名優たちの“セカンドライフ”
欧州のトップリーグで輝かしい実績を残した名優たちが、新たな挑戦の場として欧州以外の地域へと旅立つケースが増えている。しかし、そのチャレンジの様子はなかなか伝わってこない。そんな彼らの、新天地での近況にスポットライトを当てる。
from CHINA
Renato AUGUSTO
レナト・アウグスト
レナト・アウグストが中国に行ったのは、2016年1月のこと。その前年、コリンチャンスでブラジル全国選手権優勝を果たし、彼自身リーグMVPをはじめ国内のあらゆる個人賞を総なめにした直後だった。
それ以前にドイツのシャルケからオファーを受けた際には、彼自身が望み残留した。しかし、北京国安のオファーは「断りようがないものだった」という。
早熟な彼は17歳にしてフラメンゴでプロデビューすると、20歳でレバークーゼンに移籍し5年間をドイツで過ごす。ブラジル代表でもU-17から年代別W杯に出場。23歳からはA代表に招集され始めた。
ただ、彼の経歴はたび重なるケガとの戦いの歴史でもある。その現実も、中国行きを後押しした。
「経歴よりお金を選んだという声も聞いた。でも、僕はサッカーを諦めかけたほどのケガをしたこともあるんだ。明日、何が起こるかわからない。だから、家族のことを考えた。不安のない人生の基盤を作りたいってね」
“後輩”たちへの助言も
中国では、個人契約のブラジル人フィジカルコーチに帯同してもらい、クラブ最大のスターとして活躍を続けている。
「中国は投資の巨大さと同じくらい、進歩への意欲も巨大。各チームが競って良い外国人選手と契約し、クラブやリーグを急成長させている。それによって、スタジアムやテレビで観戦する人も増える。政府も学校の授業にサッカーを採り入れた。そういう大きな流れの中で貢献することも、僕にとっては新たな挑戦だ」
上海上港のフッキやオスカル、天津権健にいたパトからは移籍の前に相談を受け、「安心して来ればいい。ただ、中国の選手はハードに削ってくるから、パンツがすごく汚れるけどね」と、冗談を交えてアドバイスしたそうだ。
奥さんと、まもなく1歳半になる息子の3人での、穏やかな北京暮らしも満喫している。クラブの隣に住み、自転車で練習に通う。過密日程で遠征も多いブラジルとは違い、家族と過ごす時間がたっぷりある。
「ここはすべてが想像以上。レストランやレジャー施設も素晴らしいし、文化や習慣の違いに親しむことも、人生を豊かにしてくれる。家族で万里の長城にも行ったんだ。ただ、中国メディアはブラジルと違って、試合の日ぐらいしか取材に来ない。そこは逆に穏やか過ぎて、ブラジルの報道陣が懐かしくなるよね(笑)」
契約をまっとうする気満々
不安視された代表にも招集され続け、オーバーエイジ枠で出場した2016年のリオ五輪では、金メダル獲得に貢献。2018年には悲願のW杯出場も果たした。ただし、そこでは左膝を傷め3試合の途中出場に終わった。
代表のチッチ監督は、W杯で犯した自分自身のミスについて「レナトを欠き、バランスを崩したチームに対し、プランの変更ができなかった」と語っていた。裏を返せば、その信頼感たるやいかばかりだったろうか。
ロシアW杯を終えたレナトが中国に戻ると、空港には多くのサポーターが詰めかけていた。「感動をありがとう」というポルトガル語の垂れ幕や、ベルギー戦で自らゴールを決め、歓喜する彼の写真を掲げながら。クラブも「北京国安の名前を世界に広めてくれた」として、ブラジル代表を象徴する黄色の特製ユニフォームを作り、彼を称えた。
レナトは「中国の人たちは、達成された事実に対して、大きな価値を置いてくれるんだ。外国にいて、これだけ認められることが、僕のエネルギーの源。息子が大きくなったら、この感激を話してやりたい」と喜んだ。
当初は数年での欧州行きや、ブラジル復帰も視野に入れていたが、今は2021年まで契約を更新している。まさに中国との相思相愛。現在31歳の彼は、「この契約をまっとうしたい」と宣言している。
Renato Augusto
レナト・アウグスト
(北京国安)
1988.2.8(31歳)186cm / 86kg MF BRAZIL
2005-08 Flamengo
2008-12 Leverkusen (GER)
2012-15 Corinthians
2016- Beijing Guoan (CHN)
Photos: Getty Images, Bongarts/Getty Images
Profile
藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。