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「ストッパー」はもう古い。新たなポジション「ハーフDF」とは?

2018.04.04

 かつて3バックを記述する時、中央にいるDFをリベロ、その左右にいるDFをストッパーと呼んでいた。だが、4バックによるラインディフェンスの発展を経て、3バックの役割は大きく変わった。3人がラインをそろえるだけでなく、攻撃時にはパスの配給役になり、チームがボールを失えばゲーゲンプレッシングをかける味方をフォローするために果敢に前へ出る。もはやストッパーという呼び名はふさわしくない。


ストッパー+SB=「中間のDF」

 そこでドイツの人気戦術サイト『シュピールフェアラーゲルング(Spielverlagerung.de)』が使い始めたのが、「Halbverteidiger」(ハーフディフェンダー)という名前だ。これはもともとハンドボールのポジション用語。外側の守備者と、中央の守備者の中間にいるDFを、ハンドボールではハーフディフェンダーという。直訳すれば「中間DF」という感じだ。

 この用語をドイツサッカー界で用いているのは『シュピールフェアラーゲルング』だけだが、同サイトは指導者にも高く評価されており、次第に普及していくだろう。

 ハーフディフェンダーという言葉が同サイトで使われ始めたのは2012年頃。先駆けとなったのは、ペップ・グアルディオラ率いるバルセロナの試合だった。

 2012年4月のCL準決勝、チェルシーとの初戦を0-1で落として迎えた第2レグ、ペップは[4-3-3]ではなく、[3-3-4]を採用する。3バックの中央にピケ、左にプジョル、右にマスチェラーノ。ブスケッツがアンカーで、その前にシャビとセスク。そして左ワイドにイニエスタ、右ワイドにクエンカ、最前列にアレクシス・サンチェスとメッシという並びだ。SBではなく攻撃的MFをサイドに置く、強気な布陣である。

 この試合において、マスチェラーノとプジョルは、守備時には前に出てボランチのような潰し役になり、攻撃時はSBの役割を担った。<ストッパーとSB>、もしくは<ストッパーと6番>を足して2で割ったような役割。まさに“ハーフ”である。ちなみにピケが前半に負傷するとダニエウ・アウベスが投入され、3バックは左からプジョル、マスチェラーノ、D.アウベスという並びになった。

 試合は2-2の引き分けに終わり、バルセロナは敗退したが、戦術界に大きなインスピレーションを与えた。以後、ユベントスの3バックにおけるキエッリーニもハーフディフェンダーのお手本とされ、ドイツでもこの役割が知られていく。


「リベロの進化形」は時代のニーズ

 そして今シーズン、ブンデスリーガで3バックを採用する監督が急増し、それに伴いハーフディフェンダーの重要性がクローズアップされ始めた。代表例が32歳のテデスコ監督率いるシャルケだ。

 シャルケは前線の配置のバリエーションはあるが、最終ラインの基本は3バック(左にナスタシッチ、中央にナウド、右にケーラー)。ケーラーはもともとウイング出身で、ユース年代ではボランチでプレーしていた。テデスコが「お前はフレキシブルにプレーできる」と伝えたように、ハーフディフェンダーにうってつけの選手である。

 今、彼のプレーで特に効果的なのが、3バックの持ち場を離れて前のスペースを突くこと。守備戦術が発達した現代でも、中央のDFが上がって来ることを想定しているチームは少ない。もしハーフディフェンダーが前に出れば、相手の組織に混乱を生むことができる。

 これはボールを持った時に前にドリブルするだけではない。他の選手がボールを持っている時に、スペースを見つけて前に出れば、新たなパスコースを作れる。ケーラーはまさにこの役割を実行している。他の例を挙げると、ドイツ代表で3バックの右に入った時のキミッヒも、ハーフディフェンダーの模範生だ。

 ハーフディフェンダーは自分の判断で前に出て行くため、リベロの進化形という見方もある。かつてベッケンバウアーがリベロの代名詞になったように、ドイツからハーフディフェンダーの代名詞になる選手が出てきても不思議ではない。


Photo: Getty Images

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ドイツハーフディフェンダー戦術

Profile

木崎 伸也

1975年1月3日、東京都出身。 02年W杯後、オランダ・ドイツで活動し、日本人選手を中心に欧州サッカーを取材した。現在は帰国し、Numberのほか、雑誌・新聞等に数多く寄稿している。

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