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ブラジル「10番」の系譜。PSGのネイマールは「ペレ」

2018.07.27

『戦術リストランテV』発売記念、西部謙司のTACTICAL LIBRARY


フットボリスタの人気シリーズ『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』の発売を記念して、書籍に収録できなかった西部謙司さんの戦術コラムを特別掲載。「サッカー戦術を物語にする」西部ワールドの一端を味わってほしい。


 フォーメーションが数字で表されるようになったのは1958年W杯で優勝したブラジルの[4-2-4]からと言われている。4人のFWは右からガリンシャ、ババ、ペレ、ザガロだったが、左ウイングのザガロはいわゆるワーキングウインガーだった。そのため[4-2.5-3.5]とも呼ばれていた。ザガロはMFとFWの中間的な存在だったからだ。

 1970年W杯でブラジルが3度目の優勝を成し遂げた時は[4-3-3]と認識されていた。ただ、左ウイングのリベリーノの役割はザガロとほぼ同じ。つまり、58年の時点でブラジルはすでに[4-3-3]だったとも言える。ここで不思議なのが58年と70年の両方でプレーした唯一の選手であるペレのポジションである。


摩訶不思議なフォーメーション図

 筆者が中学生の時、ブラジルのフォーメーションを表した図を初めて見た。ペレは微妙なところに名前が書いてあった。CFの少し斜め後ろ。左ウイングではないがCFというわけでもない。左ウイングの位置は空いていて、ここを空けておくのがブラジル式だと解説文がついていた。他の選手のポジションは何となく想像がつく。左ウイングだけが少し下がった位置にいるが、左のMFとFWの兼任なのだと言われれば、まあそういうものかと理解できた。ペレだけがよくわからなかった。ペレには対になるポジションがない。1人だけ特殊なのに説明もない。FWなのかMFなのかも判然としなかった。映像もほとんど見たことがなかったし、ある意味謎のスーパースターだった。

 こういうことかと理解できたのは、しばらく経ってからだ。まず本人が来た。ニューヨーク・コスモスの一員として来日して試合をしたのだ。それより少し前、ペレがプレーしている映像も見ることができた。これでかなり整理がついたのだが、ちょっと驚いたのはペレが本当に図で示されていた場所にいたことだった。もっと自由に広範囲に動くのかと思っていたら、だいたいCFの左斜め後方にいた。ウイングでもなければCFでもなく、MFという感じでもない。名前だけが書かれた図から受けた中途半端な印象そのままだったのだ。

 ブラジルの[4-2-4]の原型は2バックシステムだと思う。WMシステムの時期もあったからそちらからの変化も考えられるが、左SBの背番号は6番なのでハーフバックの左がそのまま下がったと考えるのが自然だろう。右ハーフバックの4番もDFに吸収され、センターハーフの5番だけが中盤に残った。イングランドはWMへ変化する際に5番を3バックの中央にしているが、5番を中盤に残しているブラジルはイタリアなどが使っていたメトードの流れではないかと思われる。ともあれ中盤が1人だけになってしまったので、インサイドフォワードの8番が引いてきて5番と組んだ。ここでインサイドレフトの10番も一緒に引いてくれば[4-3-3]になるのだが、ブラジルの場合は11番が下がったので10番は前線に残ったのだろう。つまり、5トップ時代のインサイドフォワードがブラジルの10番でありペレだということになる。


CFの左斜め後方にいる創造者

 70年のブラジルの映像を見ると、現代風に解釈すればフォーメーションは[4-2-3-1]に近い。ペレのポジションはいわゆるトップ下である。ただ、右利きのせいか、それともインサイドレフトの習性か、どちらかといえば左寄りにいることが多かった。そこからCFとのタベーラ(壁パス)へ持っていく、ドリブル突破を図る、サイドへ展開するなど、アタッキングサードからの仕掛けとフィニッシュを引き受けていた。フラフラと相手DFとMFの間を回遊しているが、パスが入ると一気に崩しにかかる。1つしかないポジションは創造性を一手に引き受ける攻撃のエースであり、特権的な役割でもあった。

 テレビの普及とペレの映像によって、10番のイメージは世界的に広まっていく。ブラジルではジーコがペレの後継者となり、「××のペレ」というニックネームも世界の定番となった。今季、パリSGではネイマールがまさに10番を背負って10番のポジションと役割を与えられている。キックオフ時のポジションは左ウイングだが、実質的に「ペレ」なのはバルセロナにおけるメッシと同じだ。

 ちなみに58年W杯でペレの背番号が10だったのは偶然だという。ブラジルのメンバー表に背番号が書いてなかったので、大会組織委員が適当に番号を振っていった結果だそうだ。ペレはポジション通りの10番になったが、開幕時点では控えの選手だったのだ。もし、その時のペレの番号が8番だったら、エースナンバーは8番になっていたのだろうか。それともやっぱり10番に収まったのか。

 いずれにしても、一時期は消えかかった10番が依然として力を持っているのはサッカーにとって良いことのように思える。1人だけ中途半端で制約がなく、何をやるかよくわからないが創造性にあふれ、見ていてわくわくするプレーで試合を決めてくれる。そういうポジションが1つぐらいあっていい。


『戦術リストランテV』発売記念、西部謙司のTACTICAL LIBRARY

・第1回:トータルフットボールの理想のボランチ像はベッケンバウアー?
・第2回:ブラジル「10番」の系譜。PSGのネイマールは「ペレ」
・第3回:FKの名手、ピャニッチの凄さ。ユベントスは名キッカーの宝庫
・第4回:コンテからサッリへ。チェルシーとイタリア人監督の不思議な縁
・第5回:ジダンがいればなぜか勝てる。誰も説明できない不思議な魔力
・第6回:組織でなく組織の中の個を崩す。U-20代表に感じた風間メソッド

Photos: Getty Images

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ネイマールペレ戦術リストランテV

Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。