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「乾貴士は、今大会五指に入る」スペインのメディアが乾を激賞

2018.07.03

 4試合2ゴール1アシスト。乾貴士が、ロシアワールドカップにおける日本のMVPであることは疑いない。ベルギー戦のスペインの解説者によると「今大会の5本の指に入る選手」であり、こんな言葉で乾を絶賛した。

 「ベティスの素晴らしい補強戦略を祝福したい。もし行き先が決まっていなければ、欧州のいろんなクラブに狙われているはずだ」

 名GKクルトワの指先が届かないファーのサイドネットに突き刺したスーパーゴールの後、ベティスで同僚となるDFマルク・バルトラはこんな祝福ツイートを送った。「何てことだ、乾。何という選手だ。すべてのプレーが素晴らしい。トップクラスだよ」。

https://twitter.com/MarcBartra/status/1013862583982612490

 すでにセネガル戦が終了した段階で乾は『EFE通信』が選んだ「ワールドカップのサプライズ20人」にランクインしていた。また、ベティスのお膝元であるセビージャのスポーツ紙は、そのサプライザーをコストゼロで獲得したセラ・フェレール副会長のスポーツディレクションを褒めた。(執筆時点で)ベルギー戦が終わってからまだ30分ほどだから反響は多くないが、これから時間が経つにつれて乾とベティスを称賛する声がどんどん出てくるに違いない。

 もともと、乾の獲得はベティスファンと地元メディアの間に非常に好意的に受け取られていた。セビージャが清武を獲得した時さえ懐疑的な見方があったのに、乾の場合は皆無。獲ってきたのがスペイン人が知らないエキゾチックな選手ではなく、誰もが知っているあのエイバルの乾だったからだ。

 トラップ、1対1、ドリブル、シュート、守備のサポート、献身さと規律正しさ、監督とチームメイトからの全幅の信頼――。このワールドカップでベルギーを追い詰めた日本と乾を見て、ベティスファンの期待はいやが上にも膨らむだろう。いきなりアイドルとなるような、来てくれて良かったと感謝されるような、そんな日本人選手は今までいなかった。乾はそれにふさわしいプレーをロシアで見せたのである。


「タカはもっとやれるはず」

 切り返しでマークを外し、右足でファーポストへ巻き込むボールを送り込む。その一連の動作はセネガル戦のゴールシーン、クロスバーに当てたシーン、そしてこのベルギー戦のゴールシーンでも、一瞬の迷いもなかった。大胆に、自分を信じて右足を振る。そんな姿を見ていて感慨深くなった。かつて、こんな乾評を耳にしていたからだ。

 「指示したことはこなせるがイニシアチブに欠ける」
 「従順過ぎる」
 「ゴールに関して内気なせいか自信が足りない」
 「俺はここにいる、相手より上だという自信が足りない」

 乾が「サッカーのお父さん」と慕うエイバルでの恩師ホセ・ルイス・メンディリバル監督の言葉である。発言の時期は今から1年から2年前。そう、乾の課題は常にゴールだった。チャンスでも、打たずにパスを出してしまう。それは戦術的なクレバーさでもあり、人の好さでもあった。

 昨年インタビューした際、本人にメンディリバルの言葉をぶつけると、「(自分の技を)出しているつもりではいるんですけどね」と苦笑いし、「ただ、自分がバランスを崩しちゃうとチームに迷惑がかかる」と日本人らしい気配りも口をついた。しかし、ゴールするには、いやもっと言えば眠れるタレントを開花させるには強引さが必要だった。ためらいを微塵も見せなかったワールドカップでの2つのゴールシーンのように。

 乾がエイバルで学んだことの集大成としてこのワールドカップがあったのではないか、という気がしている。セネガル戦とベルギー戦でのプレーぶりを見て、「私の期待が過大なのだろうか? そんなことはない。タカはもっとやれるはずだよ」と信じていたメンディリバルは何と思うだろう? わかってくれたか、とニンマリするのではないか。

乾貴士のエイバルでの恩師ホセ・ルイス・メンディリバル監督


日本の攻撃の「入口」であり「出口」

 日本代表内で与えられた乾の役割にも、エイバルで学んだことが反映されていた。日本にとって乾は攻撃の「入口」であり「出口」であった。

 「入口」とはつまり、猛攻を受けた後やっと回復したボールを預ける先だった。ベルギー戦のように自陣ゴール前に張りつけにされると、本来の預けどころであるボランチや同サイドのSBは“味方と敵の林”の中で消えてしまう。

