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マンチェスターU撃破し8強進出、史上初の快挙にセビージャの街は

2018.03.17

現地発セビージャコラム

 セビージャがCLで初めての8強入りを果たした。ヨーロピアンカップ時代を含めても約60年ぶりというから歴史的快挙である。

 ところが、セビージャの街はというと極めて静かであった。1年前、エイバル出張の移動中でレスターとのCLラウンド16第2レグを生で見られなかったのだが、セビージャ空港を出た途端、街が静まり返っていたのですぐに敗退がわかった。この夜も同じ。実はこのマンチェスター・ユナイテッド戦でも残り30分ほど席を外していて、歓喜の声が上がるでもなかったのでてっきり敗退したと思い込み、ビデオを見返して驚いたくらいだった。

 この静寂にはいくつか理由がある。まず、当日セビージャでは激しい雨が降っていたこと。さらに、中継局が有料サッカーチャンネルではなく民放で、ほとんどのファンが自宅観戦をしていたこと。ゆえに、バルに大勢集まってそのままの勢いで「祝祭の噴水」に繰り出すことはなかった。街の名物大聖堂近くにセビジスタたちが凱歌を挙げる噴水があって、宿敵ベティスへの勝利とかELやコパ・デルレイでも決勝進出以上のレベルになると水浴びをする輩が出て来るのだが、今回はゼロだったはずだ。街の中心部に住んでいるが私の耳には、勝利を祝うクラクションの音すら聞こえてこなかった。

 60年ぶりと言っても、まだ8強。クラブにとっては快挙かもしれないが、EL3連覇に比べれば大したことがない、というのがファン側の実感なのだろう。いたずらにCLを持ち上げるのはELの価値を下げることにも繋がるし。さらに言えば、誰もタイトル獲得に近づいた、と思ってはいないこともあるだろう。セビージャに限らず、スペインのファンはサッカーをよく知っていて身の程をきちんとわきまえている。欧州10本の指に入る超ビッグクラブとセビージャの間には埋めようがない深い溝がある。ファンもカストロ会長もアリアスSDもモンテッラ監督も選手たちも、CL優勝に近づいたとは露(つゆ)ほども思っていない。8強進出が60年ぶりという事実がその巨大な差を証明しているではないか。たとえて言えば、ワールドレコードとはかけ離れている自己記録を更新した、というくらいのイメージなのだ。

“あれだけ大金を注ぎ込んであの程度のサッカーか”

マンチェスターUのモウリーニョ監督

 もっとも、2017-18シーズンのクラブのプロジェクトとしてはこの8強進出は大きかった。クラブ史上最高の予算を組んで臨んだ今季、リーガではマンチェスターU戦の3日前にホームで4位バレンシアに敗れて11ポイント差を付けられ、来季のCL出場が絶望的になったばかり。何かと前SDモンチと比べられ可哀想な補強担当アリアスにとっては進退が問われかねない試合だった。そのアリアスの上司カストロ会長も同じ。カストロにはクラブ資金の横領疑惑が噴出しており、前会長ホセ・マリア・デル・ニドが元役員である息子を会長に送り込み返り咲こうとしているのだ。それが、今回の準々決勝進出とすでに決勝進出を決めているコパ・デルレイで何とか格好がつくシーズンにはなった。2人の首も繋がったことだろう。また、この準々決勝進出で得られる9000万ユーロ(約99億円)ほどの現金収入も、ベリッソ解任と冬の大型補強で予想外の出費を強いられたクラブの財布にとってはありがたいものだった。

 ローカルレベルではなくナショナルレベルでは、セビージャの勝利は「リーガエスパニョーラの勝利」と言われている。財政的にまったくかなわないプレミアリーグの最も裕福なクラブを退けた。それ自体が大いに溜飲を下げる出来事だったことに加え、マンチェスターUのあまりに保守的で原始的な放り込みサッカーに対するセビージャの繋ぐサッカーの優位性が強調されているのだ。レアル・マドリー監督時代のモウリーニョがスペインサッカー界に残した敵対者たちは、“あれだけ大金を注ぎ込んであの程度のサッカーか”という言い方で、セビージャ称賛の傍らマンチェスターU監督をあざ笑うのを忘れない。

敵地オールドトラッフォードに駆け付けたファンと歓喜を共有するセビージャ陣営。16日に行われた抽選の結果、準々決勝ではバイエルンとの対戦が決定した

 私個人で言えば、今回の対戦は、2013-14シーズンの準決勝アトレティコ・マドリー対チェルシーを思い出させた。あの時も第1レグ、モウリーニョは超保守的な戦い方の末スコアレスドローに満足してホームに戻り敗退(合計スコア1-3)している。ゴールの価値が2倍のアウェイでこそ点を取りに行くべきなのだが、セビージャでの第1レグはルカクへの放り込みオンリーのスコアレスドロー。戦力的に圧倒的に劣勢のセビージャだが、この第1レグを見て「これは勝ち抜ける」と感じた。番狂わせあってこそのサッカーだが、そのシナリオは3週間前に用意されていたと思っている。


Photos: Getty Images

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UEFAチャンピオンズリーグセビージャ

Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。