもこれがデビュー戦だったことに、世界は驚愕したのだった。
そしてモロッコは、大会最多優勝回数を誇るブラジルを相手に、1-1という価値あるドローを手に入れた。
「あのヘアバンドの子」は15歳で名門リールとプロ契約
がしかしフランスのリーグ1サポーターの間では、彼はすでに知られた存在だ。
名門リールの育成アカデミーに14歳になる少し手前で入団すると、15歳で早くもプロ契約を結び、16歳の誕生日を迎えた3日後、2023-24シーズンのカンファレンスリーグ、対クラクスビーク(フェロー諸島)戦でプロデビュー。18歳にして強豪リールのスタメンであり、ここまでリーグ1で63試合、チャンピオンズリーグを含むUEFAのコンペティションに25試合出場という、恐るべきティーンエイジャーなのだ。
ブアディは2007年10月2日、パリから直線距離にして40kmほど北上したところにあるサンリスという町で生まれた。
両親はモロッコ出身。サンリスの近郊にあるクレイユという町で父親が仕事をしていたため、ブアディもそこで育ち、クレイユのクラブで5歳からサッカーを始めた。
少年時代から髪は長めで、プレーする時はいつもヘアバンドをしていたから、このあたりでは「あのヘアバンドの子」としてその存在が轟いていたという逸話もある。
本人がサッカー番組のインタビューで語っていたところによれば、サッカーを始めた頃から漠然と、プロになりたい、という思いは描いていたが、育成過程で実力を認められていくにつれて、それがだんだんと具体化していったという。
彼の憧れは、卓越したビジョンとテクニックで中盤をコントロールするクロアチアの至宝、ルカ・モドリッチだった。ブアディのプレーを見てそれを聞くと、なるほどとうなずける。
彼自身は、自分のプレーをこんなふうに分析している。
「自分はチームのためになる献身的なプレーができる選手だと思っている。プレッシャーがかかる場面でも落ち着きを保てて、ボールをスムースにつないで、味方を生かすプレーをするのも好きだ。常に正しい場所に正しいタイミングでいられるわけではないけれど、試合中は良いスペースにポジションを取って、次に何が起こるかを少し先読みして、相手より一歩先に動けるようにしようとしている」
まさにピッチ上で見る彼の姿そのものだ。
誕生日にヒーローと共演も「ユニフォーム交換なんてすっかり忘れていた」
その憧れのヒーローと、ブアディは実際に対戦する機会を得ている。しかもその日はなんと、彼の17歳の誕生日だった。
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Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。
