SPECIAL

うぬぼれ、衝突…自分でミスに気づき、成長させる指導の大切さ

2019.05.10

指導者・中野吉之伴の挑戦 第十四回

ドイツで15年以上サッカー指導者として、またジャーナリストとして活動する中野吉之伴。2月まで指導していた「SGアウゲン・バイラータール」を解任され、新たな指導先をどこにしようかと考えていた矢先、白羽の矢を向けてきたのは息子が所属する「SVホッホドルフ」だった。さらに古巣「フライブルガーFC」からもオファーがある。最終的に、今シーズンは2つのクラブで異なるカテゴリーの指導を行うことを決めた。この「指導者・中野吉之伴の挑戦」は自身を通じて、子どもたちの成長をリアルに描くドキュメンタリー企画だ。日本のサッカー関係者に、ドイツで繰り広げられている「指導者と選手の格闘」をぜひ届けたい。

【2018-19シーズン 指導担当クラブ】
フライブルガーFC/U-16監督
SVホッホドルフ/U-8アシスタントコーチ

▼後期のリーグ戦が開幕!

 5-1で快勝し、フライブルガーFCのU-16は幸先のいいスタートを切った。2戦目は、私にとっての古巣SGアウゲンを13-1で下した。しっかり気持ちを集中させて大勝したことはすばらしいが、ただこの勝利がチームに変な空気をもたらした。簡単に言うと、物足りなさだ。以前から指摘しているように、選手にとって現在所属しているリーグは最適なレベルとは言えない。「自分たちのプレーに集中しよう」とはいっても、あまりに歯ごたえのない試合が続くと、「何のために試合をするのか」「何のために練習するのか」という目的がブレてしまう。もちろん、できている選手も多くいる。しかし、この年代の選手たちはいわば『年ごろ』の子どもたちだ。羽目を外したくもなるし、調子にも乗りたくなる。

 3戦目は3-1で勝利したが、2戦目までと違い、どこか躍動感がないまま試合が終わってしまった。そして4戦目、そうした状態のときに起こりがちな落とし穴にまんまとハマる。この日はアシスタントコーチが仕事で帯同できず、私一人で試合に対応した。

 試合前には、いろいろな作業がある。

 相手チームや審判とのコンタクト、飲み物や審判旗を準備、オンラインでのスタメン登録確認、プリントアウトなど。そのため、試合前のミーティングの後、アップは選手で行うことになる。ようやく用事が終わり、ピッチに様子を見に行ったが、緊張感がない。嫌な予感はしていた。でもあえて、何も言わなかった。

 前半早々に先制点を挙げたところまでは良かった。でも、そこからチームプレーがなくなった。それぞれがわがままなプレーをはじめ、不必要なドリブルが増えた。勝手にリズムを崩してはボールを失い、必死のプレーをしてくる相手に押され出した。そして、ミスから連続失点。

 ハーフタイムには、選手たちがうまくいかないイライラを口にしながら控室に戻って来た。ドアを閉めるなり、私は怒鳴り声を上げいた。

 「こういうのをなんていうかわかるか! アロガント(うぬぼれ)! 何者になったつもりだ。試合する前から勝てて当たり前と思っていたのか? 俺が何も言わなかったから? 言われなかったらやらないのか? お前たちにとってのサッカーとは何だ? 自己満足の集まりか? つながりも何もないものをサッカーとは言わない!」

 さすがに選手たちはみんな下を向き、それぞれにふがいなさ、情けなさを反省していた。でも、そこからキャプテンを中心に話し合いを始めた。後半に向けて、自分たちのプレーを自分たちで整理する。大事なプロセスだ。

 先日、元FCケルンの育成部長クラウス・パプスト、元ドイツ代表ルーカス・シンキビッツと話をする機会があった。そのときにも話題に上がったテーマだ。

シンキビッツ「最近の育成指導はいき過ぎなところが多い。細かいところまで全部言ってしまう。子どもたちが自分たちで取り組める機会が少ないんだ。指導者が何も言わないと何もできない。そんな選手が増えてきている」

パプスト「指示待ちになるのが当たり前だよ。すべて準備されているんだから。言わなくてもまわりがやってくれる。だから、ご両親の関わり方もとても大切なんだ。子どもが『自分のことを自分でやる』という環境をしっかりと作ってあげないといけない」

