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ドイツサッカー進化の陰にグラスルーツのベースアップあり

2017.10.31

 ドイツサッカー連盟(DFB)は2015年1月1日からライセンス制度をリフォームし、一番上位からプロコーチライセンス、A級、エリートユーゲント(エリートユース)、B級、C級と5段階に細分化した。これはUEFAライセンスとの互換性をよりわかりやすい形にするための整理だという。さらに2016年には新しいドイツサッカーのコンセプトも発表された。今後の成長に向けた指針として挙げられたのは次の4点。

①安定感
90分を通した安定感を身につけるために身体的な点だけでなく、心理的、戦術・技術レベルで崩れることなく、ゲーム、チーム、そして自分自身をコントロールできる状態に持っていく。

②優位性
相手よりも優位に立つための条件、状況を認知し、身につける。

③柔軟な判断
決まり切った形だけでなく、それをベースに状況に応じた判断を磨く。それが創造性に繋がる。

④効果的なプレー
最適なポジションを取り、そのポジションにいる選手を有効活用する。

 これらは2014年のブラジルW杯優勝前から取り組んできたことだが、あらためて明文化したことに意味がある。伝統的な美徳(勤勉さ、我慢強さ、積極性など)が土台になるのは変わらないが、ドイツ人の強みも時代とともに変化してきた。そこに世界のサッカートレンドをかけ合わせてバージョンアップを図らなければならない。重要なのはトレンドを手当たり次第に追うのではなく、スタンダードのレベルを底上げすることだ。

 ここで過去の話をしたい。

 あれは僕がC級ライセンスを獲得した13年前。2004年当時のDFBは世界の潮流に置いて行かれないために、自分たちもシステマティックなチーム戦術を志向しようと動き出し、現場の指導者にも新しいメソッドを伝えようとしていた。

 4バック、ゾーンディフェンス、ポゼッション。そうした戦術が重要だということはみんなわかっていたし、講習会の間にもビール片手にテレビで試合を見ながら口々にそんな話をしていた。誰もが目指すべき方向性は理解していたものの、どのように取り組んでいけばいいのかがわからなかった。わからないまま、付け焼刃でかじった知識を子供たちに伝える。だが、指導者自身が深いところまでわかっていないのに、子供に対して声高に叫んでも伝わるわけがない。

 だからこそ、当時の指導者講習会では個人戦術における守備の取り組みという、基礎の基礎からじっくりと時間をかけて向き合うようになった。地道に学んで一歩ずつ前進する――少しずつそうした考えが浸透するようになると、内容を掘り下げて次のステップへと進んでいく者が増えるようになる。EUROやW杯があるたびに国内でカンファレンスを行い、分析結果を共有し、今後の指針に生かしていくことも忘れない。

 13年前のC級ライセンスでは「1対1における守り方、攻め方」「サイドからのワンツーを使った突破」という基本的な戦術テーマばかりだったが、今では同じく育成年代が主な指導対象となるB級ライセンスで「4バックでの守り方」から「ゲーゲンプレッシングをかける条件」といったより高度なテーマが扱われるようになった。グラスルーツにまでベーシックな戦術理解が浸透してきたということだ。ピラミッドを支える底辺のベースアップが、ドイツサッカーの頂点を年々高く押し上げている。







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Photos: Bongarts/Getty Images

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ドイツサッカー連盟育成

Profile

中野 吉之伴

1977年生まれ。滞独19年。09年7月にドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを取得(UEFA-Aレベル)後、SCフライブルクU-15チームで研修を受ける。現在は元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU-13監督を務める。15年より帰国時に全国各地でサッカー講習会を開催し、グラスルーツに寄り添った活動を行っている。 17年10月よりWEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)の配信をスタート。

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