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実は古くて新しいブラジルサッカー

2020.04.16

現代戦術から見る“王国”の凄み

史上最多5度のW杯制覇の実績はもちろんのこと、世界各地に選手を送り出しサッカー王国として名を馳せるブラジル。彼らが変わらず強くあり続けられる理由とは? 初のW杯優勝を飾った1950年代から現代に至るまで変わることのない独特の文化の潮流をたどってみよう。

ジンガ

 ブラジルのサッカーと言えば「ジンガ」である。

 ジンガは格闘技カポエイラで用いられるステップだが、もっと深い意味を持つようになった。サッカーにおけるジンガは極意、思想、あるいはソウルだ。

 カポエイラ自体は以前からブラジルにあったと言われているが、黒人奴隷の間で広まっていった。アフリカから労働力として連れて来られた人々は、ダンスのふりをしてカポエイラのトレーニングをしていたと言われていて、ジンガはサンバのルーツという説もある。

 1892~1932年までカポエイラは禁止されていた。権力に抵抗する手段とされたからだ。左右に体を揺らしながら主に足技で攻撃する。つかみどころのない揺らぎを伴った動きから、トリッキーな足技を繰り出す。真正面から力づくで相手を制圧するのではなく、幻惑して意表を突く。踊るように、力を抜いて、相手を愚弄するように。反権力、反骨、抑圧からの解放――ブラジルサッカーの底に流れているジンガは、米国音楽におけるブルースと似ている。

 ブラジルにサッカーがもたらされたのは他国と同じく英国から。当初は白人だけがプレーを許されていたが、ドイツ人とアフリカ系ブラジル人の混血だったアルトゥール・フリーデンライヒの登場で流れが変わっている。1938年フランスW杯でのレオニダスの大活躍から、黒人選手が大きな役割を果たすようになった。

 映画「ペレ」では、ジンガがキーワードになっている。1958年スウェーデンW杯が舞台だが、戦術重視の白人的なスタイルとジンガを発揮する黒人的なスタイルの対立が描かれていて、主人公のペレはもちろんジンガ代表だ。世間に認められず抑圧されていた「ジンガ」を、ペレがやるかやらないかという話になっている。実際がどうかはともかく、映画的にはわかりやすくしたかったのだろう。ペレがジンガを始めると、ほうれん草を食べたポパイのように突然超人的な能力を発揮するのだ。

 ペレのジンガは神から与えられた才能への賛歌、父親との結びつき、差別への反逆、因習打破の気骨、そうしたものがまぜこぜになったものとして描かれていた。

1958年W杯決勝の試合前、スウェーデン国王と握手をかわすペレ

基本形の[4-2-4

 1958年W杯のブラジルは、いまだに史上最強のナショナルチームと言われている。

 この時の[4-2-4]システムはフォーメーションが数字で表記された最初のケースなのだが、その後[4-3-3]とされているものもほぼ同じだった。さらに後の[4-4-2]や[4-2-3-1]も、実は初期の[4-2-4]とそれほど変わっていない。ブラジルの基本形は1958年ですでに出来上がっていたと言っていいと思う。

 1958年の最強セレソンはジンガだけではない。白人的なものと黒人的なもののミックスで、それは今日までブラジルサッカーの強さの源になっている。

1958年W杯を制したブラジル代表のメンバー

 GKは名手ジウマール。GKが弱点になることの多かったセレソンの歴史上では特別な存在だった。DFは4バックで、技巧的なSBジャウマ・サントス、ニウトン・サントスは攻撃にも加わり、攻撃的SBの先駆と言われている。

 MFの2人はジジとジト。ジトは今で言うアンカー、ジジはプレーメイカーだ。ジジはこの大会のMVPで、豊富な運動量、超絶技巧、構成力で抜群の存在感だった。

 FWは右のガリンシャが単騎突破型。ペレ以上のジンガの体現者であり、史上最高のウイングプレーヤーだ。CFは今日で言えばロベルト・レバンドフスキのようなオールマイティのババ。ペレはその左斜め後方にいる。WM(ハーバート・チャップマンが考案し隆盛した[3-2-2-3])のインサイドレフトそのものとも言えるし、セカンドトップとも言える。ババの周辺で中途半端なポジションでフラフラしていた。左ウイングのザガロはこのシステムの肝だ。中盤でジジを助けて組み立てをやり、左サイドへ出てウイングの仕事もやる。戦術的で白人的な役割と言える。

 1970年メキシコW杯のブラジルは[4-3-3]と言われていたが、実質的に58年の[4-2-4]と変わらない。ガリンシャ→ジャイルジーニョ、ジジ+ジト→ジェルソン+クロドアウド、ザガロ→リベリーノ、そしてペレはペレ。CFが戦車型のババから偽9番のトスタンに変わっているが、これは選手の個性の違いだろう。現代的に解釈すれば[4-2-3-1]に近く、セレソンの基本構成はほとんど変化のないまま現在に至っている。

