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モンチがギリギリまで明かした門外不出の選手獲得メソッド

2017.07.24

開拓者が描く、新時代の移籍マーケット

INTERVIEW with
MÓNCHI
モンチ

2000年から今年まで17年間にわたりスポーツディレクターを務めたセビージャでは、就任当時2部だったクラブを5度のEL制覇など9タイトルを手にする強豪へと変貌させ「セビジスモの象徴」と崇められたモンチ。惜しまれつつセビージャを去り、来季からはイタリアのローマに活躍の場を移す辣腕SDが『フットボリスタ』だけに明かしてくれた、欧州でも最高峰と評価されるデータを活用したスカウティングメソッドの秘密を特別公開。

インタビュー・文/木村浩嗣
写真 ヘスス・スピノラ


15年で変わった仕事環境

“デスクに居ながら世界中に手が届く”

――テクノロジーの発達によってあなたの仕事はより楽になりましたか?

 「そうだね。情報のデジタル化が進んだことによって多くの試合をより短い時間でチェックできるようになり、我われが把握する選手のマーケットは大きく広がった。わざわざ試合を見に行く必要がなくなり、ある選手を見るために90分間座っている必要もない。1試合の選手1人のアクションは映像にすれば5分間ほどに過ぎないのだからね。『クリホビアクの攻撃時の個人技を見たい』とか『サンテティエンヌの試合開始後15分間の守備アクションを見たい』とか思ってもワンクリックすればすぐに映像が見られる。選手ごとチームごとにアクション別に試合の映像は細分化されすぐに呼び出せるようになっているんだ。世界中のサッカーに、デスクに居ながらにして手が届くのは技術の進歩のおかげだよ」

――選手情報のデータバンク「Wyscout」を利用しているそうですね。

 「その他にもいろいろなソフトやデータ情報サービスを使っているが、世界中の選手の映像を見たり、試合を見たりするためには『Wyscout』を使っている。このサービスによってスポーツディレクターの仕事はずい分楽になったよ」

――あなたの仕事にとってデータはあればあるほど良い、という感じですか?

 「そうだね。今サッカー界にはデータがあふれている。戦術、技術、フィジカルもすべて数値化されるようになった。試合が終わり24時間もすればリサーチ会社『InStat』、『AMISCO』などからチーム別、選手別の詳細な統計データが届き、『Mediacoach』、『Nacsport』などのソフトを使って戦術も技術も徹底的に分析される」

――そうしたデータは戦術分析のスタッフとも共有しているのですか?

 「そうだ。我われは選手個人のプロフィールをより完璧にするためにデータを使い、テクニカルスタッフは戦術分析、フィジカル管理などのために使っている」

――中には役に立たないデータというのもあるのでしょう?

 「基本的にすべてのデータには使い道があると考えている。選手獲得時により確かな選択ができるからだ。例えば監督に『サイドで運動量のある選手が欲しい』と言われれば、『1試合平均走行距離が11km以上』というフィルターをかけて検索すれば良い。我われにとって走行距離は役に立つデータというわけだ」

――氾濫するデータに溺れるということもあるのではないですか?

 「データは使いようだよ。執着し過ぎてはいけない。データだけで選手を獲得することはなく、判断材料の一つに過ぎないのだから。例えばメッシの走行距離は8kmそこそこの試合もあるが、だからといって失格の烙印を押すことなんてできないだろう?」

――あなたがスポーツディレクターに就任した2000年の夏と比べると、仕事の環境は大きく変わったのではないですか?

 「天と地ほどの差があるよ。あの時代は勘頼りのところが大いにあった。もちろん、なるべく多くの選手を見ようと私も努力していたんだが……。結局のところ膨大なデータが何の役に立っているかというと、我われの選手の選択ミスを最小限にしてくれるということだ」

――その前の90年代、あなたはセビージャの選手だったわけですが、当時のスカウティングの仕事は想像できますか?

 「私の場合はセビージャの近くのカディスに住んでいたから見に来て獲ってくれたのだと思う。あの時代はビデオテープがあっちこっちに行きかっていた時代で代理人からの情報が貴重だった。今でも口コミは重要な情報源になる可能性はあるのだが、売り込まれた時にはその選手は我われのリストに入っていることがほとんどだ」

――あなたは何も運に任せたりしない完璧主義で知られています。

 「サッカーには運不運が付き物だ。君がやるべきことは努力によって運の影響を最小限にすることだ」

――一方で膨大なデータが誰にでも手に入るようになったことで、あなたのアドバンテージは少なくなったとも言えませんか?

