SPECIAL

対談後編:結城康平×らいかーると「ポジショナルプレーVS和式」論争

2019.08.13

『欧州サッカーの新解釈。ポジショナルプレーのすべて』発売記念企画#3

7月27日に発売された『欧州サッカーの新解釈。ポジショナルプレーのすべて』は、名将ペップ・グアルディオラによって言語化されたことを契機に世界中へと広がり一大トレンドとなった「ポジショナルプレー」を軸に、WEB発の新世代ライター・結城康平が現代フットボール理論を読み解いていく一冊だ。

今回は、5月に発売した『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)が大きな反響を呼んでいる人気ブロガーで現役指導者でもある、らいかーると氏と著者による“戦術クラスタ”対談の後編をお届け!らいかーると氏の指導現場でもある日本の育成を中心に、ポジショナルプレーだけでなく「和式」から「ゲームモデル」まで幅広く語ってもらった。

「再現性がない?」VS「自由でこそ輝く?」


――らいかーるとさんは今季のJリーグで「ポジショナルプレーVS和式」という構図が顕在化しつつあるとおっしゃられていましたよね。

 ただ、“戦術クラスタ”の間で取り上げられる「和式」にも様々な定義があるかと思います。らいかーるとさんはどのように解釈されているのでしょうか?

らいかーると「和式という言葉を使っている人が大勢いる中、それぞれの定義がバラバラなので難しいんですけど、『日本的なサッカー』というニュアンスです。じゃあ、日本的なサッカーってどういうものかというと、『選手の発想・個性を大切にするサッカー』だと捉えています。昔から言われていましたが、例えば海外のフィジカルが強いチームに対して、『日本人が正面からぶつかるとどうしても勝ちづらいから、選手同士の距離を狭くして高速パスで打開しましょう!』というアイディアが実際にありました。ザッケローニ時代もフル代表がそうなってしまう傾向が強かったので、日本でサッカーをやっている人のDNAに刻まれているのかもしれません。

ブラジルW杯では失意の結果に終わったが、ザッケローニ(右)率いる日本代表が体現した細かなパスワークでゴールに迫るスタイルは多くのサッカーファンから支持を集めた

 その結果、『一人ひとりの役割がいい意味でも悪い意味でも曖昧になる』のが和式のサッカーだと思います。そういうサッカーでは、一人ひとりがボールを持った時に無限の選択肢の中から自分で最適解を選ばないといけなくなる。そこにはあまり『再現性』がないから結構大変ですが、好き勝手できるので自由は謳歌できる。それがすごく合う選手もいれば、きつく感じる選手もいます」

結城「ポジショナルプレーの考え方は、それほど属人的ではありません。同時に、厳しく選手を戦術で縛りつけるわけでもない。そういったバランスこそが、ヨーロッパで成功を収めている要因だと考えています。スペイン人指導者の言葉を借りれば、ヨーロッパは日本と比べて個人主義的なので『我が強い選手たちを、自分たちが操られていると感じない状態』でチームの戦術の中で動かすために『ポジショナルプレーという基準』が求められてきたという考え方も存在するようです。

 そう考えると、より協調的・集団主義的な性質を持った日本人とポジショナルプレーの相性は悪くないのかもしれません。日本のサッカーは、選手が変わった途端にやることが変わっちゃうことが多いですよね。日本代表でも『2列目の選手が変わるとやるサッカーが変わる』というのは利点になることもありますが、チームとして再現性・継続性を持つことができないという難しさでもあります」


――例として挙げられた2列目の選手に目を向けると、日本には中島翔哉や堂安律に加え、久保建英も台頭してきているように素晴らしいタレントがそろっていますから、なおさらもったいないですよね。

らいかーると「でも、堂安や中島は代表だと気持ち良さそうにプレーしていますよね」

結城「彼らは所属クラブでは、若干プレースタイルを変えていますからね。代表では、規律から解き放たれたかのようにプレーしている。あの2人は『緻密な戦術にはめると気持ち良くプレーできないタイプ』なのかもしれません。堂安はオランダのアナリストにも、『周りを使う能力はあるので、もっとチームの中で技術を活かす方向に成長してほしい』と評価されていましたが」