1970年W杯開幕前に撮影されたブラジル代表の主力メンバー

ジンガの系譜、大型化、あらゆるポジションに影響力

 現在、ジンガの継承者はネイマールだ。ゆったりした動きからの急撃な加速、トリッキーな足技、本能的なインスピレーション――ジンガの伝統を色濃く受け継いでいて、最もブラジルらしいアタッカーである。

ジンガの伝統を受け継ぐネイマール。意表を突くアウトサイドキックや変幻自在のドリブルで相手を手玉に取るプレーは観る者を魅了する

 ネイマールと同種の先輩としてはロナウジーニョがいる。ヨーロッパへの輸出しやすさからブラジル選手の大型化とジンガの喪失が一時期懸念されていたが、ロナウジーニョは特別としても、ジンガを受け継ぐタイプの枯渇は杞憂のようだ。常にこのタイプは存在し続けている。

踊るようなステップワークで相手でDFをあざ笑うかのように交わし去ってみせたロナウジーニョ

 カカーはジンガとヨーロッパ的なパワーのハイブリッドだった。ロナウド、リバウドあたりからの大型化の流れの中にあり、ジンガの香りも残している。カカーは富裕層の白人であり、ジンガでない方のヨーロッパ型ブラジル人プレーヤーなのだろう。加速力が抜群で広いスペースを得たら無双状態だった。

ハイブリッドタイプと西部氏が評するカカー(左)。縦への推進力でカウンターの威力を引き上げるプレーは圧巻のひと言

 ただ、大柄なブラジル人FWの系譜は以前からもあって、70年代にアトレティコ・マドリーで活躍したレイビーニャはヘディングの名手。90年代のポルトでヨーロッパの得点王にも輝いたジャルデウもこのタイプ。ババの流れを汲んでいる。同時期にロマーリオ、ロナウド、エジムンドがいたのでセレソンではほとんどプレーしていないが、クロスボールを点に変換するゴールマシーンだった。

 MFでも80年代を代表するソクラテス、ファルカン。ソクラテスの弟、ライーも長身の技巧派である。ジンガ色は薄いがフィジカルと知性と感覚を兼備した優雅なコンダクターだ。

 SBの攻撃力はブラジルならでは。もともとMFだったジュニオールはジンガを体現するSBとして活躍、ビーチサッカーで世界一になっている。カフー、ロベルト・カルロスがスピード、スタミナ、テクニックの高度な結実を示し、ダニアウ・アウベスとマルセロは現代的なオールラウンドなSBであるとともに、ジンガを色濃く残している。現在、このポジションはアタッカー以上にジンガ要素が豊富かもしれない。

従来のSBの枠を優に超える足下の技術を駆使してポゼッションのクオリティを高めるマルセロとダニエウ・アウベス。ジンガのイズムを継承するSBの代表格だ

 かつてはアタッカーが中心だったヨーロッパへの移籍も、90年代にはすべてのポジションに広がっている。GKではジダ、ジュリオ・セザールがイタリアで活躍。現在はエデルソン、アリソンが世界最高クラスと評価されている。

足下の技術にも優れた「現代型GK」の代表格エデルソン(左)とアリソン

 CBもペペのような頑健なクラッシャー(後にポルトガル代表を選択)、チアゴ・シウバのような万能型まで幅広く活躍。チアゴ・シウバは70年代にアトレティコ・マドリーでプレーしたルイス・ペレイラの系譜を継ぐ、技巧的で身体能力にも優れた安定したザゲイロ(CB)の代表格だろう。

高くて速くて強くて巧い。モダンCBの第一人者の一人チアゴ・シウバ

 守備的MFでは90年代にデポルティーボ・ラ・コルーニャで活躍したマウロ・シウバが忘れがたい。樽のような体型ながら素晴らしい読みと守備力、ボールを持っても余裕綽々。80年代のジュニオールと似たマエストロでジンガの香り高い、まさにボランチという選手だった。アレモン、バウド、ドゥンガ、セザール・サンパイオ、ゼ・ロベルト、ジウベルト・シウバなど、多くの名手を輩出している。現在はフェルナンジーニョ、カセミロが守備的MFとして活躍中だ。

カセミロとフェルナンジーニョ。代表でも所属クラブでも、豪華絢爛な攻撃陣を支える存在となっている

 多種多彩な人材を生み出すブラジル。世界のサッカーはもはやブラジル人なしでは成り立たない。ジンガという特殊な魂を秘めたブラジルサッカーは、今や世界中で普遍的な価値を獲得している。

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ジンガの継承者として現セレソンの主役を張るネイマールや現代型ファンタジスタのはしりとなったカカーなど、王国ブラジルが誇る精鋭たちが大人気スポーツ育成シミュレーションゲーム「プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド」(サカつくRTW)で蘇る!

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Photos: Getty Images

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カカーネイマールブラジル代表

Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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