 「そんなことはないよ。データ収集の一方で、人的な主観的な仕事の部分は残っている。ある選手がチームに適応できるかどうか、チームスタイルに合った適性を備えているかを知るには我われの経験と知識が必要だ。これは幾何学ではない。データを入力すれば機械が選手を選んでくれるわけではないんだ。人の主観的な判断が最終的には選択の決め手になる」

旧UEFAカップ時代も含め5度のEL制覇は単独最多。特に、毎年選手の顔ぶれが大きく入れ替わる中で達成した13-14~15-16の3連覇は、まさにモンチの手腕あってこその快挙だった(Photo: Getty Images)

5段階評価のデータベース

“A、B評価からチェックしていく”

――あなたのデータベースには今、何人分の情報が入っているのですか?

 「1500~2000人の間くらいかな。我われが集中的にリサーチしているリーグは25~30あり、1リーグについて50~70人の選手をピックアップしているとするとそのくらいになる。ただ別に驚くほどの数ではないよ。例えばリーグ1には20チームあって400人ほどの選手がいる中で約2割弱、60~70人の情報を把握している。それはスポーツディレクション部門としては当然の仕事だよ」

――この1500人が選手獲得のスタートラインとなるわけですか?

 「そう。セビージャが1500人全員に興味を持っているというわけではない。ここから我われのメソッドを使い、ポジション別にふるいにかけて絞り込んでいく。その結果残った“選ばれし者たち”が、現在あるいは将来的にセビージャが獲得に乗り出す可能性がある選手たちとなる」

――絞り込みの際にAからEまでのランク付けをするそうですね?

 「実用的にシステマチックにやるというのが我われのやり方だ。Aはすぐにでも獲得したい選手、Bは興味がある選手、Cは成長を見守りたい選手、Dは切り捨てる選手、Eは何の役にも立たない選手(笑)。点数付けされたデータよりも私には直感的に頭に入ってきやすいからそうしている。選手のデータの中で最初に私が注目するのはこの5段階評価欄。当然A評価、B評価の選手からチェックしていくわけだ」

――1人の選手を評価する観点は何ですか?

 「値段、フィジカル、テクニック、戦術理解力、環境適応力、負傷歴の6つだ。どれか1つに問題があっても獲得は難しい。例えば安くてどんなに素晴らしい選手でもトラブルメイカーは獲らない」

――データベースには当然、検索機能も付いているんですよね?

 「もちろん。データに私が『EU圏内の選手』、『25歳以下』、『DF』、『身長180cm以上』、『Bランク以上』という条件付けをすれば、それにのっとったリストは出てくる」

――あなたの下では何人のスカウトが働いているのですか?

 「私を含めて16人だ」

――彼らは元選手ですか?

 「元監督、元選手、元フィジカルトレーナー、心理カウンセラーと様々な経歴を持つ者を選んだ。バリエーションがあればあるほど多角的な視点から選手を評価することができるからね。監督の目から見えるものと心理カウンセラーの目から見えるものは当然違う」

――そのうちの何人が海外にいるのですか?

 「ドイツにいる1人だけだ。その他はセビージャに住んでいる。私は彼らと日常的にコンタクトを取る必要があるからね。彼ら一人ひとりが3、4のリーグを担当している」

――セビージャから世界中のリーグをチェックする――そんなことが可能なんですね。

 「さっきも言ったように『Wyscout』があればできるんだ。週中にはパソコンの前に座っていて週末に生で試合を見に行く。そんな感じの仕事ぶりだ。7月から12月末の情報収集の時期は観戦数を稼ぐことが重要になるからビデオ観戦が中心になる。『Wyscout』であれば1日4、5試合はチェックできるが、出かけて行けば当然その数は極端に少なくなる」

――では、「Wyscout」が世に出るまではどうしていたんですか?

 「DVDを配信する会社のサービスを受けていた。やっていたことは同じだよ。職場は常にセビージャだった」

――あなたは世界中にスカウト網を持っているという噂は嘘だったんですね。

 「あれは都市伝説だよ(笑)」

――そのスカウトたちが毎月、担当リーグのトップ11を選んでいくという話を聞いたことがあります。

 「そう。7月~12月までは各自が毎月トップ11を選んでデータベースに溜め込んでいく作業が続く。1月以降、そうして集めた選手たちを対象にさらに緻密な追跡調査を行い、選択する作業に入っていく。その結果4月にはだいたい各ポジションについて11~15人の選手がピックアップされるわけだ」

――全ポジションについてやるわけですか?補強が必要のないポジションというのもあると思うんですが。

 「それが我われのやり方だ。違約金を払って主力が引き抜かれるというケースも想定しなければならない。セビージャが安く買って高く売るクラブである限り、それはむしろ歓迎すべきことだからね」

――1月からの追跡調査はどういうふうに行われるのですか?

 「ビデオだけでなく、実際に現地に足を運ぶ回数が多くなってくるのがこの時期。1人の選手について少なくとも6、7人のスカウトがチェックするのがルールだ」

リーグのカテゴライズ

“Aは毎週の国内リーグ、Bは代表でチェック”

――Jリーグは追いかけていますか?