 ドイツでも、そういう問題が表面化してきている。より良い育成指導をしようと指導者が張り切るほど、子どもたちが自分で成長できる機会を奪うことになる。指導者がイメージ通りのプレーをさせようとし過ぎて、子どもたちのイメージキャパシティを増やすチャンスをつぶしている。サッカー面だけではなく、生活面においてもそうだ。だからこそ、自分たちのミスに、自分たちで気づける機会を大切にしてあげないといけない。

 結果、この試合は3-3の引き分けに終わった。一度は逆転したが、終了間際のセットプレーで気を抜いてしまい、同点ゴールを許してしまったのだ。勝ち切れなかったのは残念だし、反省材料が残った。それでも彼らが勝ち得た経験は大勝した前節よりも明らかに大きく、価値のあるものだった。

▼ただ、サッカー選手として、そして人間としての成長は順風満々に右肩上がりに進むものではない。

 試合後すぐ、すべてが順調になるというほど簡単にはいかないものだ。5戦目を2-0で勝利し、迎えた後期第6節は2位につけるドライザムタールとの首位決戦だった。

 さすがに選手は練習時から気合いが入っていた。でも、その思いは時に空回りしてしまうことがある。試合前の最後の練習日、私は所用があったため、練習最後20分をアシスタントコーチのミヒャエルに任せた。すると練習直後、ミヒャエルから電話がかかってきた。珍しいことだった。連絡は頻繁にしているが、大体はSNSをつかっている。何か、おそらくあまり良くないことがあったのかなと思い、電話に出た。

ミヒャエルによると、練習後に選手同士でひと悶着があったという。ミスが多かったGKのジュリに主力選手の何人かが暴言を吐いたそうだ。我慢ができなくなったジュリは練習終了前に控室へ戻り、荷物を持って帰ろうとしたところに腹を立てていた選手たちと遭遇。そこでまた侮辱的なことをジュリに向かって口にしたという。

ミヒャエル「ジュリは土曜日の試合に出たくないと言っている。どうしようか? 他のチームに聞いてみる?」

 頭の中を整理する時間が必要だと伝え、ひとまず電話を切った。「どのGKに声をかけるか?」と考えていたが、少し落ち着くと「そもそもなぜ被害者のはずの彼が試合に出られない」という事態になるのか。主力選手であろうと、感情的になって「つい」ということでやっていいわけではない。

 すぐにU-17の監督ルカに連絡をし、「今回の件に関しては、問題を起こした選手の方をメンバーから外す処置を取ろうと思う。大事な試合であることはもちろんだが、サッカーの試合よりも大事なことがあるんだ」と伝えた。ルカからはすぐに「全面的に同意する」と返事が来た。

 ただ、自分たちは「今」すべてまた聞きの状態だ。実際に「どんなことが起こり、なぜ起こったのか」を調べる必要がある。私とミヒャエル、ルカとで手分けをして、信頼できる選手に直接話を聞いた。クラブ側の一方的な思い込みというのは避けなければならない。そこでジュリと暴言を発した2人の選手を招集し、土曜日の試合前に緊急ミーティングを開くことにした。

 当日、彼らの話を聞くと「そんなつもりはなかった」と弁明があった。そして、「そこまでひどいことをしたつもりはない」と話した。彼らぐらいの年齢ならば大人が多少眉をひそめるような物言いでも別に標準な表現として用いていることもある。

 でも、今回のミーティングの真意は犯人探しではない。

 なぜ、こうした事態になったのか、なぜ、それが良くないのか、今後、二度とこのような事態が起こらないようにするにはどうしたらいいのかを真剣に考えてもらうことが大事だった。ミヒャエルは聞き役に回り、まずは3人に主張をさせた。ひと通り話を聞いたところで、ミヒャエルが「それぞれ違う立ち位置から見ていると話もかみ合わない。相手の立場に立ってものを見てほしいし、納得してほしい。今日の試合に影響が及ぶようだとお互い嫌だろう?」とまとめると、3人はそれぞれ握手をしてこの場を終わらそうとしていた。

 私は「最後に俺の話を聞いてもらっていいか?」と切り出し、3人をもう一度席につかせた。

 「何か問題があったときに人はよく『そんなつもりじゃなかった』という言い方をする。今回もそうだな。そして、自分なりの正当性を主張する。『大事な試合なのに出場停止にするのはおかしい』という切り出し方をする。では、なぜ大事な試合の前だったのに、こうした事態を起こしてしまったのかという考えはどこにいった? 『そんなつもりじゃない』というのではなく、そんなつもりに思われないようなことをするべきではなかったのか? 感情的になってつい言ってしまうことはある。それは認める。でも、何を言っても、何をやってもいいわけではない。そうしたときでも越えてはいけない線がある。そのラインが何かを知らなければならない。今回、君らはその線を越えた」

