ジェイリース就任2年目で地域CLを突破し、JFLへ。“調子乗り世代”の理論派監督・柳川雅樹のシビアな「目的」逆算マネジメント(前編)
日本のカテゴリー昇格への最も狭き門と言われる全国地域サッカーチャンピオンズリーグ(以下、地域CL)。2025年大会でその険しい戦いを制しJFLへの道を切り開いたのは、新進気鋭の指揮官に率いられたジェイリースFCだった。
就任2シーズン目で九州リーグを制し、難関を突破して悲願のJFL昇格へと導いた柳川雅樹監督は、ヴィッセル神戸アカデミー育ちで“調子乗り世代”のCB。木山隆之やスチュワート・バクスターら実力派の指導者に高く評価されながら育つと、負傷にも悩まされつつ、ヴィッセル神戸、ヴァンフォーレ甲府、ザスパ草津(現・ザスパ群馬)、栃木SC、ガイナーレ鳥取と各地を渡り歩き、その後はフィリピンリーグでも2チームでプレーして、その途上から選手兼指導者に。2019年には甲南大学サッカー部監督に就任し、1年目に関西学生リーグ1部昇格を果たすなど4年間でチームを強化する。2023年には恩師・木山の下でファジアーノ岡山のコーチを務め、昨年、ジェイリースFCで自身初のトップカテゴリー監督としてのキャリアをスタートした。
フィリピンリーグ時代にクラブ運営や広報までこなして身についたマネジメント能力や、積極的に学んだ心理学、緻密に収集したデータの分析などをベースに結果を追求し続ける38歳の指揮官に、話を聞いた。
異色の大会=地域CL突破のために必要なこと
——まずはJFL昇格おめでとうございます。昨年は地域CLを決勝ラウンド4位で終え、今年は見事にその難関も突破。2度目のチャレンジでしたが、振り返っていただけますか。
「まず結果的に話をすると、1回目のチャレンジだった昨年のすべての経験が、今年に生きた形でした。昨年、地決の決勝ラウンドまで行けたことが今年の昇格に直結したと思っています。
全社と地決ではレギュレーションが違いますし、地決でいうと予選ラウンドは連日、決勝ラウンドは中1日とまた違ってくるので、すべて別物だということを去年の経験から体感しました。いずれもタフな連戦で同じように見えるかもしれないですけど、レギュレーションによって全く違うんです。全社は5日連続の5連戦のトーナメント方式。地決は1次ラウンドがワイルドカードを含めた3グループのリーグ戦で3日連続の3連戦、決勝ラウンドは1つのリーグ戦で中1日。全部レギュレーションが違うので、戦い方もメンバー選考も変えなくてはなりません。全社は負けない確率を高めてPKの実力があれば勝ち上がれますし、地決の1次ラウンドは勝ち点6以上取った中で得失点と総得点が重要になるので、大前提として得点を奪いにいかなくてはなりません。決勝ラウンドは1次ラウンドと同様ではあるのですが、当該チーム間の勝敗も影響する確率が高いので、負けないことも大事になってくるなど重要事項が変わってきます。さらに大会中は選手個々のコンディションにバラつきが出るので、選手によっては個人単位でターゲットとする試合を決めて、逆算した中でコンディションを調整したりしました。栄養摂取や試合後のアイスバス、夕食後の温冷浴などにも当然こだわりましたし、僕自身もベストコンディションで試合に臨めるようにいろいろと気をつけていました」
——特に昨年は、メンバーの年齢や経歴、またケガがちな選手も多く、決して選手層が厚いとは言えない中で、言葉は悪いですが非常に効率的に起用している印象を受けました。プランはどのように組んでいたのですか。
「去年も今年も地決に関しては3試合トータルで考えて、自分たち30人のメンバーと相手チームの特徴をかけ合わせた時に誰をどのタイミングにどう使っていくかを、ある程度プランニングしてメンバーを組んでいきました。その中で勝つための最大値は何なのかということ。戦力を温存するということではなく、勝てる確率を最大限に高めるために誰をスタメンで使い、交代でパワーを出していくか。年齢的にもベテランの選手が多いので、誰をどのタイミングで何分程度起用するかも考えながらメンバーを選考していきました」
——今年、成功した一番のポイントはどこにあったのでしょうか。
