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「バイエルンを批判すべからず」“トランプ化”するドイツ王者

2018.12.21

ドイツサッカー誌的フィールド

10月19日、予想外の低空飛行を続けていたバイエルンが開いた緊急記者会見。ニコ・コバチ解任、後任はアーセン・ベンゲルか?……チームの不振を受けた“決断”の発表がなされるのではないかとの憶測が飛び交う中、クラブ首脳陣の口から飛び出したのはまさかの「メディア批判」であった。

急きょ開催したプレスカンファレンスのために集まった報道陣を、「尊厳や品格といった価値観をまったく尊重しなくなっている」と断罪するとともに、「法的手段も辞さない」と警告したのだ。

リーグ6連覇中、ブンデスリーガを“支配”する盟主の主張は正当か、それとも驕りか。前代未聞の会見への反駁。

 会見の翌日、ユーモアがあることで知られる『ターゲスツァイトゥンク』紙が掲載した“偽りの順位表”がWEB上で話題となった。勝ち点13のバイエルンが、同17のドルトムント、同14のボルシアMGとヘルタ・ベルリンを上回り首位に位置。バイエルンが開いた“考え深く”、かつ彼らのイメージに長期的なダメージを与えた会見に対する皮肉である。

 この会見で、カール・ハインツ・ルンメニゲCEOとウリ・ヘーネス会長はメディアと批判的なエキスパートに対し、溜まりに溜まった憤怒をぶつけた。

 「尊厳や品格といった価値観を、メディアとエキスパートはまったく尊重しなくなっているようだ。彼らの論議にはもはや、際限というものがない」

 こう語るルンメニゲの声は、怒りで震えていた。さらに、「私たちは、私たちの選手、監督、クラブを守っていく」と宣言。そのためには、法的な手段も厭わないと“脅迫”した。


強烈過ぎるブーメラン

 しかし、である。これまで物議を醸すような発言をしてきたのは、むしろ彼らの方ではなかったか。

 ルンメニゲの横に座るヘーネスはこの会見の数日前、(9月15日の対戦時にラフィーニャへとタックルを見舞った)レバークーゼンのカリム・ベララビを「精神病だ」と罵ったばかりだった。また、今夏にはメスト・エジルについて、もう長いこと“クソみたいなプレーをしている”と発言してもいた。さらには、ルンメニゲがメディアに品格を求めたその数分後に、元バイエルンのファン・ベルナトが昨季のCLセビージャ戦で「クソのようなプレーをした」と批判したのだ。この発言は「厚顔無恥なだけでなく、傍若無人」というのが『ベルリナ新聞』の評である。

 バイエルンを心から嫌う人たちがこの会見を大いに楽しんだ一方で、クラブの良心的なサポーターたちはさぞ恥ずかしい思いをしたに違いない。モラルを語るルンメニゲとヘーネスの世界観がいかにずれていて、方向性を見失っているかが明々白々となった。

 例えば、彼らはCBイェロメ・ボアテンクとフンメルスのプレーを「まるでシニアサッカーだ」と評した元ドイツ代表オラフ・トーンを“口撃”した。だが数年前、当時クラブ会長だったフランツ・ベッケンバウアーがまったく同じ言葉でチームを批判した時は、これがチームを覚醒させたと称賛していたのだ。

 ルンメニゲは「人間の尊厳は不可侵」とするドイツ基本法第1条までも引用したが、その直後には記者の名前まで出して、何も間違ってなどいないかもしれない記事を批判。エキスパートや選手、他クラブの首脳陣をも中傷した。

 『ターゲスシュピーゲル』紙はこうした振る舞いを、「彼らは“無礼で不敵かつ、苛烈な批判”に反論した。だが結局、自分たちこそがまさにそうだった。つまり無礼で不敵、苛烈」と糾弾。また、『南ドイツ新聞』はこう解釈する。

