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プレー原則とパターンの違いは? 日本と共通するイタリアの悩み

2018.07.28

エミリオ・デ・レオ インタビュー 後編

前編で何度も登場した「プレー原則」の対比となる言葉がパターンプレーだ。2つの違いは、戦術的ピリオダイゼーションを理解するためのポイントになるので、後編ではこのテーマをフォーカスしたい。


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一つのプレーパターンの反復ではなく、
複数のスキームの中から「判断」して実行する

 スキーム(パターンプレー)とプレー原則の違いを端的に定義するとすれば、スキームが特定のプレーパターンのメカニカルな反復であるのに対して、プレー原則はプレーを通してピッチ上に実現すべき特定の状況、ということになる。

 一つの例として、[4-3-3]システムのSBがオーバーラップしてライン際を深くえぐり、そこからクロスを折り返すという状況を想定してみよう。スキームというのは、ボールを持ったアンカーが前線から下がってきたCFにクサビの縦パスを通し、CFはそれをダイレクトではたいてサポートに上がってきたインサイドMFに落とし、インサイドMFはサイドから内に寄ってきたウイングにパスすると見せかけて、それを外側から追い越して裏のスペースに走り込んだSBに送り込む―― という一連のプレーを一つのパターンとして記憶し、いつでも再現できるようにするものだ。

 一方、プレー原則というのは「サイドで数的優位を作って裏のスペースにフリーで抜け出しクロスを折り返す」という状況を、その時どきの状況に最も適した手段を使って実現できるようにするものだ。上に挙げたスキームはその一つの手段であり得るが、それ以上ではないし、この手段を使わなければならないというわけではまったくない。

 仮に、私が15歳のSBを指導していたとしよう。FWがゴールを背負って縦パスを受け、そこに寄って行ったMF がFWからの落としをライン際深くのスペースに送り込み、SBはタイミングを合わせてオフ・ザ・ボールで縦に走り込んでボールに追いつき、そこからクロスを折り返す―― というスキームを1年を通して反復すれば、そのSBはシーズンが終わる頃にはそれを完璧にこなせるようになっているだろう。今や彼は極めてタイミング良く裏のスペースをアタックできる。

 しかし、それはFWからクサビの落としを受けたMF がボールを送り込むというパターンにはまった時だけの話かもしれない。システムが変わったり、落としを受ける選手が変わったり、ボールの出どころが変わったりした時に、同じように正しいタイミングで裏のスペースをアタックできるかどうかは甚だ疑問だ。体の向きをどうするか、どのタイミングでスタートを切るのか、直接スタートを切るのか、いったん戻る動きを入れるのかといったディテールを修正し、状況に適応する能力を磨いてきたわけではないからだ。

 もちろん、スキームそのものを否定するつもりはないし、我われがスキームを採り入れていないわけでもない。ただ、スキームはあくまでプレー原則を実現するための手段であり、選手にとってはその選択肢の一つという位置づけでなければならない。機械的に一つのスキームを繰り返すのではなく、複数のスキームの中から最適なそれを「判断」して実行することが重要だ。

 例えば、次の試合に向けて「インサイドMFが敵MFの背後でフリーになってパスを受ける」というプレー原則をトレーニングするとしよう。それを実現する選択肢として、私は3つのスキームを用意する。1つ目は、CB から直接、敵中盤ラインの裏に抜け出したインサイドMF に縦パスを通す。2つ目は、CBが前線から下がってきたCFにクサビの縦パスを通し、その間にインサイドMF が2ライン間に上がって行く。3つ目は、サイドを経由してウイングにボールを送り、その間にインサイドMF が2ライン間に進出する。この3つの選択肢を状況に応じて使い分け、プレー原則を実現できるようにすることが、トレーニングの目的になる。

 したがってトレーニングでも、一つのスキームをテーマにしてそれを反復させるのではなく、この3つのスキームを状況に応じて的確に使い分けることにフォーカスしたエクササイズを組み立てる。目的はスキームを遂行することではなく、プレー原則を実現すること。そこを混同してはならない。

Emilio DE LEO
エミリオ・デ・レオ

1978.1.18(40歳)ITALY

南イタリア・ナポリ近郊のカーバ・ディ・ティレーニ生まれ。地元のアマチュアクラブや当時3部のカベーゼで育成コーチとして指導にあたる傍ら、独学で戦術研究を進める。その成果をまとめたレポートをセリエA、Bのプロ監督たちに履歴書とともに送り、YouTubeにCLやセリエAの分析ビデオをアップロードするなど、様々な方法でセルフプロモーションを行った。それがマンチーニのスタッフを務めていた同郷のサルサノの目に留まり、09年からマンチェスター・シティの外部スタッフとして戦術分析を担当。「マンチーニ一派」のミハイロビッチがイタリアでは珍しい戦術的ピリオダイゼーションを取り入れたコーチングメソッドを高く評価し、12年のセルビア代表監督就任と同時に助監督に抜擢した。以来サンプドリア、ミラン、トリノとミハイロビッチの頭脳として行動をともにした。




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Photos: Michio Katano, Getty Images

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。