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「普通に勝てた試合」で何が…今季のランスを象徴する最終戦、伊東純也と主将が明かす「地獄」の顛末

2025.06.03

Allez!ランスのライオン軍団
2024-25シーズン総括
 #1

待ち受けていた「地獄」の結末。伊東純也と中村敬斗の両エースが牽引し、冬には関根大輝が加わった今季、スタッド・ランスはフランス・リーグ1で16位、入れ替え戦の末に7季ぶりの2部降格を余儀なくされた。その奮闘模様を定点観測してきた連載コラムの特別編として、若き獅子軍団の、そして3兄弟それぞれの2024-25シーズンを振り返る。

初回は、あの日のオーギュスト・ドゥローヌで何が起きていたのか。リーグ22部)メスの歓喜で幕を閉じた、昇降格プレーオフ第2レグの舞台裏。

「今季一番」の熱闘、伊東アシストで57分先制

 なんだかまだ、現実じゃないみたいだ。

 5月29日夜の、スタッド・オーギュスト・ドゥローヌでの出来事はまるで幻のようで、数日たった今でも、スタッド・ランスが来シーズンはもうリーグ1にいないのだ、ということが、ちょっと現実とは思えない。

 それほど「勝てそうな」試合だった。

 第31節のモンペリエ戦(4月27日)で痛めた左足はまだ完全に癒えていなかったが、この試合に先発出場し、延長120分間をフル出場した伊東純也も、

 「普通に勝てた試合でした……」

 と試合後に悔やんだ。

 リーグ2のプレーオフを勝ち上がったメスとの入れ替え戦、21日に行われた敵地での第1レグを1-1で引き分けていたランスの獅子軍団は、ホームでの必勝を誓い、スタジアムを埋め尽くしたサポーターたちの大声援を後押しに、冒頭から「今季一番!」とも言える熱のこもったプレーを披露した。

 中でも伊東は、相手とのデュエルでボールを奪い返したり、巧みな足技でボールを前へ前へと動かしてはゴール前めがけて決定機を生み出す極上のパスを送り続け、ピッチ上の誰よりもランスにチャンスをもたらせる存在だった。

スタメン発表で背番号7に期待のコール&レスポンス(Video: Yukiko Ogawa)
ウォームアップに出てきた選手たちをサポーターが激励(Video: Yukiko Ogawa)
おなじみのランス兄弟パス交換(Video: Yukiko Ogawa)

 ちなみに伊東については、サンバ・ディアワラ監督は第1レグでちょっとした小細工をしていた。

 もう2戦目も終わったのでバラしても問題ないと思うのだが、試合当日に発表した遠征メンバーに含まれていた伊東の名前は、試合直前に配られたメンバー表からは消えていて、実際にはメスに帯同すらしていなかった。

 影響力が大きい選手だけに、伊東がプレーするかしないかで相手の戦略など対応は大きく変わる。「100%の状態ではなかったので直前で外した」というのは口実で、最初から起用するつもりがなかった伊東をリストに加えたのは、出場の可能性があることを匂わせるためのブラフだった。

 必勝の第2レグでは、さすがにランスの大エースは必ず出場すると相手も確信していただろう。そして期待通り、伊東は57分に待望の先制点をアシストした。

 アマドゥ・コネからのパスを回転しながら右足で受けた伊東が、もしかしたら自ら切り返そうかというところに若きアタッカー、アンジュ・マルシャル・ティアが飛びつき、せり出してきた相手GKの頭上を越える強烈なシュートを突き刺した。

 第30節のトゥールーズ戦以来となる先制点にして流れからのゴール。この日は開始からの戦いぶりを見ても、残り時間を守り切って勝ち抜けられる感覚は十分にあった。

ウォームアップから引き上げる時も激励(Video: Yukiko Ogawa)
キックオフ前から会場が一体に(Video: Yukiko Ogawa)
しびれるような選手入場(Video: Yukiko Ogawa)

伊東は呆然、関根は悔し涙、中村はしばらく動かなかった

 潮目が変わり出したのは、両軍が選手交代を始めた60分過ぎ。

 まずメス側が一度に2枚代えしたのに続き、ディアワラ監督は65分にゴールスコアラーのティアからママドゥ・ディアコン、そしてコネからバランタン・アタンガナへとこちらも2枚代え。

 続いて72分には、前線で体を張って奮闘していたウマル・ディアキテを下げてジョーダン・シエバチュを投入。さらに77分には、モリー・グバネに代えてジョー・パトリック、守備ラインにも手を入れてアウレリオ・ブタを関根大輝と交代させた。

 「ディアキテも頑張っていたし、ブタも良かった」

 伊東も試合後に首をかしげた不可解な選手交代。しかして相手に同点弾を献上してしまったのは、この直後だった。

……

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Profile

小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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