 「Jリーグは見ていない。日本人選手の場合は1人の担当者が代表レベルでチェックしている。フルからアンダーまで代表レベルの選手であればセビージャの興味を引く可能性があると考えている」

――ということはリーグによって扱いが違うわけですね。

 「その通り。我われはリーグをAとBの2つのカテゴリーに分けている。カテゴリーAは毎週のリーグ戦をチェックする最重要リーグ。イングランド、ドイツ、イタリア、オランダ、フランス、ポルトガル、ベルギー、アルゼンチン、ブラジルの9カ国で、歴史的にセビージャが最も多くの選手を獲得してきたリーグだ。その他のカテゴリーBは代表レベルでチェックする。この仕事の出来は結局いかに時間を効率良く使うかに懸かっている。コロンビアやスイス、ウクライナで代表に選ばれていない選手はセビージャでプレーするレベルには達していないという判断だ」

――監督の意見はどのくらい反映されるのでしょう?ウナイ(エメリ元監督)が「この選手が欲しい」と注文してくることはないんですか?

 「ウナイが特定の選手を名指しすることはない。彼は“右SBで運動量があり……”と欲しい選手のプロフィールを言ってくる。そのプロフィールに最も近い選手を探すのが、我われの仕事だ。彼は我われの調査力と選択力に全幅の信頼を置いてくれている」

――データに関して将来テクノロジーが発達して、こんなプログラムがあればいいというのはありますか?

 「今我われが欲しいのはデータの掘り起こしをサポートするソフトだ。掘り起こしとはすべてのデータベースから重要なデータだけを切り取って提供してくれる作業だ。我われが蓄えたフィジカル、テクニック、戦術などの膨大な個別プロフィールのデータから、それらを組み合わせたより複合的プロフィールが発掘できるのではないか、と考えている。一つ例を挙げよう。アメリカのNBAのスタジアムにある店舗では膨大なPOSデータ(※)を掘り起こすことによって、特定のプロフィールを持ったファンがどんな気象条件の時にどんな商品を購入するのかを突き止めることに成功している。POSによって手に入れた、ハンバーガーは誰がどんな状況で買うのかといった膨大なデータを組み合わせることによって、例えば今日は雨でこの年齢層のファンが多く来るからこの商品を用意しようという効果的なマーケティングが行えるわけだ。

 これをサッカーのスカウティングの世界に応用できないか?より細かなプロフィール、例えば特定の時間帯のみの走行距離やある状況下でのパス成功率、その他様々な条件を加えてキーを叩くと一発でリストが挙がってくるようなシステムは開発できないだろうか?統計学のアナリストや数学のエキスパート、ソフト開発会社などに今当たりを付けているところだ」 ※「Point of Sales」(ポイント・オブ・セールス)の略。店のレジでの販売データのこと。

――つまり、データを蓄積する時代からそれを有効活用する時代に入ろうとしているわけですね。

 「そうだと思う。ただこのデータの掘り起こしが実現するのはまだ時間が必要だけどね」

――データがこれだけ氾濫し、未発見の選手などほとんどいない時代になったのに、モンチのチームが勝利し続ける秘密は?

 「秘密ね、難しい質問だな。おそらくメンバーの個々の能力と努力、チームワークの良さ、監督をはじめとするテクニカルスタッフとの良好な関係などが、成功の秘密かもしれない。“モンチマジック”があるとすればそれは仕事への献身ということになるのだと思う」

――今日は貴重なお話をどうもありがとうございました。

 「ここまでだね、話せるのは。これ以上手の内を明かすと君に私の仕事を盗られちゃうからね(笑)」


■プロフィール
Ramón Rodríguez Verdejo “MÓNCHI”
ラモン・ロドリゲス・ベルデホ “モンチ”

1968.9.20(48歳)SPAIN

カディスのサン・フェルナンド生まれ。選手時代はGKとしてプレーし、20歳の時に当時3部の地元サン・フェルナンドからセビージャBに移籍。その2年後にトップ昇格を果たし、セビージャで9シーズンを過ごす。99-00シーズン開幕前のキャンプ中に引退し、そのままチーム役員のポストに就く。翌年からスポーツディレクターに就任すると下部組織の強化とスカウト網の充実を図り、セルヒオ・ラモス、レージェス、ヘスス・ナバスら生え抜きの若手とダニエウ・アウベス、ジュリオ・バチスタら無名ながら実力ある国外選手をベースに実力をつけ始める。彼のフロント入りから1年でチームは1部復帰を果たし、その後も右肩上がりで成長。セビージャ躍進の立役者として国内外で高い評価を受けてきた。しかし今年4月、18年間にわたり過ごしてきたセビージャを離れることを決断。ローマのスポーツディレクターとして新たな挑戦をスタートさせた。

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SDセビージャモンチローマ

Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。