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ドイツ代表を包む「無関心」。レーブが3選手に引退勧告した背景とは

2019.03.07

ドイツサッカー誌的フィールド

3月5日、ドイツ代表のヨアヒム・レーブ監督が30歳のマッツ・フンメルスとイェロメ・ボアテンク、そして29歳のトーマス・ミュラーの3選手について、今後代表に招集しないことを発表。自らのSNSに動画メッセージを投稿した当事者ミュラーをはじめ、 前ぶれなく告げられた突然の“引退勧告”に対する当惑や波紋が広がっている。

もちろん、様々なことを考慮したうえでの決断なのだろう。ただ、その一因として考えられるのが、ドイツ代表史上“最悪の1年”となってしまった2018年の大不振と、そしてその低迷に対する国民の“どうでもいい感”だ。レーブに大ナタを振るわせた背景にある、ドイツ代表を取り巻く国内の空気感を解説する。

 衰退を示す数字は劇的である。

 UEFAネーションズリーグ(UNL)のグループ1から降格したドイツ代表の2018年は110年の歴史上、最も失敗に終わった1年となってしまった。W杯で早期敗退を喫したのは、16チームによるトーナメント方式の初戦で敗れ去った1938年大会以来。代表の成績がこれほどネガティブだったのは1933年以来のことで、2018年の公式戦で勝利したのはW杯のスウェーデン戦だけである。

 そして、追い打ちをかけるようにUNLでGS敗退。

 それでもなお、ヨアヒム・レーブ監督の去就に関して「本当の議論がない」ことを不思議がる『シュピーゲル』電子版は「いったいなぜだろう?」と問う。それどころか、レーブはW杯での惨劇直後よりも今の方が、しっかり監督の座についているようにさえ見える。ドイツサッカー連盟(DFB)に、真の革新のための想像力が欠けているからであろう。大きな変化を引き起こす勇気のある者がいない。首脳陣は、もうとっくに色褪せた2014年W杯の輝きにまだ目をくらまされている。『ターゲスシュピーゲル』紙は現状を「皇帝のデカダンス」と描写。展望は暗澹(あんたん)としている。

あの頃のレーブとは別人

 ロシアでの酷いパフォーマンスを詳細に分析したレーブは、理解していたように見えた。自らの姿勢といくつかの人選を批判し、改善と変革を予告。チームの若返りを求める公の声を聞き、UNLでは年を重ね緩慢に見えるイェロメ・ボアテンクをチームから外して新スタイルを試した。スピードのあるレロイ・サネ、セルジュ・ニャブリ、ティモ・ベルナーを起用して自らのポゼッションサッカーとは決別し、フランスのカウンタープレーを真似しようとした。

 「W杯で足りなかったものが、突然そこにはあった」と『ノイエ・チュルヒャー』新聞は書くが、それでも喜ぶ理由にはならないという。「レーブはかなり遅れてワールドサッカーの現在に到達した。フランスをタイトルへ導いたスタイルを、自分の意思に反して使った」、他に逃げ道がないとわかってから。

 しかし、それよりはるかに大きな問題は、このプロセスを嫌々ながら行っていることである。徹底しないし、心からの確信がないからうまくいかない。

ドイツ代表のレーブ監督。2006年W杯後から続く長期政権は13年目を迎えている

 レーブは、引き続きチームに別の顔を与えたいと主張し、「このプロセスには忍耐がいる。特に若い選手たちには成長するための時間を与えなければならない」と語った。

 でも、どうして? レーブの最初のハイライトは、ドイツ代表が美しいサッカーをした2010年南アフリカ大会であった。当時レーブはミヒャエル・バラックらベテランをチームから外し、20代前半のマヌエル・ノイアーやサミ・ケディラ、イェロメ・ボアテンク、マッツ・フンメルス、トーマス・ミュラー、トニ・クロース、メスト・エジルらを入れた。当時のレーブが、変革は慎重に行われなければならないなどと言うことはなかっただろう。

 あの頃のレーブは今とは別の監督であり、彼自身、若く勇気があった。そして今もこの世代と決別できない。「W杯で、鼻高々でとうに時代遅れのスタイルでプレーしたのは、レーブの傲慢さによるものだった。その後、レーブは間違った結論に至った。ベテランに執着し、必要となるチームの革新と若返りを怠った」と『ターゲスシュピーゲル』は“断罪”する。

 この自己満足が表れた例の一つが、UNL最後のオランダ戦だった。かなり若返ったチームは昨年の代表戦で最もいい試合を見せ、85分まで2-0でリードしていた。降格はもう防ぎようがなかったにせよ、勝てていたら非常に貴重な一年の締めくくりとなっていた。EURO2020予選の組み合わせ抽選でのシード権も得ることができていたのだ。

 しかしレーブは、チームが良いプレーができることを世界に見せたと感じるだけで良く、一番いい選手たち(ニャブリ、サネ、ベルナー)を交代させ、ミュラーに代表100試合目を贈った。すると突然、オランダが勢いづき2失点。レーブはこの重要な一戦を親善試合のように指揮し、勝利は手からこぼれ落ちた。これは完全に傲慢だろう。

スタジアムは空席だらけ

 ちなみに、スタジアムは半分しか埋まらなかった。ファンは代表への関心を失っており、レーブがトップにいるこのプロジェクトを信じる者はいない。刷新のプロセスは真の確信なしで進められ、DFBにも真の改革を先導するためのエネルギーはない。

UNLドイツ対オランダのキックオフ前の様子。会場となったフェルティンス・アレナのバックスタンドには空席が目立っていた

 『シュピーゲル』電子版は、何より良くないのは代表の未来についての公の議論をめぐる“どうでもいい感”だと書く。あり得る変化、新しい選手や監督について激しい議論をする代わりに、「負けるたびに、公は肩をすくめる。まるで今では代表が良いか悪いかはどうでもいいとでもいうように。それこそが、最も破滅的な1年の判決かもしれない」。

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FIFAランキング1位で2018年をスタートしたドイツ代表だったが、最後にはペルーとの親善試合やロシア代表のBチームにようやく勝って喜ぶ有様。レーブの功績は偉大であるものの、解任の議論が行われないのはなぜか? 国内に“まったくもってどうでもいい”といった雰囲気が蔓延していることを危惧する。
(『シュピーゲル』電子版 2018年11月20日)

Photos: Bongarts/Getty Images

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ドイツ代表ヨアヒム・レーブ

Profile

ダニエル テーベライト

1971年生まれ。大学でドイツ文学とスポーツ報道を学び、10年前からサッカージャーナリストに。『フランクフルター・ルントシャウ』、『ベルリナ・ツァイトゥンク』、『シュピーゲル』などで主に執筆。視点はピッチ内に限らず、サッカーの文化的・社会的・経済的な背景にも及ぶ。サッカー界の影を見ながらも、このスポーツへの情熱は変わらない。