「岡山アホやな」と笑われても――それでも“海外との接続”を掲げた地方クラブの生存戦略
「岡山アホやな、と笑われてもいい」そう語る山田正道FD(フットボールダイレクター)の目は、本気だった。J1定着を目標に掲げながら、ファジアーノ岡山が打ち出したのは「海外との接続」という挑戦的なビジョン。欧州キャンプ、U-21 Jリーグ参戦、スペイン人コーチ招聘、若手の海外派遣──。それは単なる強化の延長線上の話ではない。資本競争が激化するJリーグで親会社を持たない地方市民クラブが生き抜くための、生存戦略である。
J1定着の先にある「生存戦略」
日本サッカーが変革する2026年、ファジアーノ岡山も新たな挑戦をスタートさせている。
1月9日に行われた新体制発表会見で、森井悠社長が今年の方針を打ち出した。
「J1定着は1年で成し得るものではありません。引き続きJ1定着という言葉を掲げながら、J1定着への基盤を固める年にしてまいりたいと思います」

2024年に当時就任3年目の木山隆之監督のもと、J2のレギュラーシーズンを5位でフィニッシュ。J1昇格プレーオフの準決勝と決勝を勝ち上がり、2009年のJ2参戦以来16年越しとなる悲願のJ1昇格を成し遂げた。
2025年はクラブのチャレンジャー精神と街の盛り上がりが化学反応を起こし、初挑戦ながら勇敢な戦いを演じて13位でシーズンを終え、残留を達成。下馬評を覆してみせた。
J1昇格を合言葉に団結して確実に力をつけてきたクラブは、一つの成功を収めたと言えるだろう。そして、J1での2年目を迎える。次なる目標は、日本のトップカテゴリーで戦い続けることだ。
収入の“第4の柱”としての移籍金ビジネス
森井社長はJ1定着のために必要なことして、「売上50億円の早期達成」と「アカデミー選手育成の強化」と並べて、「海外との接続」を挙げた。
「売上50億円の早期達成」と「アカデミー選手育成の強化」は、その言葉を聞いてイメージがつく。では、「海外との接続」とは一体、何か。2025年12月からフットボールダイレクター(以下、FD)を務める山田正道氏への取材をもとに輪郭を掴んでいきたい。

「海外との接続」というキーワードは、会社側がフットボール部門に、フットボール部門が会社側に要求したものではなく、両方の立場から日々の課題感を払拭するために必要なものとして浮かび上がってきたものだ。
「クラブが生き残るためには、海外と接続していかないといけない。(話し合いの中で)そういう結論になりましたが、お互いにそう考えていた。(社長の)森井さんも、僕たち(強化部)も必要だと思っていました」
新体制発表会見でこのキーワードを聞いた時、J1定着という直近の目標を達成するための手段のように感じたファン・サポーターも少なくないだろう。だが、クラブの存続という大きな前提条件に関係するものでもあったのだ。
Jリーグは成長著しい国内の大手企業が強豪と言われるクラブの経営権を取得したり、海外の企業がクラブ自体を買収したりといった変化が珍しくはなくなった。親会社の資本力をもとに、移籍市場で有力な監督や選手を獲得してクラブを強化し、スタジアムをはじめとしたハード面をアップデートすることでクラブの規模を大きくしようとしている。一種のマネーゲーム化していると言っていい。
その一方、岡山は親会社がいない地方の市民クラブだ。「スポンサー収入」「入場料収入」「物販収入」がJクラブ経営を支える3本柱と言われる。しかし、スポンサー収入は地域の企業の数や経営規模に左右され、「入場料収入」は約1万5000人で満員になるJFE晴れの国スタジアムでは増額の幅に限りがある。現に森井社長は「(2025年から2億円アップの)8億円程度が最大値」という試算を公表している。「物販収入」はファン・サポーターの消費行動に影響されるため、計画的な増加は簡単ではない。「海外との接続」によって、移籍金・連帯貢献金の獲得を4本目の柱にできるか。そういう意味でもクラブの命運を握っていると言っても過言ではないだろう。

Jリーグの欧州接近は何を意味するのか
Jリーグ自体が目指す方向性と統一させることも重視している。
2024年にイギリスのロンドンに欧州拠点「J.LEAGUE Europe」が設立された。2025年には海外指導者招聘プロジェクトが立ち上がり、ロジャー・シュミット氏がグローバルフットボールアドバイザーに就任。そして、2026年は欧州のリーグ戦に合わせる形でJリーグが秋春制へとシーズン移行が行われる。日本と欧州の接点を増やすことで、人材やノウハウの行き来を活発化させ、日本サッカーのさらなる発展と水準向上を図る。
シーズン移行に伴い、Jリーグは欧州キャンプ助成金制度を新設した。岡山は2026年7月にオーストリアでキャンプを実施することを表明。さらに、2026-27シーズンに若手育成の場として設立されるU-21 Jリーグにも参加する。岡山の動きは、時流に乗ることを強く意識している。
「(海外との接続は)Jリーグも提唱している。実際に森井さんと一緒にキャンプ視察に行かしてもらいましたけど、そこでも『やっぱりこういうことだよね』みたいな感覚になった。それを社長が『一緒になってやるぞ!』と旗を振ってくれた」
「海外との接続」でどういったものを得ることができれば、クラブとして生き残ることができるのか。山田FDが「段階がある」と前置きしてから口にした言葉には野心が顔を覗かせていた。
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Profile
難波 拓未
2000年4月14日生まれ。岡山県岡山市出身。8歳の時に当時JFLのファジアーノ岡山に憧れて応援するようになり、高校3年生からサッカーメディアの仕事を志すなか、大学在学中の2022年にファジアーノ岡山の取材と撮影を開始。2024年からは同クラブのマッチデープログラムを担当し、現在は様々な媒体にも取材記事を寄稿している。東京のスポーツメディア会社に約2年勤務し、2026年からは地元の岡山でフリーランスとして活動。モットーは、「魂を込めて、クラブや選手の魅力を伝える」こと。
