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「『信じる』という言葉は絶対使いたくない」“調子乗り世代”の理論派監督・柳川雅樹のシビアな「目的」逆算マネジメント(後編)

2026.01.02

日本のカテゴリー昇格への最も狭き門と言われる全国地域サッカーチャンピオンズリーグ(以下、地域CL)。2025年大会でその険しい戦いを制しJFLへの道を切り開いたのは、新進気鋭の指揮官に率いられたジェイリースFCだった。

就任2シーズン目で九州リーグを制し、難関を突破して悲願のJFL昇格へと導いた柳川雅樹監督は、ヴィッセル神戸アカデミー育ちで“調子乗り世代”のCB。木山隆之やスチュワート・バクスターら実力派の指導者に高く評価されながら育つと、負傷にも悩まされつつ、ヴィッセル神戸、ヴァンフォーレ甲府、ザスパ草津(現・ザスパ群馬)、栃木SC、ガイナーレ鳥取と各地を渡り歩き、その後はフィリピンリーグでも2チームでプレーして、その途上から選手兼指導者に。2019年には甲南大学サッカー部監督に就任し、1年目に関西学生リーグ1部昇格を果たすなど4年間でチームを強化する。2023年には恩師・木山の下でファジアーノ岡山のコーチを務め、昨年、ジェイリースFCで自身初のトップカテゴリー監督としてのキャリアをスタートした。

フィリピンリーグ時代にクラブ運営や広報までこなして身についたマネジメント能力や、積極的に学んだ心理学、緻密に収集したデータの分析などをベースに結果を追求し続ける38歳の指揮官に、話を聞いた。

後編では、「目的」から逆算されたビジョンが重要という自身のサッカー観、木村太哉や井上聖也などを育てた甲南大時代の指導スタンス、ユース時代の恩師で岡山でもコーチとして接してきた木山隆之監督から学んだこと、そして同世代の槙野智章の藤枝MYFC監督就任から受けた刺激について思いを打ち明ける。

前編へ

重要なのは「目的」から逆算されたビジョン

——若くして指導者キャリアをスタートした中で、コロナ禍を経てFIFAのレギュレーションが変わったりもしてサッカーのありようも随分と変化しましたが、ご自身のサッカー観はいかがですか。

 「変化していると思います。僕が指導者を始めた頃の日本サッカーは、ボールポゼッションすることが優位な状況につながって勝つ確率を上げるという考え方だったと思うんですけど、今はボールポゼッションよりも、いかに相手ゴールに迫るかというところ。ゴールデンゾーン、つまりペナ内のゴールエリア幅からの得点が8割というところで、そこにどれだけボールを届けられるか、かつ何人がそこに入っていけるか。ワンタッチでの得点が6割以上というところでは、ワンタッチでシュートできるシチュエーションをそこで作れるかどうか。それが点を取るための最優先事項だということは、データ上に表れています。確か、『footballista』で見たと思います(笑)。そういうデータも以前より分析し活用していく中で、よりポゼッションよりもいかに得点できるシチュエーションを作れるかというところに重きを置くようになった。そこが変わったところだと思います」

——ちょっと以前まではポゼッションだったりハイプレスやリトリートだったりといった手段が、目的と勘違いされやすくなる風潮がありましたが、今は非常に目的がはっきりしていますよね。

 「そこを履き違えてないチームがJリーグでも上位に行っていて、近年のJ1はまさしくそういう傾向にあると思います。いくらボールを保持しても得点できなければそのスタイルはそれでいいのかというところです。そこを間違ったら全部間違ってしまう。だから、なぜ神戸が2連覇できて京都や町田が躍進しているかということを考えたら、要素はいろいろありますけど、本質的にはやっぱり目的を間違えていないっていうところに直結すると思うんです。勝つための手段が何なのかというのはデータ上でもわかりやすくなっているので、より客観的に勝つ確率を上げることができるようになってきていると感じます。

 僕は栃木シティのディフェンシブコーチの津田(琢磨)さんと仲が良くて、いろいろな話を聞かせてもらってるんですけど、栃木シティが地域リーグ優勝してJFLも制覇してJ3優勝してっていうところには絶対に理由があって、僕はそれを非常に参考にさせてもらっているんです。目的と手段がマッチしていて、主観と客観でチームと個人を評価できるチームが結果を出す流れになってきている。『自分のやりたいサッカー』とか『選手が好むサッカー』とかではなく、『クラブの掲げる目標に向けて何をしたら結果を出せるか』というところが、10年前、15年前に比べると、より客観視しやすくなってきていると思います」

