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イタリア屈指のCBカルダーラが厳格なマンマークで磨いた“読み”

2018.05.07

ガスペリーニの[3-4-3]で開花した24歳

Mattia CALDARA
マッティア・カルダーラ

1994.5.5(24歳) 180cm/75kg ITALY


 マッティア・カルダーラがセリエAにデビューして以来、このカテゴリーでは通用しない選手だという印象を与えたことは一度もない。ジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督によってレギュラーに抜擢されてから2年、まだ24歳という若さにもかかわらず、カルダーラはすでにセリエA屈指のCBという評価を確立しており、ユベントスは1年前にすでにアタランタから保有権を買い取ることを決めた。

 カルダーラがこのレベルまでこれだけ早く成熟を果たすとは、簡単に予想できることではなかった。何よりもまず、ガスペリーニの下でレギュラーに定着する以前は、アタランタの育成部門からレンタル先のトラーパニ、チェゼーナ(所属時ともにセリエB)、さらにはU-21代表に至るまで、常に4バックを前提とする守備のメカニズムに馴染んで育ってきたからだ。

アグレッシブな戦術的文脈の中に置かれて

 しかし近年のフットボールにおいて、ピッチ上の配置を表すシステムの数字は必ずしも一つのプレー原則やゲームモデルと結びついているわけではない。実際カルダーラはこの2年間に、4バックから3バックへの転換だけでなく、自らのポジションに課された機能とタスクの変化も受け入れ消化しなければならなかった。ガスペリーニの[3-4-3]は、カルチョの世界において最も特徴的かつ明確に定義されたシステムの一つであり、その中にはかなり厳格なマンマークのメカニズムが組み込まれている。マンツーマンの原則を採用している監督は、イタリアでもほんの一握りに過ぎない。

 このシステムの中では、DFは自分がマークすべき敵FWにどこまでもついて行かなければならない。たとえ中盤ラインまで引いて行ったとしてもだ。それゆえ、3バックの中央でプレーしているにもかかわらず、カルダーラがFWを追って敵陣まで出て行く姿を目にすることも珍しくはない。その狙いは、FWに入るパスをカットしそのまま敵ゴールに向かって一気にボールを運ぶことにある。

 マンツーマンという形で明確に決められた基準点を持つことには、まだ成長の余地を残している若いDFにとって仕事がやりやすくなるという側面もある。敵がどんなプレーヤーなのかをあらかじめ学習し、自分の長所を相手の長所にうまく噛み合わせる余地があるからだ。しかし同時に、自分がいるべき場所から頻繁に引きずり出されること、常に集中力を最大に保って1対1やアンティチポ(背後からのパスカット)をミスしないように務めること、ほんの小さなミスによってチーム全体の守備メカニズムを破綻させかねないことも意味している。

 アタランタはアグレッシブに前に出ながら守る守備戦術を採用しており、CBには敵FWに入るパスに対して常にアンティチポを仕掛けることが要求されている。これは守備の局面を攻撃の局面に一気に転換し、そこから可能な限り縦に向かって速くゴールに向かうという狙いがあるからだ(画像1参照)。

カルダーラは敵FWをマークして中盤ラインの高さまで前進している

フィジカル的な弱点は「頭」でカバー

 これだけアグレッシブな戦術的文脈の中に置かれたカルダーラは、自らのフィジカル的な限界を何らかの形で補完する術を見出さなければならなかった。スタートから最初の数歩がやや鈍い(敵FWに対して先手を打つためには小さくない問題だ)だけでなく、方向転換のステップもぎこちないため、とりわけクイックでアジリティの高い相手に対してはどうしても遅れを取りがちになるのだ。カルダーラはこの弱点をカバーするため、もともと優れていたプレーの展開を先読みする能力をさらに磨き上げ、自分の体がついて行かないはずの場所に頭を使って到達する術を手に入れたのだった。