らいかーると「そういう見極めは本当に難しいですよね」

結城「日本である程度自由を与えられて育ってきた選手が、欧州でどうやって適応していくのかはとても興味深いです。中島もポルトに移籍してもっと戦術的な縛りが増えるでしょうから、今後どうなっていくか要注目ですね」

先日のコパ・アメリカでは自由奔放なプレーに賛否両論が巻き起こった中島。新天地ポルトではそのプレースタイルが試されることになりそうだ


――そう考えると、選手は育成年代からポジショナルプレーのような一定の枠組みの中でプレーしていく必要があるのでしょうか?

らいかーると「すでに日本でもやっているチームはやっています。ただ、それをやっている選手がトップに上がってくるかというと、話は別です。日本サッカーにはいろんな評価軸が混在していますからね。それこそ、『ポジショナルプレーを個の力でぶっ壊す選手がプロになっているだけ』かもしれません。例えば知名度の高いユースチームはタレントが自然と集まってくるので、細かいことをしなくても勝ててしまいます。だとすると、むしろバラバラの方が選手に求められるものは多いことは事実です。『今日は相手が[4-4-2]だから、こっちも[4-4-2]で目の前の相手ぶっ倒してこいよ!』っていうサッカーの方がポジショナルプレーよりもある意味きついです。でも、その競争の中で勝ち残っていく選手もそれはそれですごい選手だと思います。そういう選手が急に枠組みにはめられたら、なんだこれは!?ってなるのも当然です。ポジショナルプレーを実践しているマリノスでもついていけない選手はついていけないと思いますし、育ってきた環境との差に適応することは非常に難しいでしょうね。

 一方で、ポジショナルプレーというよりも『しっかり顔を上げて、ちゃんと見て、プレーするチーム』は徐々に増えてきていると思います。そうやって育ってきた選手たちは、ポジショナルプレーという枠組みを与えられても、対応できるんじゃないかな。それこそ、バルセロナに行った安部(裕葵)が当てはまるのではないでしょうか。初めて見た時からそうでしたが、シンプルに技術が高いですし、ドリブルも巧い。さらに、顔も上がっていたのでそういう教育を受けてきたんじゃないかな!と思います。だからこそ、バルセロナに引き抜かれたのかもしれません。しっかり見てプレーができる選手を育てよう!っていう流れは今の日本の育成年代の中で、徐々に芽生えてきているので、それはいい流れだと思います」

結城「らいかーるとさんのお話を聞いて、クリスティアン・プリシッチを思い出しました。アメリカ出身の10代がドルトムントに引き抜かれて、そのままチェルシーまで上がってきたというキャリアは、アメリカの指導者にとっては衝撃的だったみたいです。アメリカも日本のように『目の前の相手をぶっ倒す』という比較的『個の能力』を重視するスタイルをずっと続けていたので、プリシッチのような選手はアメリカの育成では成功しなかっただろうと。

今夏から活躍の場をチェルシーに移しているアメリカ代表MFプリシッチ

 一方、彼がヨーロッパで評価された要因は、アメリカの指導には存在しない思想がヨーロッパの育成には存在するということではないかと議論になっているそうです。アメリカの指導者にとっても、『どうやってプリシッチのような若手を見つけ、育成していくべきなのか?』というのは大きな課題になっています。だからこそアメリカの若い指導者は、『育成をどのように変革すべきか?』という議論に挑んでいます。

 まさに日本でも、同様なのかもしれません。久保や安部のようにJリーグでも活躍できる素地を持ちながら海外に引き抜かれた選手の行く末は、従来の指導について再考することを助けるのではないでしょうか。バルセロナでの指導によって、日本では磨けなかった技術が磨かれていくことになれば、日本の指導者も新たな着想を得ることになるのかもしれません」

らいかーると「選手を評価する基準はヨーロッパと日本では全然違いますし、それぞれのチームでも違いますからね。だから、他のチームに行けばすごく評価される選手も、また他のチームへ行けば違う評価になる。それは日本でも欧州でもある話でしょう。どっちが優れている・優れていないという話ではないんですけど、今の日本はサイズの大きい選手を優先的に育てようとしています。その流れ自体は間違っていないと思うんですけど、『小さい選手・頭のいい選手をどれだけピックアップしていけるか』が今後の鍵となる気がしています。三好(康児)や久保のようにわかりやすい技術があれば生き残っていけるんでしょうけど、ただ頭がいいだけの選手がトップのトップで通用するかというとまた別の問題です。そういう選手が高校年代まで自分に適したチームを選んでいければ生き残れる確率は上がるかもしれません。

 でも、頭はいいけれど……という選手が上を目指していくにつれて試合に出れなくなってフェードアウトしていくのは山ほどあるケースです。壮大な話になりますけど、『育成年代から選手のキャリアデザインはすごく戦略的にやっていかないといけない時代』かもしれません。日本の育成年代について様々な意見が飛び交っていますけど、その子にとっての当たりっていうのは人それぞれ全員違います。Jクラブの下部組織に入ることが正解の子もいれば、そうじゃない子も当然いる。それをちゃんと選んでいけるかがすごい大事です。だから、安部は本当にそれが結果としてうまくいったんだと思っています。あとはサッカーをやめないことです。例えば、伊東純也は小・中・高で選抜歴もなかったそうですが、レイソルでハネて海外にまで行っています。もしかすると、小・中・高は本当に大したことなかった選手だったのかもしれませんが、日本で評価をされてこなかった子がそれでもサッカーを続けた結果、大学でとうとう見出されることもあります。そういうめぐり合わせを信じ続けることは難しいですよ。指導者の中では『運』だと言われていますが、それを『どれだけ運じゃなく計算されたものにしていくのか』が日本サッカーのテーマだと思います」

結城「その壮大なテーマに挑む中で、私や『フットボリスタ』という媒体ができることっていうのは、ヒントを与えることだと思っています。当然、それが正解だとは限らないとしても、ヨーロッパで使われている最新の思想・基準を紹介していくことで、新たな評価軸が生まれる。そういった別の評価軸によって、日本の従来の方法では見つけられなかった選手を見つけられるかもしれない。だからこそ今後も、欧州で注目される理論を噛み砕きながら伝えていきたいですね」

育成年代では「ゲームモデル」より「コンセプト主義」?


――その一例として、結城さんは書籍内でポジショナルプレーだけでなくヨーロッパ発の「ゲームモデル」についても紹介されていますよね。現場に立たれているらいかーるとさんから見て、日本の育成年代におけるゲームモデルの普及は進んでいるのでしょうか?

らいかーると「いや、まだゲームモデルを取り入れてないチームの方が多いです。どちらかと言うと、『無の中で何かできないのおまえら?』というチームが大半です。それを意図的にやっているかどうかは不明ですが」

結城「でも、スペインやドイツを見ていると自分のセンスだけで何とかしてしまうような『創造性を武器にする』選手って減りましたよね。サッカーが緻密化してきている影響なのかもしれません。ドイツの育成年代を見ていても、このポジションはマルチロールの動きが求められて、ポジションの入れ替わりがベースになっている、というように一定の縛りがある。自由を与えられることで創造性を発揮する選手自体が、絶滅危惧種になってきている」

らいかーると「特にドイツはそうですよね」

結城「逆にドイツは、そのせいで失敗したという論調もあるので、“フニーニョ”のようなストリートサッカーとの融合への回帰にも挑戦しています。結局はメスト・エジルのような選手が、今のドイツサッカーからは輩出されない」

崩しの局面でアクセントを加えられる希少な存在としてドイツ代表で攻撃のタクトを振ったエジルだが、ルーツであるトルコの大統領と面会したことに対して母国から批判が相次ぎ代表引退を決断

らいかーると「ドイツは『ゲームモデルの罠』にはまっちゃったのかもしれませんね。やっぱりゲームモデルって『突き詰めれば突き詰めるほどパターンに陥る罠』になっていると思います。極端なたとえですが、ボールを持つことをゲームモデルとするチームでプレーした選手は、ボールを持たないチームでプレーしたら苦戦してしまう。それじゃダメじゃない?っていう議論がスペインでは5、6年前から起こっているそうです。もっとざっくりとサッカーに必要な能力をまとめて、それを学習させていく『コンセプト主義』に傾いているとか。イタリアの指導者がよく言っていましたけど、結局50年経ってもカバーリングの原則は変わらない。だったら、それは知っておいた方がいいじゃん!!っていう話です。