 「ドイツで最も重要なこのクラブは、彼らにとって基本法が聖なるものであることを明言した。その基本法はゼーベナーシュトラッセとテーガン湖(バイエルンとヘーネスの住所)でしか通用しない基本法だが」

 これはつまり、“本物の法律は彼らにとって関係ない”、という意味の皮肉である。ルンメニゲは高級腕時計を税関で申告せず罰金を課せられた過去があり、ヘーネスは脱税で禁錮3年半の実刑判決を受け、監査委員会メンバーのルペルト・シュタドラー(アウディ社元会長)はディーゼル車スキャンダルで拘束され取り調べを受けた(10月30日に保釈)。もう一人のメンバーであるマルティン・ウィンターコルン(フォルクスワーゲン社元会長)は米国で指名手配中である。

11月末のバイエルン株主総会に姿を現したウィンターコルン氏

 「バイエルンが投げたブーメランは、ものすごい勢いで自らへ戻って来た」と『FAZ』紙。彼らはちょっとしたスポーツ的危機に直面し、やり過ぎた。なぜなら、この会見は別の意味で相当な危険をはらんでいるからである。

 過激右翼が「嘘つきメディア」と叫びながらデモ行進を行い、それを「ドイツのための選択肢」(AfD)のような政党が支援するこの時勢に、これほど横暴なジャーナリスト批判を行うとは、なんと無責任なことか。「だから余計に、バイエルンが一種の“ドナルド・トランプ化”するのを目の当たりにするのは不穏である」と『南ドイツ新聞』は懸念する。

 バイエルンは数日後、会見を開くことによってスポーツ的な問題から目をそらさせ、ニコ・コバチ監督とそのチームを攻撃のターゲットから外したかったのだと意図を説明した。それはうまくいったのかもしれない。だが、代償はあまりに大き過ぎただろう。彼らは自らの信憑性を大きく毀損したばかりか、記者たちのそれも傷つけた。


明かしてしまった“本当の悩み”

 さらに言えば、現在バイエルンを苦しめているのが本当は公の批判ではなく、別のものであることを彼らは意図せず明かしてしまった。

 会見の中ではそれほど注目されなかったのだが、ルンメニゲは、バイエルンがマンチェスター・シティからジェイドン・サンチョを獲得しないと決めていた、と報じたある出版社を「訴えた」ことを明かした。この18歳の若者は現在、ドルトムントの選手としてブンデスリーガを席捲している。バイエルンはもう何年も、世界レベルのタレントを早い段階で見つけ出しミュンヘンに連れて来ることができていない。図らずもそれを認める格好となったのだ。

 バイエルンの肌が薄くなった(「過敏になった」という意味のドイツ語の表現)のもあれば、他クラブが追いついてきたのもあるだろう。いずれにせよ、近年退屈だったブンデスの優勝争いにとってはとても喜ばしいことかもしれないが。

トピックス

会見への物議を受けたルンメニゲの“釈明”

「会見を開いたのは、メディアに対して真摯に、フェアに報道してもらいたいと伝えるためであり、同時にチームに対して『我われは君たちを守っていく』と伝えるためでもあった。(会見を受けて)感謝の気持ちを伝えてきた選手もいたよ。メディアがこういう反応(猛反発)を見せることはわかっていた。ただ、最も重要なことは試合なんだ。土曜日の試合(会見直後のブンデス第8節ボルフスブルク戦)はチームにとって重要なシグナルとなるものだった。とにかく、(この話は)もう終わりにしようじゃないか」

Photos: Bongarts/Getty Images

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Profile

ダニエル テーベライト

1971年生まれ。大学でドイツ文学とスポーツ報道を学び、10年前からサッカージャーナリストに。『フランクフルター・ルントシャウ』、『ベルリナ・ツァイトゥンク』、『シュピーゲル』などで主に執筆。視点はピッチ内に限らず、サッカーの文化的・社会的・経済的な背景にも及ぶ。サッカー界の影を見ながらも、このスポーツへの情熱は変わらない。