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あまりにも若過ぎる?妥当? マンチーニのイタリア代表の未来

2018.10.17

CALCIOおもてうら


「イタリアのいないW杯」が終わり、新シーズンを迎えたヨーロッパでは、UEFAの新大会「ネーションズリーグ」が開幕した。マンチーニのアズーリの船出を前にイタリア代表の「過去・現在・未来」を展望した分析レポートを特別公開。


 このUEFAネーションズリーグ(以下UNLと略記)、W杯出場を逃したイタリアにとっては、過去を一度リセットしてゼロから再スタートを図る、その出発点となるべき重要なコンペティションだ。6月に就任したロベルト・マンチーニ新監督は、若手を大胆に抜擢することによって一気に世代交代を進めた新チームを、EURO2020、そしてカタール2022に向け、4年間かけてじっくりと育てていこうという方向性をはっきりと打ち出している。


「空白の15年」の代償

 それがはっきりと表れたのが、UNL第1節と第2節に向けて招集された顔ぶれ(別表)だ。30人という大人数を呼んだのは、まだメンバーを絞り込まずに少しでも多くの選手をチェックし、また少しでも多くの若手にA代表という環境を経験させて、適性を見極めたいからだろう。

 年齢的な内訳を見ても、オーバー30は最終ラインを支えるキエッリーニ(34)とボヌッチ(31)ら4人だけ。25~29歳の中堅も9人と少なめで、全体の半数以上にあたる17人は24歳以下の若手だ。これを、マンチーニはかなり大胆な世代交代を進めようとしている、と解釈することもできなくはないのだが、イタリアが直面している現実はそれほど単純なものではない。というのもここには、25歳以上(生まれ年で言えば1993年以前)の世代が、タレントの空白地帯となっているという、もう1つの側面もあるからだ。

 少し時代をさかのぼると、2006年のドイツW杯で優勝した「アズーリ」(イタリア代表の愛称)たちは、カンナバーロやインザーギ(73年生まれ)からデル・ピエーロ(’74)、トッティ、ネスタ(’76)、ガットゥーゾ(’77)まで、ほぼ全員が70年代半ば生まれだった。これは、外国人枠の事実上の撤廃という形で欧州サッカーに激震をもたらした95年のボスマン判決以前に育成年代を過ごした世代であることを意味する。

 ボスマン判決以降、イタリアの多くのクラブは育成への投資を抑え、目先の即戦力となる外国人選手の獲得に血道を上げるようになり、それに伴って年を重ねるごとに、イタリアはそれまであれほど多く輩出してきたワールドクラスを生み出すことができなくなっていく。実際、ドイツ大会の主力メンバーで最も若かったブッフォン(’78)、ピルロ(’79)、そして唯一の80年代生まれであるデ・ロッシ(’83)を最後に、世界トップレベルのイタリア人プレーヤーは生まれていない。あえて言えばキエッリーニ、ボヌッチという2人のCBくらいだろう。つまり、1978年生まれから1993年生まれまでの世代(そして彼らが育成年代を過ごした1996年から2010年まで)は、イタリアの育成にとっては文字通り「空白の15年」だったということである。2010年、2014年とW杯2大会連続のグループステージ敗退、そして2018年の予選敗退は、この「空白の15年」がもたらした高い高い代償だったのだ。


「イタリア代表再生計画」の成果

 それが少しずつとは言え変わり始めるきっかけになったのは、2010年南アフリカW杯のグループステージ敗退を受け、イタリアサッカー連盟(FIGC)が取り組んだ育成年代の代表改革だった。このプロジェクトは、育成年代代表の統括コーディネーターにかつての名将アリーゴ・サッキを迎えて、U-15からU-21まで各年代の代表チームを一括して管理・コントロールするために進められているもの。候補全選手を対象とするスカウティング網の整備、それに基づくデータベースの作成、全チーム共通のゲームモデルの策定とトレーニングメソッドの共有、クラブとの連携強化などが主な取り組みの内容だ。

 今回の招集メンバーの多くを占める23~24歳(94~95年生まれ)は、このプロジェクトがスタートしてからU-17、U-19、U-21という各年代の代表を経験してきた、いわば新アズーリの第一世代。ベラルディ、ベルナルデスキ、ベナッシ、ガリアルディーニ、カルダーラ、ルガーニ、ロマニョーリらを擁するこの世代は、2017年のU-21欧州選手権でベスト4まで勝ち進んでいる。年齢的に見ても、2年後のEUROでは25~26歳、4年後のカタールW杯では27~28歳とキャリアのピークを迎える彼らが、マンチーニがそのカタールに照準を合わせて4年計画で進めるプロジェクトの中核を担うことになるはずだ。

 その94~95年組よりももう1つ若い96~99年組にも、かつてパルマ、フィオレンティーナで活躍した元イタリア代表FWエンリコ・キエーザの息子フェデリコをはじめ、ペッレグリーニ、バレッラなど興味深いタレントが顔をそろえている。ミランで正GK4シーズン目を迎えたドンナルンマも、経験値的にはこの世代に入ると考えていいだろう。

