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J1新王者・鹿島は「神戸と柏の中間スタイル」。発展途上のチームが完成品のライバルを上回った意味

2025.12.09

2025シーズンの明治安田J1リーグを制したのは、鬼木達監督就任1年目の鹿島アントラーズだった。最後まで優勝を争った柏レイソルもリカルド・ロドリゲス体制初年度だったが、柏は「ほぼ完成品」で鹿島は「発展途上」というのが西部謙司氏の評価。鹿島が優勝した要因、そして今後の課題について考察してもらおう。

 J1最終節、鹿島アントラーズと柏レイソルの勝ち点差はわずか1ポイントだったが、どちらも勝利でシーズンを締めくくり、鹿島が僅差を守って優勝した。

 2-1で勝利した横浜F・マリノス戦は鹿島が優勝できた理由が端的に表れていた。

鹿島の強みは「両ゴール前の質」=レオ・セアラと早川

 2ゴールを決めたレオ・セアラの存在は大きい。

 21得点で得点王。1点目は松村優太のクロスから。荒木遼太郎のシュートがミスキックでボールが高く跳ね上がるが、荒木は素早く体を入れてDFからボールを守り、そのまま背中側へ浮かすとレオ・セアラがボレーでゴール。

 ボールの落下点には横浜FMのDFもいたが、レオ・セアラは右足を伸ばしてDFより一瞬早く蹴っている。ボールに体が近いのはDFの方だったが、レオ・セアラはDFの背後から足を出してシュート。瞬間的な決断力と身体操作、とりわけ体幹の安定感が別格だ。

 ヘディングの2点目も落下点を正確に予測し、先に跳んでDFに競り合うタイミングを与えなかった。

 横浜FMが主に中盤から守備をしていたので、鹿島がボールを保持して押し込み、失ってもプレッシングで奪い返して攻撃を継続する、負けにくい構造を維持したまま試合を進めていた。しかし、これまではそうならない試合も多かった。鹿島は自陣深くからのビルドアップに課題がある。柏との比較ではっきり劣っていた部分だ。そのためハイプレスが強力なチームが相手だと自陣からなかなか出られない流れになりがちだった。最終節は相手がカウンター狙いのミドルブロックだったので、植田直通とキムテヒョンのCBにはほとんどプレッシャーがなく安定的に敵陣へ運べていた。

 試合直後に鬼木達監督は「もっと向上しなければ」と話し始めていたが、ビルドアップはまさに向上が期待される課題だろう。

 ただ、鹿島には自陣と敵陣のゴール前に強みがあった。

 敵陣ゴール前がレオ・セアラなら、自陣ゴール前はGK早川友基だ。シーズンを通して何度も決定的なピンチを防いでいる。1対1での至近距離のシュートをブロックするのが上手い。

 結局のところ、勝負はゴール前で決まる。決定機を決められるかどうか、逆に失点になっているはずのシュートを防げるかどうか。ここは2位の柏との1ポイント差を生み出した部分だと思う。

チームの「モデル」になった鈴木優磨とコンバートに適応した知念慶

 第37節の東京ヴェルディ戦、鈴木優磨は右サイドでプレーしていた。しかし、最終節は左サイド。いろいろなポジションでプレーできる鈴木だが、サイドなら右より左の方が良い。左にエウベルがいるので右へスイッチしたのだと思うが、東京V戦の鈴木は窮屈そうで、エウベルの調子も良くなかった。最終節は鈴木を左に起用するだろうと思っていたが、やはり横浜FM戦は鈴木が左。右には突破力のある松村が起用された。

 キープするにも大きなサイドチェンジを蹴るにも右利きにとって左サイドはやりやすい。鈴木は万能型のアタッカーだが縦の推進力に特別に優れているタイプではなく、タメを作りながら攻撃を創り出していくスタイルなので、DFから遠い右足を自由に使える左サイドの方が特徴を発揮しやすいわけだ。攻撃のクリエイティブな能力だけでなく、守備への切り替えが非常に速く、得点力もあり、その意欲と献身性はチームの戦い方のモデルになる選手だった。

 先制点の起点となった知念慶の貢献も大きい。

……

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Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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