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「バルセロナ=カンテラーノ」時代の終焉

2019.10.11

かつてレアル・マドリーの「ラ・ファブリカ」とバルセロナの「ラ・マシア」が二大育成組織だった。が、2000年代の銀河系補強によってまずラ・ファブリカが影響力を失い、今ラ・マシアもジョセップ・マリア・バルトメウ会長の新銀河系補強によって衰退の道を歩もうとしている。
※10月15日20時30分、一部内容を修正し再掲しました

 なぜカンテラを信用せず、銀河系補強なのか? 単純な話である。「全員カンテラーノで無冠」と「カンテラーノ抜きの銀河系軍団でCL優勝」とではどっちを取るか? 「いや、カンテラーノがいてCL優勝が良い」という良いとこ取りの意見がバルセロナファンの大半の声であり、バルベルデは何とか彼らを満足させようと四苦八苦しているのだ。

 バルセロナの監督への要求レベルは、2000年代初めまではクラシコに勝ってリーガかコパ・デルレイを獲る、であり、CLはボーナスのようなものだった。

 1993-94シーズン、監督クライフは最終節に逆転でリーグ優勝を果たし、そのお祝いムードでアテネに乗り込んだCLファイナルで4-0とミランに大敗を喫した。ショッキングな結果であり、「ドリームチームの終わりの始まり」と称する者も多い。だが、それでクライフのクビがうんぬんされることはなかった。その2年後に解任されたのは、無冠に終わり当時の会長ホセ・ルイス・ヌニェスの不興を買ったから。ここを強調しておきたいが、クライフ最後のシーズンの誤りは「カンテラーノ中心の新ドリームチームで臨んだことだった」のだ。

 それが監督グアルディオラの登場ですべてが変わった。

 カンテラーノが過半数を占めるチームで2度のCL制覇を成し遂げた彼は、“カンテラーノ中心とCL優勝は両立する”、否、“カンテラーノ中心でないとCLには勝てない”という“伝説”を作り上げてしまったのだ。この伝説、グアルディオラは即刻否定するに違いない。“勝利のためにベストメンバーを選んだらカンテラーノだったのだ”と。

カンテラーノ抜擢とCL優勝どっちが大事?

 昨季バルベルデはリーガ優勝を果たしコパ・デルレイで決勝に駒を進めながら、CL準決勝で敗れてクビ寸前までいった。グリーズマンに加えネイマールまで獲る勢いだったフロントのメッセージは、“今季こそCLを獲れ”であり、“獲れなきゃクビだ”である。

 つまり、冒頭の問いに対する答えはすでに出ている。「カンテラーノ抜擢<CL優勝」なのだ。

 昨季バルベルデは7人のカンテラーノをトップデビューさせた。これで任期2年で通算9人、よく比較されるグアルディオラの4年で22人とあまり変わらないペースである。とはいえ、7人がデビューしたのはコパ・デルレイ序盤の2部Bチームとの対戦時とリーグ優勝決定後の消化試合であったことも指摘しておくべきだろう。“員数合わせ”と批判するなかれ。力が未知数の若手をレベルの低い試合から慣らしていくのは、賢明な判断だ。そして、必勝を目指すならカンテラーノか否かを考慮せず、実力だけで選手を選ぶのもまた当然だろう。こうしてCL優勝が半ば義務になると同時に、財政的に潤って自給自足の必要がなくなりカンテラーノの重要性は失われていった。

 例えば、今季の開幕戦でバルベルデが選んだ11人の中にカンテラーノは4人(ピケ、ジョルディ・アルバ、セルジ・ロベルト、アレニャ)。メッシが負傷欠場、ブスケッツがベンチスタートは異例だが、S.ロベルトとアレニャは絶対的なレギュラーというわけではないので、プラスマイナスはゼロ。これはライカールト指揮下の2006-07シーズン以来の少なさだった。ルイス・エンリケ時代の3年間は6人、5人、6人、マルティーノ時代は7人、ティト・ビラノバの2012-13は何と9人、グアルディオラ時代は5人、7人、6人、7人だった。

2019年8月16日、アスレティック・ビルバオ戦のスターティングイレブン

アスレティック、ソシエダ……バルセロナは7位

 バルセロナがカンテラーノの存在に胸を張る時代は過ぎている。各クラブのトップチーム内での下部組織出身者の割合をランキングしてみると、バルセロナの22人中7人で割合にして31%というのは、20クラブ中7位に過ぎないのだ。

 今やリーガで育成上手なのは、バスク純血主義を掲げて7割をカンテラーノが占めるアスレティック・ビルバオを筆頭にバルセロナの倍のカンテラーノが活躍する6割のソシエダ、5割を超えるセルタ、4割台のエスパニョールとビジャレアル、次いでオサスナである。開幕戦のスタメンを見てもアスレティック、ソシエダ、セルタは各7人をカンテラから送り込んでいる。

 バルセロナの育成力が落ちたとは思わない。ムニル(セビージャ)、サンドロとマシプ(バジャドリー)、エドガル(フェイエノールト)、ハリロビッチ(ヘーレンフェーン)、カプトゥーム(ベティス)、アイトールとオリオル・ブスケッツ(トゥエンテ)、ククレジャ(ヘタフェ)らのように、トップチームで出場歴がありながら居場所がなく、外に活躍の場を求めざるを得なくなっただけだ。バルトメウとバルベルデがカンテラーノを軽視しているとも思わない。何が何でもCL優勝という要求に応えようとしているだけである。


Photos: Getty Images

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バルセロナ育成

Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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