GKとしてはイタリア史上最年少の17歳で代表デビューを果たしたドンナルンマ

 これ以降の世代になると、U-17、U-19、U-21という育成年代でも、ドイツ、スペイン、イングランド、フランス、オランダ、ポルトガル、ベルギーという強国と肩を並べて欧州選手権の上位を争うところまで地力が戻ってきている。毎年行われるU-17欧州選手権では2013年に続いてつい先頃の2018年大会で準優勝、U-19(毎年開催)でも2016年、そして今年の大会で準優勝を飾った。U-20W杯にも、昨年8年ぶりに本大会出場を果たして(日本との「談合試合」は記憶に新しい)、3位を勝ち取っている。

 今回の招集リストを見てもわかるように、今後4年間を中心的に担うことが期待される94~98年生まれの世代には、例えばスペインの同年代であるアセンシオやサウール、フランスのムバッペやデンベレのようなワールドクラスはいない。しかしチームの総合的な戦力という点では、やはり(現時点では)ワールドクラス不在のドイツやイングランド、ポルトガルなどとそう変わらないレベルまで戻ってきたという印象だ。

 もちろん、月1回の合宿と年間10試合前後のインターナショナルマッチだけでは、空白の時代を克服するには不十分だ。近年のレベルアップにはFIGCレベルの取り組みと比べてもう1つ、移籍市場の相場高騰についていけず、レベルの高い即戦力の外国人選手を獲れなくなってきたビッグクラブの中に、あらためて育成に本腰を入れるところが出始めたことも大きな理由である。その代表格とも言えるのが、19歳にしてクラブのみならず代表でもブッフォンの後継者たる正守護神の座に収まったドンナルンマに加えて、デ・シリオ、カラブリア、ロカテッリ、クトローネといった生え抜きのレギュラークラス(彼らのほとんどはU-21以下の代表を経験している)を次々と輩出するようになったミランだ。もちろん、以前から育成に力を入れてきたユベントス、インテル、ローマ、アタランタなどのクラブも、引き続き投資を続けている。


リーダー候補と未知のポテンシャル

 マンチーニが今回のプロジェクトで24歳以下の世代を中心に据えたのには、さらにもう1つの理由がある。現在セリエAの各クラブで主力を担っている20代後半の選手たちは、4年後にはすでにキャリアのピークを過ぎてしまうのだ。2年連続でセリエA得点王のインモービレやフランスで復活の兆しを見せているバロテッリは今28歳、現在のイタリアで最も創造性あふれるインシーニェは27歳。カタールW杯の開催年にはすでにオーバー30である。

 とはいえもちろん、30歳を超えていてもチームにとって「替えの効かない」存在であり、高いパフォーマンスを維持しているのであれば、プロジェクトの中核に据えるに値する。経験と実績を持ったベテランの存在は、どんなチームにとっても必要不可欠なのだから。そうしたリーダーとしてマンチーニが白羽の矢を立てたのは、最終ラインを支えるボヌッチ、キエッリーニのペア、そして中盤の司令塔としてゲームを組み立てるジョルジーニョだ。前者はロッカールームのリーダーとして、後者はピッチ上のリーダーとしてなくてはならない存在だと、マンチーニは考えているようだ。実際、就任直後に戦った6月の3試合(対サウジアラビア、フランス、オランダ)すべてのスタメンに名を連ねたのは、ジョルジーニョただ1人だった。

ブラジル生まれだが、ルーツであり15歳から住んでいるイタリア代表入りを選択したジョルジーニョ

 20代前半の若手を中心に据え、経験豊富なベテランが要所を締めるというのは、世代交代を命題とする中期プロジェクトの出発点としては、オーソドックスで理に適ったものだ。むしろ興味深いのは、30人の招集メンバーの中に、まだセリエAにデビューすらしていない19歳のザニオーロ(ローマ)、16歳でジェノアからセリエAにデビューし、昨夏モナコに引き抜かれた17歳のペッレグリという、まだ経験がほとんどない若手が抜擢されていること。これは、将来的にブレイクが期待されるビッグタレントを早いタイミングでどんどん上に引き上げることで経験を積ませ、英才教育を施そうという狙いだろう。これまでイタリアは、若さを未熟さや経験不足、尊大さなどネガティブなものとして捉える傾向が強く、タレントの大抜擢には慎重だった。しかし、プレーヤーとしては自身も早熟な天才肌であり、かつてバロテッリを17歳でデビューさせるなどタレントの抜擢に躊躇がないマンチーニは、おそらく育成年代コーディネーターのマウリツィオ・ビシディとも連携しながら、彼らのように高いポテンシャルを秘めたタレントを積極的にA代表に組み込んでいこうとするだろう。

 「イタリアだって、これから2年、3年するうちに独力で試合を決められるようなタレントが生まれてこないとは限らない。ムバッペだってデンベレだって、2年前には誰でもなかったんだから」というのが代表監督の弁。これからこのプロジェクトがどう進捗していくのか、折りに触れてチェックしながら見守っていくことにしよう。


Photos: Getty Images

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イタリア代表ロベルト・マンチーニ

Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。