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レスター躍進“真の立役者”スティーブ・ウォルシュの選手発掘メソッド

2016.02.12

2016年2月9日、アーセナルによるレスターのスカウト部長ベン・リグルワースの引き抜きについて、レスターのOBである元イングランド代表FWギャリー・リネカーが「彼らが“盗んだ”のは間違ったスカウトだ」とコメント。「これらの選手(レスター躍進の原動力であるリヤド・マレズ、エンゴロ・カンテ、ジェイミー・バーディーら)を見つけてきた」真の人物として、肩書きの上ではアシスタントコーチであるスティーブ・ウォルシュの名を挙げた。

リネカーが“指名”するウォルシュとはいったい何者なのか。彼にスポットライトを当てたコラムを、月刊フットボリスタ第27号の特集「データ革命 現地レポート」から特別公開する

モットーは「主観」と「客観」の絶妙バランス

 開幕早々レギュラーをつかんだ岡崎慎司について、昨年9月までレスターのコーチを務めていた元イングランド代表FWケビン・フィリップスはこう語った。

 「契約するまで、我われはほとんど彼のことを知らなかったが、加入するや否や実力を示した。スカウト部門が発見した最高の選手の最新例だ。スティーブ・ウォルシュは素晴らしい仕事をしたね」

 このウォルシュという男はレスターのアシスタントマネージャーであり、同時に補強部門のトップを兼任する敏腕スカウトでもある。

 「(岡崎は)高いエネルギーを備え、非常にチャンスに強く、DFのあらゆるミスを逃さずネットを揺らす。それが一番の能力だね。オフ・ザ・ボールでもいかにプレーすべきかわかっている。ポジショニングセンスがあるし、運動量も信じられない」(ウォルシュ)

 この評価は、マインツからの移籍が決まった直後、チームに合流する前の昨年6月に発せられたものだ。2年前から岡崎に目をつけていたウォルシュだけが、この時点で日本代表FWの強みをほぼ完璧に把握していた。だからこそ、加入数日後にナイジェル・ピアソン前監督がクラブを去るという事態となっても、岡崎の評価が下がることはなかったのだ。

バーディーからドログバまで

 レスター躍進の裏で、ウォルシュの抜け目ない補強がにわかに注目を集めている。

 絶対的エースとなったバーディーは、2012年5月に当時5部のフリートウッドからやって来た。移籍金100万ポンド(約1億8000万円)はノンリーグ(5部以下)の選手に支払われた歴代最高額だったが、イングランド代表にも招集される今の姿を見れば“特売品”だ。また、リーグ屈指のドリブラーに成長したMFマレズも14年1月にフランス2部で見出された掘り出し物。ビッグクラブがこぞって注目するアルジェリア代表MFもまた、ルアーブルからの移籍金はわずか35万ポンド(約6500万円)だった。

 ウォルシュはチーム練習が終わってからデスクに戻り、スカウトや代理人との打ち合わせ、さらにはイタリアの「Wyscout」社が提供する各国リーグのマッチデータや選手のプレー映像チェックなど激務をこなす。そんな多忙な日々の中で、彼はバーディーのズバ抜けたスプリント回数やマレズのドリブル成功数といったデータを見逃さなかった。

 アーセナルなども活用する「Wyscout」のデータベースを存分に生かすべく、アナリストの雇用にも積極的だ。11年からレスターで働き、今年2月にトッテナムへと引き抜かれていったロブ・マッケンジーもその一人。岡崎のチャンス創出数や走行距離、スプリント回数などのデータをウォルシュに報告していた彼は、元上司について「スポーツ科学やデータ分析もオープンマインドで受け入れてくれた」と感謝を語る。

 というのも、ウォルシュは今でも時間が許す限り自ら視察に足を運び、実際にプレーを見てターゲットの実力を見極める根っからの“スカウト”であり、こういった人種は得てして数字に懐疑的な場合が多いからだ。

 かつて16年にわたりスカウトとしてチェルシーに関わっており、ジャンフランコ・ゾラやトーレ・アンドレ・フローの獲得を進言した実績があるウォルシュは、現在のボスであるクラウディオ・ラニエリとも4年ほど一緒に働いていたほか、ジョゼ・モウリーニョ政権時にはヨーロッパ担当としてフランスに通い、ディディエ・ドログバやマイケル・エシアンを発掘してもいる。こうした目利きを買われて今はレスターの補強責任者を任されているわけだが、チェルシー時代にモウリーニョの下で分析担当を務めたアンドレ・ビラス・ボアス(現ゼニト監督)と密接な関係を築いていたことからもうかがえるように、自分の“目”だけに頼らない柔軟性を持っている。

 ゆえに、チームのDFに「2部で一番、手ごわかったFWは?」と聞いて名前が挙がったレオナルド・ウジョアをブライトンから獲得。また、カンテをフランスから引き抜いた際にはタックル回数のデータに着目していたという。

 レスターの隠れた移籍フィクサーは、「主観」と「客観」両方の視点をバランス良く兼ね備えているのだ。

Photo: Getty Images

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Profile

寺沢 薫

1984年生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』編集部を経て、2006年からスポーツコメンテイター西岡明彦が代表を務めるスポーツメディア専門集団『フットメディア』に所属。編集、翻訳をメインに『スポーツナビ』や『footballista』『Number』など各媒体に寄稿するかたわら、『J SPORTS』のプレミアリーグ中継製作にも携わった。