「去年もJFL昇格という目標に対しては全選手がつねづね口に出してはいましたけど、それまで実際に地決に出たことがなかったですし、あまり現実的には思っていないんじゃないかなと感じていて。昨年それで失敗しているので、今年はもう絶対に上がる、上がれると思って臨めるようにマインドを持っていきました。僕はちょっと心理学を勉強していて、それを用いたコントロールですね。来年には自分はJFLでプレーしているというイメージを描くことが、すごく大事だと思っているんです。だから今年はシーズンの最初から、JFL昇格という結末をチーム全体に現実的にイメージさせてやってきました。そこが最終的には大きかったかなと。昨年はそういう思いが全く足りていなかったんです。地決に出て満足という雰囲気が、チームの中にちょっと感じられました」
データで可視化した「計算できる選手」
——昨年から今年にかけて選手もだいぶ入れ替えましたよね。
「まず、昨年はケガがちな選手がめちゃくちゃ多かったんです。やっぱり稼働してくれないと戦力が減るだけなので、コンスタントに稼働できる選手を残しつつ、若返りを図りました。それから、昨年は選手交代でなかなかパワーを出せなかった。交代選手がどれだけギアを上げられるかというところと、連戦の中でローテーションを組んだ時に戦力が落ちないというところ。全社と地決を勝ち抜くにはそこが大事で、戦力を落とさずに戦い抜くためには2チーム分くらいは必要になります。そこも含めて考えて選手を入れ替えました。
人件費のバランスについては僕が管理しているわけじゃないんですけど、選手個々の稼働率に関して、誰が何回練習を休んで誰が何回練習できているかというデータはすべて、クラブに提出しました。プレー時間は何分で何点取って何アシストしたか。そういったデータを可視化すれば状態はすべてわかるので、選手ごとの費用対効果を考えながら、クラブと話し合いました。
Jリーグに所属している選手は年俸も高いのですが、JFLや地域リーグに所属している選手は年俸が安かったり、他の仕事をして生計を立てている選手もいるので、その中から実力がありチームのスタイルにマッチする選手を見つけてくる。試合に絡めていない選手をJクラブから獲得しても、練習ではそこそこやれたとして、公式戦でどれだけやれるかというところ。そういうところもしっかりデータを整理して可視化し、誰が本当に戦力になるかを見極めていきました。それで、今年は戦力として計算できる選手、チームのスタイルにマッチする選手がある程度集まって、誰が出てもそんなに大崩れしないし、戦える選手が揃ったと思います」
——トレーニングや試合をこなしながら、他の地域リーグの選手までチェックしていたんですね。
「家で映像を見まくっただけです。今は別に全国を回らなくても、大学リーグでもYouTubeで配信していますから。この選手はこのくらいやれるなというのが、1試合ではわからなくても3試合、4試合、5試合と見ていけば、その特徴は大体わかります。その中から気になった選手をピックアップして、本当に見たかったら現地へ行くとか、監督やコーチとのつながりがあれば情報をもらうとか。
スカウトが現地に行ったとしても1日で見られるのはせいぜい2試合。それもフィールドの22人全員を目で追うのって難しいじゃないですか。でもYouTubeだったら何回でも巻き戻して見返せる。現地で試合を90分見るよりも、気になる選手が関与してないシーンは早送りすれば効率的ですからね。90分間で、もしかしたら3試合分見られるかもしれない。それに実際に試合を見たら、トップ下の選手が目当てなのにロングボールが蹴り込まれるばかりの展開で全然ボールに絡めない、ということもありますし。そうなったらすぐに次の試合に切り替えることもできるという、そういうメリットはあると思います。
僕らのようにスカウトを潤沢に確保できないチームからすると、まずYouTubeや映像配信サービスで片っ端から見てある程度のリストを出せるのはありがたいですね。あとはクラブやGMの考えに沿ってのチーム編成になります。JFLの戦いでは難しさも増すと思いますけど、編成を含め決断するスピードも大事だと思うので、今は本当に大事な時期ですね。JFLに昇格したことで満足してしまうことなく、明確に目標設定をしてその先に進んでいきたいと考えています」
——カテゴリーが上がると対戦相手の強度やスピードも変わります。来季のプランは?
……
Profile
ひぐらしひなつ
大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg
