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盟友が分析する呉屋大翔、好調の要因 フィニッシュワークこそ生きる道

2019.07.02

ガンバ大阪からV・ファーレン長崎にレンタル移籍後、J2タイ記録となる7試合連続ゴールを決めるなど絶好調の呉屋大翔選手。大学時代に関西学生サッカーリーグで3年連続得点王を獲得した実績があり、本来の得点感覚が“復活”したとも言える。好調の要因は何なのか。関西学院大学の同級生であり、徳島ヴォルティスでもともにプレーした盟友・井筒陸也氏に分析してもらった。

フィニッシュワークの「スアレス理論」

 呉屋は2019年6月末現在、ゴールを量産しています。大学の同期でもある彼にはできるだけ長く活躍してほしいと願っています。彼の好調要因を分析するにあたって、僕の屁理屈が彼のパフォーマンスの再現性に少しでも寄与できれば、これほどうれしいことはありません。

 20代半ばにもなると、“心技体”における技や体が短期間で向上することはありません。そうなると好調の要因は“心”ということになります。呉屋の活躍を分析するにあたって、彼の精神状態を推し量るのは難しいですが、おそらく良い変化が起きているのは「フィニッシュワークに対する認識」にあるというのが僕の見立てです。

 見立てを説明する前に参考として、僕が会社の仲間とモデル化した「スアレス理論」を紹介させてください。スアレスとは、みなさんご存知のルイス・スアレスのことです。ことの発端は「なぜスアレスはチェイシングをしているだけでゴールの気配を感じさせるのか」という素朴な疑問でした。一般に語られるフィニッシュワークとは「トラップ→シュート」あるいは「シュート直前のボールの引き取り方」までを含んだ行為のことを指します。そして、そのタスク間の“なめらかさ”を対象に『フィニッシュワークが巧い』や『ストライカーの才能がある』などと表現されます。

 仮にゴールの気配を「フィニッシュワークという、一連の動作に入った時に生じるもの」と定義すると、平凡な選手がボールを引き取った以降にしか発することができないのは、ボールを引き取ってからしかフィニッシュワークを始められていないということになります。

 一方、スアレスにとってボールホルダーにチェイスをするというタスクはフィニッシュワークの一環です。だからこそ、そこにゴールの気配が宿ります。点を取ることと、ディフェンスを頑張ることは、彼の中で分裂していない。フィニッシュワークに含まれるものとして、シュートが撃ちやすい位置にトラップをするのと同じ感覚で、彼はディフェンスをするのです。

 これはプレーヤー側の「このディフェンスはフィニッシュワークだ」という(無意識下での)確信がゴールの気配として発露し、目的から逆算されたすべてがなめらかに統合されて、一つのワークと呼ばれるに相応しい形を成しているのです。

 では、いかにして「このディフェンスはフィニッシュワークだ」という確信(認識)を、自己の中に作ればいいのか。必要なのは「ゴールを決めたい」という明るい欲望ではなく、「ゴールこそすべて」という執着。ゴールへの渇望が必要なのです。

フィニッシュワークの幅が広いルイス・スアレス(Photo: Getty Images)

生きていくために自分のプレーをする

 呉屋の話に戻ります。最近の彼は「フィニッシュワークをしている時間」が長い。たくさんのプレーを、フィニッシュワークの内に含んでいます。パスが出る前、ボールを奪う前、すでに彼の体からは、ゴールの香ばしいにおいがします。非言語で感覚的な話ですが、スアレス理論を参考にしていただけると、そのにおいが発生するメカニズムが、何となくわかっていただけるかと思います。チームが変わったから、監督が代わったからというのは主要因ではありませんが、とにかく彼のフィニッシュワークというものの認識に変化が起きたことは確かです。

 Jリーグという地に足を踏み入れて、まず始まるのは自分のアイデンティティの所在を探すことです。周りには、全体的にも、部分的にも、明らかに自分より優秀なプレーヤーが多くいます。激しい競争環境の中、感じるのは孤独にも近い感覚で、唯一拠りどころになり得るのは自分のプレーだけです。自分を表現する方法を持たずに、場当たり的に結果を求めてプレーをしている選手は、心の健康面において長持ちしないのではないでしょうか。

 一つでもいいからと、自分らしさと誇れるプレーを見つけたいとみなが思っています。しかし、皮肉なことに、これまで積み重ねてきたキャリアがプロの世界でも自分らしさとして通用するとは限らず、アイデンティティの剥奪のような経験を避けては通れません。身長不足でサイドバックにコンバートされた僕もそうですし、Jリーグ入り後3年間、思うように点を取れなかった呉屋も例外ではありません。

2015年にはユニバーシアードのサッカー日本代表にも選出された(Photo: Getty Images)

 単純に言えば、呉屋はガンバ時代にはディフェンスを、徳島時代にはポゼッションを求められてきました。彼は決してそれらに消極的だったわけではなく、むしろ楽しんでやっていたように見えました。そうやって「マルチにこなせるFW」というキャラクター設定も一つの選択肢としてあったのだと思います。

 しかし、彼の最大の特徴はフィニッシュワークです。トラップは下手くそだけど、フィニッシュの前のトラップは巧い。動き方もガチャガチャだけど、フィニッシュに向かう動きは巧い。ディフェンスも、ポゼッションも、フィニッシュも、コンスタントに及第点が出せるようなOSが彼に搭載されていないのは地元では有名な話です。

 ヴィッセル神戸ユースに上がれなかったこと、流通経済大学付属柏高等学校で試合に出られなかったこと、そして1年生から関学でエースとしてみんなから必要とされたこと。様々な体験が、彼にとってのゴールの価値を押し上げ、プレースタイルを形成した。

 思い返せば、大学の学食を食べている時も彼からはゴールの気配がほんのり漂っていました……というのはさすがに嘘ですが、少なくともピッチに立ったとき、何気ないアクションから発する言葉の一つまで、それはフィニッシュワークそのものでした。そんなプレーヤーがゴール前をウロウロしていると、ちょっとしたキックフェイント、オフ・ザ・ボールの駆け引き、またはチェイシングですら、DFにとっては大きなストレスになることは容易に想像できます。

 結論のようなものを申し上げるとすれば「難しいことを考えず、ゴールに飢えていれば良いんじゃない?」となります。たくさんの人から類似のアドバイスをもらっていることと思います。より丁寧に言えば「ゴールへの強い意思が、すべてのプレーをフィニッシュワークに昇華させる」

 呉屋くんいかがでしょうか。何を書いているのかわからないと思うので、電話してください。今週は忙しいので、来週以降で。

V・ファーレン長崎の攻撃を牽引する呉屋選手(Photo: Takahiro Fujii)

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Rikuya Izutsu