 最近はあまり言われないですけど、サッカーの原理原則っていう考え方はそこに近いのかな!と思っていて。どっちみちこう守るよね?とか。でも、実際にカウンターを浴びるとできてなかったりする。それをちゃんと一つひとつやっていくのが育成年代の存在意義なんじゃないの?それが教育なんじゃないの?!っていう考え方がヨーロッパではもう主流になっているのかもしれません。

 それができないなら、極端なゲームモデルをやったほうがいい。ただ、それをやるには結構な覚悟が必要です。特にボールを持つサッカーを経験してきた選手って、それを誇りに思っていたり、それがサッカーだと思い込んでいたりするので。次の年からいきなりアトレティコのようなチームに行って、いきなり走りますよ!ってなったら、こんなのサッカーじゃないじゃん!!ってなりがちです。そこのマインドリセットも含めて取り組まなきゃいけない、なかなか根深い問題です。高校サッカーも含めて、そのチームなりのアイデンティティに選手は誇りを持ってて。でも、大学に入って異なるサッカーと直面した時になんか違くね?ってなってフェードアウトしていくケースは結構多いです。例えば、結果としてドリブルが売りになっているとある高校では、選手に『ドリブルだけがサッカーじゃない!』って叩き込んでいるので多くの卒業生が大学でも活躍しています。もし『ドリブルが一番!』という教育をチームで受けてきていると、大学でそれが合わなければ続けられなくなってしまう。

 だから、久保は戦略的にやっていたかわからないですけど、FC東京に行ったのは大正解になりましたね。最初は適応することが難しかったかもしれませんが、FC東京の走るサッカーを頑張って頑張ってやって、マリノスで少しだけ慣れ親しんだサッカーに戻って、J1のスピードに慣れて帰ってきて、FC東京のトップチームに定着できました。走力・フィジカルも含めて解決できたから、ある意味無敵です。だから、レアルでも大丈夫でしょう。どこまで計算されているかわからないですけど、背後でキャリアを描いている人が優秀なんだと思いましたね」

移籍早々、レアル・マドリーのプレシーズンツアーに帯同した久保。限られた出場時間の中で輝きを放ち評価を高めた

結城「近年育成で成功を収めているベルギーやフランスにもゲームモデルはありますが、ドイツとは違って適度な縛りになっています。だからこそ、バランスが重要なのでしょうね。欧州ではゲームモデルの一歩先を行く議論が進んでいるので、日本サッカーにもゲームモデルという考え方が定着し、議論が活発化していくことを願っています」


――ポジショナルプレーだけでなく、ゲームモデルを学ぶ上でもぜひ『ポジショナルプレーのすべて』を読んでいただきたいですね。編集部としては同時発売された『実践的ゲームモデルの作り方』も併せてオススメです(笑)。『アナリシス・アイ』もそうですが、最近は教科書代わりになるサッカー書籍がたくさん登場しているので、夏休みの今こそ様々な本に触れて知識を蓄えたいところですね。お2人ともお忙しい中、ありがとうございました

■『ポジショナルプレーのすべて』発売記念企画

#1 渡邉晋が挑戦する「言語化」日本サッカーを成熟させるために。
#2 対談前編:結城康平×らいかーると戦術分析は「まちがいさがし」
#3 対談後編:結城康平×らいかーると「ポジショナルプレーVS和式」論争


Photos: Getty Images

TAG

戦術育成

Profile

足立 真俊

1996年、岐阜県出身。生まれもっての“人見知り”を克服するためにアメリカにあるウィスコンシン州立大学でコミュニケーション学を専攻。学業の傍らで趣味として始めた翻訳活動がきっかけとなり、翻訳を通じたサッカーに関する情報発信を模索中。2019年5月、結局“人見知り”のままfootballista編集部の一員に。