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デ・ブルイネ覚醒の理由。ポジションからの解放が拓く境地

2017.11.14

「速攻の申し子」から「ピッチの支配者」へ

かつて[4-3-3]のインサイドMFと言えばシャビ・エルナンデスに象徴されるような、ポゼッションを安定させるためのパススキルや卓越したゲームビジョンが最重視されるポジションだった。しかし、昨季マンチェスター・シティの指揮官に就任したペップ・グアルディオラは、スピードと得点力を兼ね備えるアタッカー、デ・ブルイネを抜擢。相棒ダビド・シルバとのコンビが、ベルギー代表MFを一段上のステージへと押し上げた。

 頬を紅潮させながら懸命にプレーするベルギー人の青年は、パーティーでの余興に悩んでいそうな素朴さを感じさせる。しかしその素朴さは、彼がボールに触れた途端に霧散する。一瞬でトップスピードに乗る正確で力のあるワンタッチと、機械のようなフィニッシュ。烈火のごとき猛烈な攻め上がりとFW顔負けの決定力を誇るベルギーのトップ下は、ミランを牽引したブラジル代表MFカカーを思い起こさせる。温和なブラジル人の青年がガラス細工のように繊細なものだと思われていたトップ下というポジションに「スピード」と「決定力」という従来とは異なる価値を提示したように、デ・ブルイネもマンチェスター・シティで新たな才能を開花させつつある。

 ただし、ここに至るまでの道のりは平坦なものではなかった。ジョゼ・モウリーニョ時代のチェルシーでのポジションは右サイド。フランク・ランパードが高い位置に出ていくことを助けるために、低い位置から組み立てに絡むサポート役を任せられた。しかし、パス精度は高いもののレジスタとして攻撃を組み立てる役割は得意としておらず、前を向いてスペースをアタックするプレーが持ち味のデ・ブルイネにとってモウリーニョが与えた役割は噛み合わないものだった。その後、ボルフスブルクではトップ下で起用されたことによって「速攻の核」として覚醒。再び海を渡ってマンチェスター・シティの一員となったが、マヌエル・ペジェグリーニが率いた初年度、主に起用されたのはサイドのポジション。スピードと迷いのないカウンターの局面で脅威となる一方、サイドの狭いスペースに追い込まれてしまい怖さが半減、窮屈そうにプレーする場面も目立った。何度となく華麗なゴールを決めてみせたとはいえ、ゴールから逆算するようにタクトを振るダビド・シルバに比べれば、チームへの貢献度という意味で比肩することはなかった。

「一撃必殺カウンター」の担い手

 そんな中、ペップ・グアルディオラの到来がすべてを一変させる。新監督が目指したのはデ・ブルイネとD.シルバの共存。それも、2人をピッチの中央寄りでプレーさせることだった。当然、シルバとデ・ブルイネはサイドに固定すると「もったいない」選手ではある。シルバはサイドでのプレーにも柔軟に適応するが、彼の試合を読む力が最大限に生かされるのは中央だ。例えば昨シーズン序盤にノリートが出場していた時は、左サイドの内側寄りにポジションを取るノリートとシルバが頻繁に位置を入れ替えていた。D.シルバが絡む左サイドは、ポジションチェンジを繰り返しながら数的有利を作り出すように組織されていた。ポジショナルプレーを理解し、「味方のスペースを生む」ために的確な位置を取り、相手の守備を動かしながら論理的に試合を組み立てるD.シルバは、チームに欠かせないキーマンとして君臨してきた。理想論としてはD.シルバとデ・ブルイネの2人を中央に置くことがベスト。しかし、実際に彼らを3センターで共存させることが可能なのはグアルディオラだけだろう。無謀にも映る大胆な発想によって、シティで埋没していたデ・ブルイネは変貌した。