——そういう潮流の中で、各クラブやチームがそれぞれの色を出していく。それは何に依拠すると思いますか。

 「僕もまだまだなんですけど、まだいろんなことが整理されきってないかなという印象です。積極的に情報を取りに行っているクラブと取りに行ってないクラブ。社長やGM、監督が情報を集めようとしているか。それに基づいてクラブとして、また現場として明確にビジョンを持っているか。そういうところでも分かれてくるんじゃないかと思います。

 今の日本サッカーは、ヨーロッパなどの最先端をちょっと真似てなんとなく広がってるものはあるけど、明確にこれっていうところまでは行き着いてないんじゃないか。その中で一歩先を行っているのが栃木シティやいわきFCかなと思っているんです。栃木シティのサッカーを見た時に、悪く言う人もいるかもしれないんですよ、ロングボールが多いだとか。でも、勝つためからの逆算で明確なビジョンがあり、客観的にもデータを通してチームのベンチマークがはっきりとある。こういうチームはまだJリーグにも少ないと思います。それと監督がこういうビジョンを持っているだけではなくて、クラブとして明確なビジョンがあり、そのために主観と客観で監督の評価基準を持っていて、そこにマッチする監督を選定するとクラブカラーがはっきりするのではと思います。

 だから、日本ではまだ情報の整理段階で、そういうふうにビジョンが決まっていて、体系的に整っているクラブが少ないのかなと思っています」

「木村太哉を育てたい」甲南大で実践した“ポジションミックス”の背景

——サッカー観が変化した中で、指導法についてはいかがですか。

 「僕はまだそこまでの経験はないんですけど、やっぱり指導方法は変わっています。この2シーズンのジェイリースでの指導と甲南大でやっていた指導は180度、真逆です。甲南大の選手たちが今の僕を見たらめちゃくちゃびっくりすると思います。

 まず僕は甲南大では、基本的に試合中は指示を出していなかったんです。ベンチから何か指示を出すことは、ほぼなかった。大学では毎年、選手が入れ替わるので、戦力と状況を見極めながらその年ごとに戦術も変えていて、難しかったんですけどね」

——例えば、どんなことをやっていたんですか。

 「最初に僕が就任した時には、関西大学リーグの1部から2部に落ちたタイミングで、しかも1部リーグで歴史的大敗を喫したシーズンの直後でした。1年間で得失点差マイナス73。0-8とか3-11とかいったスコアで1年間戦って、組織としても崩壊していた。途中で監督が交代したりもあって、後期は選手だけでやっていて。その方が『もう守ろうぜ』って割り切って耐えてる試合が多かったんですけど、結局、勝負には負けている。そうやって2部降格した状態のチームを僕が預かったんですけど、1部から落ちてきたクラブなので2部の中では戦力的にはまずまずだった。で、そんなに急にいろんなことを変えるのは難しいなと感覚的に思ったので、まずはサッカーを楽しむというところと、昇格するためには失点すると難しくなるので守備をしっかり整理するというところを徹底しました。

 そうやって1年目で1部リーグ復帰を果たして、2年目から攻撃的な部分も高めたんです。当時はまだJリーグでも可変システムは、ミシャさん(ミハイロ・ペトロヴィッチ監督)がボランチを落として4枚にするとかいった程度で、今ほど複雑なことはあまりやっていなかった。

 僕自身もまだあまりサッカーをわかっていなかった中で、とりあえず関西1部リーグのチームは守備時に[4-4-2]のブロックを構えるチームが多かったので、じゃあこちらは[3-5-2]で相手のプレッシャーがハマりづらい立ち位置を取ればボールを回せるよね、と。その年はFWの選手がいなくて中盤の選手ばかりだったので、これはキツいな、どうしようといろいろ考えているうちに、もうポジションミックスしてしまえばいいっていうところに行き着いたんです。今はそんなのできないですけど。一応[4-4-2]をベースに、ある程度[3-5-2]の形を決めておいて、誰がどこをやってもいい感じにしたんですよ。FWの選手がアンカーのポジションに来てもいい。じゃあFWがアンカーのポジションに来たんだったらアンカーの選手は動いて、全員がお互いを見ながら、この選手がこう動いたら俺はここに行くといった感じで」

——それってポジショナルプレーの考え方ですよね。当時ってポジショナルプレーの概念ってまだないですよね。

……

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JFLジェイリースFC柳川雅樹

Profile

ひぐらしひなつ

大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg

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