 そんな時、顔を上げ左サイドを見れば、乾がライン際に張っている。そこへ吉田麻也からロングパスが送り込まれる。コースが少々ぶれたりサイドラインを割ったりすることはあっても、マーカーにかっさらわれることはない。なぜなら、何度もエイバルで見慣れたように乾は常にほぼフリーだからだ。マークは最も危険なセンターラインをケアするために中に絞って行うものであり、ライン際にいる限り厳しくマークされることはない。もし、乾に密着マークが付いているとしたらその方が間違っている。香川真司や大迫勇也にスペースを与えているはずだからだ。

 「出口」とはつまり、パスを繋いで崩した後にフィニッシュを託されてもいた。エイバルでのように右サイドで崩し左サイドでフィニッシュという役割分担が、日本代表で確立していたわけではない。どちらかと言うと崩しもフィニッシュも左に偏っていた。それだけチームメイトが乾を頼り彼を探していた、ということもある。

 利き足とは逆の左サイドで起用された乾のフィニッシュは常に右足であり、外へフェイントしても最後は内に切り込んでのシュートとなる。これもエイバルでのおなじみのプレーなのだが、意外にマーカーが外へのフェイントに引っかかり、シュートコースを空けていた。特に、角度がなかったセネガル戦のゴールは右足だけをケアしていればブロックできたはずだが。おあつらえ向きのコースができていたのは研究不足のせいか、それとも単に乾の切り返しが鋭かったせいなのか。

 長友佑都との連係も、エイバルと同じやり方だった。長友が上がって来ればサイドを譲って内側に入り、アシストを待って即シュートの態勢に入る。ボールをキープして長友が上がる間を作って、背中をすり抜ける彼の前にボールを送って攻撃参加をサポートする。オーソドックスで当たり前のコンビだが、効果的に機能していた。ただし、ペナルティエリアの角の狭いエリアで乾と香川が重なることは、危険なボールロストの原因にもなった。


勝手が違った守備

 問題は乾の守備である。エイバルではファーストチョイスはプレスと決まっていたが、日本代表では時間帯によりプレスとリトリートを使い分けていた。それが徹底していればいいのだが、例えばポーランド戦で途中投入された場面では乾だけがプレス、他のメンバーはリトリートとちぐはぐだった。「リードされ時間がない」という焦りが混乱を招いたのだろう。クラブのように戦術が確立されているわけではない、代表チームならではの光景だった。

 また乾、長友がともに攻撃的であるがゆえに、彼らのサイドが守備の穴となることもあった。リードされ反撃に出たベルギーの危険なカウンターはほとんどこのサイドを経由したもの。フィニッシュに絡んだ乾が戻れず、長友がメルテンスをケアすると相手右ウイングバックのムニエがフリーになる。サイドに張っているムニエには、長谷部のカバーリングが届かないのだ。

 ムニエはゴール前を見据え、ルカクを探してクロスを入れる。フェライーニが投入されてからは身長差のある長友とマッチアップさせ、ロングボールを送り始めた。頭の上を越されてプレスを無効化された乾の守備者としての存在感はどんどん薄くなり、日本のピンチはどんどん広がっていった。

 本来、1トップ2シャドーで3バックのベルギーはサイド攻撃を仕掛けやすい相手だった。セネガルのように3トップの左右2人がサイドに開いて長友の裏をスピード勝負で狙って来られた方が嫌だったはずだ。実際、セネガル戦では最初のチャンスで自らがゴールするまで、乾は守備に忙殺されていた。

 対して、サイドにスペースを与えられたベルギー戦では、乾と長友のコンビは最高の輝きを見せた。ウィツェルが右に張り出し、さらにフェライーニというロングボールの収めどころを作って、マルティネス監督が右サイドに攻撃の狙いを定めるまでは……。結局、ベルギーと日本の差は空中戦というプランBがあるかないかだった。スーパーな乾を擁したサイド攻撃というプランAは、日本を夢のベスト8に導く寸前だった。誰もが驚き興奮した大健闘。乾のベティス凱旋がどんな大騒動になるのか、今から楽しみだ。


Photos: Getty Images

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FIFAワールドカップ乾貴士日本代表

Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。