 ポジションという概念から解き放たれたように、広いピッチを走り回りながら自己を表現している。

シティの中盤で絶妙のコンビネーションを見せるデ・ブルイネとダビド・シルバ

 例えば、昨年9月のマンチェスターダービーでは長い距離を走ってD.シルバやノリートがポジション交換によって空けたスペースを攻略し、速攻を主戦場とする相棒スターリングとともに右サイドを疾走。イヘアナチョが偽9番的な位置を取ったこともあってロングボールに競り合った彼を追い越し、得点まで奪ってみせた。左サイドでゲームを作って、右サイドから中央に入り込んだデ・ブルイネやスターリングがゴールに絡む形が昨シーズン序盤のシティを支えた。判断速度と正確性に加え、人のいないスペースにボールを置ける技術を生かしてカウンターを発動させることもできる。右サイドへと流れれば、正確な低弾道クロスをエリア内に送り込む。サイドに固定してしまうと様々な制約を与えてしまうが、流れの中で自発的にサイドに流れるのであれば問題はない。

 グアルディオラがバルセロナで一時代を築いた「相手を弄ぶような遅攻」の中心がD.シルバだとすれば、バイエルン時代に武器となった「ハイプレスから繰り出される一撃必殺の速攻」を担うのがデ・ブルイネになる。フィジカルコンタクトを苦にしない献身的な守備でボールを奪取すれば、判断良くパスを散らし、一気に前線へと駆け上がる。全速力で疾走した後も精度が落ちない正確なシュートまで兼ね備える彼は、もはやチームの大黒柱だ。

ポゼッションでも輝ける選手へ

 さらに、D.シルバとの「共存」はデ・ブルイネを新たな領域へと導こうとしている。加入時に「シルバと一緒にプレーすることは、間違いなく僕を成長させてくれる」とコメントした青年は、最も近い位置で憧れのMFのすべてを吸収しようとしている。正しいポジショニングと自分の周りに生まれるスペースを意識した精密なボールコントロールによって、「広いスペースを好んでいた」アタッカーは「狭いスペースであっても苦にせず、次のプレーに移行ができる」選手へと変貌。精度の高いキックや判断の速度といったもともと持っていた武器が、ポジショナルプレーによって「優位性」に直結するようになってきているのだ。俊足のサネがサイドMFに定着した昨シーズン後半以降は、裏を狙って走り込む両翼に合わせていく長いスルーパスにも磨きがかかっている。アグエロが中央に残るのではなく広いエリアを動き回ることが求められるようになり、裏のスペースを両翼の選手が攻略していく中で、インサイドMFとしてプレーするデ・ブルイネにはそこにラストパスを供給する役割も課されている。

 さらに、D.シルバにはない「強烈なキック」も両サイドにボールを散らす上で重要なオプションとなっている。右SBの位置でボールを受けて、そこから逆サイドへと勢いの落ちないサイドチェンジを送り込むパターンは必見だ(図①)。

 例えば、アグエロがDFラインを引きつけながら下がってくる局面で、左サイドに流れたデ・ブルイネは高いラインの裏へスターリングを走らせるパターンと、一気に逆に展開してサネの突破力を生かすパターンを選択肢に持てている(図②)。受けた瞬間にウイングが質的優位性を生かせるようなボールを、意識して狙えるようになってきているのだ。自分がボール受ける部分だけでなく、味方の状態や全体の陣形を意識してパスを出せるようになっていることは大きな進歩と言える。プレーエリアも広がり、自然に逆サイドまで進出し、機を見てセカンドトップとして得点に絡む。様々なポジションに移動していく中で、彼の持つ「優位性」を生かすプレーを確立したことによって、デ・ブルイネは速攻以外の局面でも定評のある判断速度を生かせるようになってきた。

 ペップ・グアルディオラも「メッシという怪物を除けば、デ・ブルイネが世界一の選手になる可能性がある。彼は、常にその局面における正しい判断ができる選手だ」と教え子を絶賛する。「速攻の申し子」から、「ピッチの支配者」へ。D.シルバという最高の相棒を得て、進化の過程にある怪物が「偉大なるバロンドーラー」カカーを超えることも、夢物語ではないはずだ。

Photos: Getty Images

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Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。