 例えば、2ライン間に下がった敵FWにアンティチポを仕掛けるため、通常のCBならば慎重に動き出しを待つようなタイミングで一歩目を踏み出し、相手に先手を打って有利な位置を取ろうとする。だがこれは、もし相手がゴールに背を向けて縦パスを受けると見せかけ、そこから一気にターンして裏に抜け出した場合、逆に後手に回って逃げられる可能性を高めることも意味する。しかしカルダーラが勇気を持ってこのリスクを受け入れるのは、その的確な読みによってほとんどの場合、相手の動きに先手を打つことができるという自信があるからだ(画像2参照)。

ナポリのタイミングをぴったり合わせた高度な連係のメカニズムに対しても、カルダーラはその際立った読みを駆使してメルテンスの裏に抜ける動きに先手を打っている

 CBに対して常に前に出ることを要求するガスペリーニのサッカーは、カルダーラが自らが持つ最大の長所である読みの能力をさらに磨き上げることを促し、より一般的なシステムや戦術の中ではより目立つであろうフィジカル的な弱点を目立たないものにするのを助けた。

 カルダーラの弱点は、アタランタがボールを保持している状況でより目立ってくる。利き足の右足ですらもキックの技術がそれほど高いとは言えず、ほぼ常に最も難易度が低い横パスに逃げることでお茶を濁す傾向が強いのだ(画像3参照)。

敵守備ラインを越える縦パスを出せる状況があるにもかかわらず、簡単な横パスに逃げている

 この点においてもガスペリーニのシステムは彼にとって有利に働いている。3バックの中央でプレーすることで、ビルドアップの責任を左右にいるトロイとマジエッロに委ねることができるからだ。それだけでなく常に数的優位にあるという状況を利用して、特にアンティチポでボールを奪った後、そのまま勢いに乗って敵陣までボールを持ち上がる自由も与えられている。この自由は得点力という彼の隠されたもう一つの長所を発見させた。セリエAでの2シーズンでカルダーラはすでに10ゴールを挙げているのだ。彼の正確とは言えないロングフィードも、アタランタにとってはそれほど大きな問題ではない。ロングフィードに合わせてチームを押し上げることでセカンドボールを狙い、敵陣の高い位置でボールを奪ってショートカウンターで一気にゴールを目指すパワープレーを、しばしば意識的に行うからだ。

ユベントスで、また始まる長い挑戦

 しかし、もしユベントスに移籍すれば、カルダーラは今とは大きく異なる戦術的文脈の中に身を置かねばならなくなるだろう。マッシミリアーノ・アレグリの留任を前提とすると、4バックに戻ってプレーすることになるわけだが、変化はそれだけではない。ユベントスはアタランタと比べてずっとボール支配率が高く、CBにビルドアップを担う大きな責任が要求され、しかもそこでミスがまったく許されないチームだ。守備のメカニズムもアタランタと比べれば決まり事がずっと少なく、それゆえ個々のプレーヤーには状況を的確に読み取り解釈して、その時どきに正しい判断を下すことが求められる。アグレッシブに前に出る守り方をする時間は短く、自陣に守備陣形を整えてゾーンディフェンスの原則に従って守る時間が長い。

 カルダーラは、キエッリーニのポスターを貼った部屋で育った、と告白している。キエッリーニはふてぶてしいまでのフィジカルコンタクトを通じて敵に強い存在感を押し付け圧倒するタイプのDFだ。かつてのキエッリーニもそうだったように、ユベントスというトップレベルのチームの中で、時間をかけて自らの弱点を克服し、長所をさらに磨き上げなければならないだろう。カルダーラがユベントス守備陣の中核を担う時が来るまでには、もう少し時間が必要とされるはずだ。「戦術的にもメンタル的にも新しい環境に適応するためにはそれなりの時間が必要だということはわかっています。でもその覚悟はできています」。最近のインタビューでこう語っている通り、カルダーラは自らが歩むべき道程は長いことを自覚している。しかし我われは、そしておそらく彼自身も、セリエAにデビューしてからここまで、予想よりもずっと短い時間でたどり着いたことを忘れずにいるべきだろう。


Photo: Getty Images
Translation: Michio Katano

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ダリオ サルターリ(l'Ultimo Uomo)

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