 3人は真剣に私の声に耳を傾けている。反論せず、黙って聞いている。

 「だから俺は最初、問題を起こした二人を今日の試合から外そうと思った」

 そういうと当事者の2人は下を向いた。

 「だが、やはり2人を起用することに決めた。なぜだかわかるか? 大事な試合だから? 違う。そうではない。ジュリがこう言ったんだ。『2人をメンバーから外すのはしないでほしい。彼らを外すとチーム力が下がってしまう。大切な選手なんだ。チームの迷惑になりたくない。僕はただ、真剣に謝ってほしいだけなんだ』。わかるか、こんなことがあっても、君らを仲間と認め、大事な選手だと訴えてきたんだ。その心意気に対して、君らは今何をする? 何ができる?」

 スッと立ち上がると、2人は「本当に悪いことをした。言い過ぎたし、やり過ぎた」と謝罪をし、手を差し出した。ジュリはその手をしっかりと握り、「わかってくれたんならいいよ」と答えた。3人は抱き合い、また笑顔になった。

 私は「今日、いや今日だけじゃないな。2人は今後全力でジュリをサポートしてやってほしい。どんなミスをしようとも、GKには仲間からの信頼とサポートが一番大事なんだ」と声をかけると、一人が笑顔で振り返り、「もちろん。俺たちがジュリを守るよ」と即答した。その顔を見て、監督室を出ていく3人の後姿を見て、私は「大丈夫だ」と確信した。

 ドライザムタールとの試合は、とても良かった。試合前のミーティングも、アップもとてもいい空気感があった。チームが一丸となって、攻撃でも守備でもすべてがうまくかみ合った。実力のある選手がチームのためにもしっかりとプレーできるようになったら強い。相手を寄せ付けずに7-0で完勝。優勝に向けて大きな一歩となり、選手にとってはまた一歩大人への大事な階段を上った。


■シリーズ『指導者・中野吉之伴の挑戦』
第一回
「開幕に向け、ドイツの監督はプレシーズンに何を指導する?」
第二回
「狂った歯車を好転させるために指導者はどう手立てを打つのか」
第三回
「負けが続き思い通りにならずともそこから学べることは多々ある!」
第四回
「敗戦もゴールを狙い1点を奪った。その成功が子どもに明日を与える」
第五回
「子供の成長に『休み』は不可欠。まさかの事態、でも譲れないもの」
第六回
「解任を経て、思いを強くした育成の“欧州基準”と自らの指導方針」
第七回
「古巣と息子の所属チーム。年代もクラブも違う“二刀流”指導に挑戦」
第八回
「本人も驚きの“電撃就任”。監督としてまず信頼関係の構築から」
第九回
「チームの理解を深めるために。実り多きプレシーズン合宿」
第十回
「勝ち試合をふいにした初陣で手にした勝ち点以上に大事なもの」
第十一回「必然だが『平等』は違う。育成における『全員出場』の意味とは?」
第十二回「育成年代の「レベル差問題」に直面。対戦相手との会話で得た自信」
第十三回「ユースチームの空気を変えた、スポーツ心理士との“チーム作り”」
第十四回「うぬぼれ、衝突…自分でミスに気づき、成長させる指導の大切さ」


■シリーズ『「ドイツ」と「日本」の育成』
第一回「育成大国ドイツでは指導者の給料事情はどうなっている?」
第二回「『日本にはサッカー文化がない』への違和感。積み重ねの共有が大事」
第三回「日本の“コミュニケーション”で特に感じる『暗黙の了解』の強制」
第四回「日本の『助けを求められない』雰囲気はどこから生まれる?」
第五回「試合の流れを読む」って何? ドイツ在住コーチが語る育成

第六回「何のため、誰のためにあるのか。曖昧な日本のトレセンの意義」


※本企画について、選手名は個人情報保護のため、すべて仮名です
Photos: Kichinosuke Nakano

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育成

Profile

中野 吉之伴

1977年生まれ。滞独19年。09年7月にドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを取得(UEFA-Aレベル)後、SCフライブルクU-15チームで研修を受ける。現在は元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU-13監督を務める。15年より帰国時に全国各地でサッカー講習会を開催し、グラスルーツに寄り添った活動を行っている。 17年10月よりWEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)の配信をスタート。