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「技術」を伴う「判断」――欧州の育成トレンドは日本の課題

2018.08.28

サッカー協会が主導権を握り、様々な施策に取り組んでいる欧州各国は近隣諸国から様々な工夫を柔軟に吸収している。ヨーロッパという地域全体の近代化が進んでいる理由は、様々な特徴を有する強豪国と改革に成功している新興国が高い密度で点在していること。それは同時に、日本の選手たちの課題でもある。


ドイツというロールモデル

 改革に成功し、世界の頂点にたどり着いたドイツの育成は1つのロールモデルとなっている。ドイツの画期的な改革は「フィジカル面で劣っていても、敏捷(びんしょう)性が高く器用な選手を重用する」という面にあった。ドイツサッカー連盟でも活躍したロビン・ドゥット(現ボーフム監督)が「シャビやイニエスタは背が低いが、テクニックの面では圧倒的な選手」と述べるように、スペインの育成を発端として「テクニックとフィジカルについての価値観」がドラスティックに変化した影響も見逃せない。テクニックと思考能力を優先するドイツの育成哲学は、グアルディオラがバイエルンの指導者になったことで加速度的に完成に近づいた。

 そのドイツやスペインの育成哲学から様々な要素を抽出しようとしているのが、現在の潮流だ。それも単なる模倣ではなく、インフラ整備や協会主導での改革など、大規模な施策によって育成改革を進める国が少なくない。ベルギーは個々の強みを積極的に伸ばすフランス的な育成と、オランダ的なフォーメーションの固定化によって「各ポジションのスペシャリスト」を生み出すことを目指したが、そこに「判断能力」という「ドイツ的な要素」を追加した。スコットランドではSBにボールをさばけるテクニックのある選手を積極的に起用し、ビルドアップの中心として位置づけている。例えば、リバプールで活躍するアンドリュー・ロバートソンは育成改革を象徴する選手だ。アイルランドでは、後方からの組み立てを奨励する目的で「リトリート・ライン」というルールをユース世代の全試合に取り入れ、相手のリスタート時はこのラインまで戻らなければならないという育成の枠組みを作った。「前からのプレスが弱い状態」を意図的に作り出すことで、ビルドアップの基礎を学べる環境を整えたと言える。


日本に足りない「戦術教育」

 テクニックの重要性が各国で再評価されているのは前述の通りだが、判断能力も「欠かせないスキル」として注目されている。スペースや味方の認知、正しいトラップの方向を選択可能な判断能力、リスクマネージメント能力などを兼ね備えないテクニックは、単なる曲芸に過ぎない。だからこそ、認知能力を高めるような狭いピッチでのトレーニング、複雑化したロンドなどが取り入れられており、選手には瞬間的な判断の精度が求められている。

 同時に、育成時期から「戦術的な思考力」が重要視されているのは特筆すべきだろう。局面における正しい判断をするためには、フォーメーションや戦術的な動きを理解していなければならず、ピッチ全体を見渡して二手三手先を予測するスキルが必要だ。デ・ブルイネが自らのアシストについて「見なくとも、味方が裏へ動き出していることがわかった」とコメントしたことがあったが、これはその場の判断能力を戦術的な知識が補強している好例だ。それこそが、チームとして組み上げられた中での個々の判断能力であり、育成年代からそれを積み重ねた選手たちは「柔軟な適応力」を習得していく。

 日本の選手たちは、技術面では欧州トップクラスにも見劣りしない。プレッシャーが弱ければ、止めて蹴る技術も抜群だ。しかし、狭いエリアでの激しいプレッシャーの中でボールを扱うための「判断能力」には課題がある。そして、それは育成年代からの戦術的概念の教育と切り離せない問題なのではないだろうか。チーム全体で意思を共有し、システマティックにボールを回すことが可能になれば、日本人選手の技術は必要な局面でさらに輝くだろう。日本では頻繁に「組織力」という言葉が使われるが、実際のところ組織力を支えるのは「戦術理解力」と「判断力」なのだから。


Photos: Getty Images

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Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。

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