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ドイツ代表どころか国も揺るがす“エジルとギュンドアン”の禍根

2018.06.27

ドイツサッカー誌的フィールド


皇帝ベッケンバウアーが躍動した70年代から今日に至るまで、長く欧州サッカー界の先頭集団に身を置き続けてきたドイツ。ここでは、今ドイツ国内で注目されているトピックスを気鋭の現地ジャーナリストが新聞・雑誌などからピックアップし、独自に背景や争点を論説する。

今回は、ブラジルW杯制覇の原動力であったドイツ代表チームの団結に亀裂!? 初戦でメキシコ代表に敗れ、スウェーデン戦でも土壇場の直接FKで何とか勝利と苦しい戦いが続く前回大会王者が抱える、ピッチ外の大問題について。


 ドイツ代表は長い間、多様性ある社会を作る上での建設的な、輝かしくポジティブな模範例とされてきた。様々な宗教、社会的文化的背景を持つ選手たちが、力を結集して最大の成功を成し遂げる――2014年のW杯制覇がまさにそうだった。チームにはポーランド(クローゼ、ポドルスキ)、ガーナ(イェロメ・ボアテンク)、チュニジア(ケディラ)、トルコ(エジル)、アルバニア(ムスタフィ)にルーツを持つ選手がいた。

 「この代表チームは、ドイツ社会での融合がいかにうまく、当然のこととして行われているかの好例だろう」

 代表チームのマネージャー、オリバー・ビアホフはこう胸を張った。そして、それゆえに国内のリベラルな人たちはこのチームを祝福してきた。

70%以上が「招集すべきでない」

 ところが、5月にエジルとギュンドアンが独裁的なトルコの大統領レジェップ・タイイップ・エルドアンと面会した後、その融合が本当にうまくいっているのか、疑問視されるようになっている。国家主義的な考え方が広まり、右翼的な「ドイツのための選択肢」(AfD)が野党第一党となっている現在、最も関心の高いテーマである。

 問題となったのは、トルコ企業が用意したロンドンでのレセプションで、エジルと一緒にエルドアン大統領と記念写真に収まったギュンドアンが用意していたマンチェスターCのユニフォームに入っていた「私の大統領へ。敬具」というメッセージだった。

 「人権を無視し、ジャーナリストを監禁するような独裁的政治家へのシンパシーを表明しながら、ドイツの最も重要なチームのためにプレーするなんてとんでもない」という批判の声が上がれば、『ターゲスシュピーゲル』紙も「2人は、国を一つにまとめるということの価値を疑問視している」と指摘。さらに、アンケートに答えた70%の人たちが、彼らを代表チームに招集するべきでないと答えたのだ。

 厳しい反応にショックを受けたギュンドアンは、「大統領という役職と自分のルーツであるトルコへの敬意から礼儀を示したまでのこと」と説明。一方、エジルは言葉少なに自分はドイツ側にいることを約束するだけだった。

 その後、アビチュア(大学入学資格)を最高点の1で取得しているギュンドアンはドイツ連邦大統領フランク・ワルター・シュタインマイヤーとの面会を提案。ちょっとした和解の場が演出された。ただ、両選手ともエルドアンから距離を置くことはしなかった。これはドイツに住む約300万人のトルコ系の人々にとって、危険な兆候である。エルドアンの政治手法に問題はないという印象を与えるからである。

 この騒動を受け、『フランクフルター・アルゲマイネ』紙は「問題になっているのは、基本法で定められている理念である。代表選手たちがこれ(国を一つにまとめるということ)について、具体的にどういう見方をしているのか知りたいところだ」と提起。

 とはいえ、態度を明らかにしないのは両選手だけではない。批判があるにもかかわらず、トルコへの武器輸出を認めるドイツ政府もそうである。

 把握できる限りでは、ギュンドアンとエジルはドイツ社会の価値観は理解しているが、同時にトルコに住む、またはトルコと密に結ばれる親戚や家族からのプレッシャーにさらされてもいる。もし両選手が大統領から距離を置けば、親戚や家族に報復が降りかかってくる恐れがある。ゆえに、正反対の利害関係の間で板挟みになり、混乱してしまったわけだ。

 一方でギュンドアンは、親戚が住むトルコのデュルスンベイに500万ユーロでショッピングセンターを作る計画に関わっており、それを成功させるために大統領と良好な関係が役立つのは間違いない、という見方もある。

6月17日のメキシコ戦(写真)、続く23日のスウェーデン戦のいずれも途中出場でピッチに立ったギュンドアンに対し、ドイツファンから激しいブーイングが浴びせられた

虚しい“フェアプレー精神”

 「FIFAは汚職まみれであり、ロシアW杯はプーチン大統領が自己演出する絶好の機会となる。バイエルンはカタールから資金を得ており、シャルケのメインスポンサーはロシアの国有企業ガスプロムだ。世界的スター選手のメッシやロナウドは脱税している。グローバルなプレミアムプロダクトであるサッカーに莫大な資金が流入する限り、フェアプレーなどというのは手荷物に入れられるほど些末なものだ」と『ベルリナ新聞』は痛烈に批判する。

 スポーツが“モラル的な裁判官”、“良き価値の貯蔵庫”として機能していないことは、何も今回の事件で明らかになったわけではない。フェアプレーの精神を訴え自らの道徳的な素晴らしさをアピールしようとする各連盟の態度は、いつも空々しく見える。

 では、ギュンドアンとエジルが引き起こした最大の損失は何か。それは、多くのトルコ系移民とドイツ人たちとの間の、それでなくても脆い信頼関係に傷をつけてしまったことだ。民主主義の国に住み、自由や教育といったメリットを享受しながら、そうした権利を保証するために欠かせない基本的な価値をないがしろにしている印象を残してしまった。多くの移民がそう考えているのではないかというイメージは、ただでさえ外国人への嫌悪感が増している中で、ドイツ連邦の現在のあり方に対する脅威にすらなりかねない。

エジル、ギュンドアンが面会したトルコのエルドアン大統領。6月24日に投票が行われた大統領選に勝利、再選が決まった


■ 今回の注目記事
「サッカーのダブルスタンダード」

サッカーには人々を結びつけるだけでなく、分離させる力もあることを指摘したうえで「代表選手がいまだに自分たちの影響力を過小評価しているのは驚きだ」と嘆く。ドイツ在住トルコ人の中には大統領選の投票権を持つ人々もおり、面会は選挙運動中のエルドアン大統領にとって非常においしい話。ギュンドアンとエジルの代理人は、面会が作り出すイメージと起こり得る反応について予見しなければならなかったと指摘する。(『南ドイツ新聞』 2018年5月)


Photos: Getty Images

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イルカイ・ギュンドアンドイツ代表トルコメスト・エジル

Profile

ダニエル テーベライト

1971年生まれ。大学でドイツ文学とスポーツ報道を学び、10年前からサッカージャーナリストに。『フランクフルター・ルントシャウ』、『ベルリナ・ツァイトゥンク』、『シュピーゲル』などで主に執筆。視点はピッチ内に限らず、サッカーの文化的・社会的・経済的な背景にも及ぶ。サッカー界の影を見ながらも、このスポーツへの情熱は変わらない。