「ミーティングはしていないです」の理由。川井健太新監督がコンサドーレで見せたい景色(前編)
Jリーグ新監督のビジョン#3
川井健太監督(北海道コンサドーレ札幌)
2026シーズンのJリーグは、降格がない百年構想リーグという変則レギュレーションの後押しもあり、チャレンジングな監督人事が目立つ。サンフレッチェ広島のバルトシュ・ガウル監督は38歳、ガンバ大阪のイェンス・ヴィッシング監督は37歳とドイツの新世代監督を招聘。トップレベルの指導経験はない藤枝MYFCの槙野智章監督も驚きの人選だった。名古屋グランパスのミハイロ・ペトロヴィッチ監督や北海道コンサドーレ札幌の川井健太監督、横浜FCの須藤大輔監督といった攻撃サッカーを掲げる戦術家も新天地で新たな挑戦を始める。未知の魅力にあふれた新たなサイクルの幕開け――Jリーグ新監督のビジョンに迫る。
第3&4回は、1年半ぶりに現場に復帰した北海道コンサドーレ札幌・川井健太監督の独占インタビュー。前編では監督就任の経緯や「新しいものを生み出す気風がある」という北海道という地域やそこに住む人々に感じたこと、コンサドーレの選手たちとのファーストコンタクトで閃いた直感に従った指導アプローチの変化を明かしてもらった(取材日:1月18日)。
「1年半」空いたワケ。チームスタッフへのこだわり
――川井さんは一昨年の鳥栖時代から1年半、現場から離れていたと思いますが、まずは札幌についてお聞きする前に、このフリーの期間をどう過ごしていたのか。教えてもらえますか?
「最初の1カ月くらいは少し過去を振り返って考えていました。そこで固まったものとしては、やはり次も監督でやるぞ、ということ。そのためにアップデートする部分と、変えてはいけない部分の確認作業をする。1カ月欧州に滞在して試合を見たり、サッカー関係者とお会いしたりする中で整理していました。
ただ、監督でやるぞと言っても、オファーがなければ成立しません。2025年はタイミングが合わずに機会がなく、いつオファーが来るのかはわからないので、その準備をしながらも、また色々なところを回ったりしました。ただ、あまり鼻息荒くオファーを待つと、もたないと思ったんです。だからフットボールに関わりつつも、自分の時間や家族との時間を大切にしながら過ごしていました」
――その間、川井さんの名前はメディアで何度も拝見しましたが、実際にオファーもあったのでは?
「そうですね。お話をいただいたりもしましたが、縁がなかったというか、それは事実としてありました。本当に良い経験でしたね。やっぱり僕は勝つために、良いフットボールを展開したい。そのためには良いスタッフを一緒に連れて行きたいけど、そういうところでは少し噛み合わなかった部分があったのは事実ですね」
――川井さんはきっと、オファーの内容というか受け方にこだわるのではないかと感じていました。
「僕の年齢でキャリアを1年以上空けるのは、なかなかないんですよね。監督ではなくコーチなら、というお話もいただいたんですけど、最初に言った通り、それはこちらがNOでした。監督のオファーを待ち続けた結果、今は北海道コンサドーレ札幌で、信頼しているスタッフと既存のスタッフが協力した体制を作れているので、良かったなと思います」
――まさにこれから札幌のオファーを受けた決め手について伺おうと思っていました。ヘッドコーチに菊地直哉さん、コーチに小川佳純さんと、鳥栖時代の顔ぶれが復活しています。ここは川井さん自身、こだわりが強かった部分ですか?
「強いですね。もちろん、1人でやれと言われたらやりますが、より良いものを作るためには本当に必要な人材です。僕がやりやすいかどうか以上に、クラブが勝つために必要なことです。これは履き違えてはいけないと思っています」
――彼らがいると、どういう理由でパフォーマンスが上がるのですか?
「監督がすべてを担当することもできるとは思います。おそらく、どの監督も。ただ、それでは一つひとつの領域が薄まってしまう。とりあえず全体を触って、薄く浅く、広く。監督という仕事の広さは変えられないです。例えば、攻撃、守備、セットプレーとシンプルに3つの話でいくと、それら全部に触れなければいけません。その広さは変えられない。でも、その深さ、濃さというところでは、その分野専門のコーチを置いた方が良いということです。
そこでの役割分担はしっかりと責任者である僕が要求し、与えます。最後の決断者は僕ですよ、という仕組みを作る。僕が今、監督をするのであれば、それが一番選手の能力を発揮できて、チームとしても勝つ確率が高いと考えているので、妥協せずにそういう体制を作りました。その発想はずっと変わらないですね」
――最初にスタッフ陣を見た時、欧州っぽいなと感じました。監督とスタッフが一緒に移動し、チーム川井として仕事を受けるのは、欧州では一般的だと思うので。
「そうですね。ただ、今はファミリーとして動いていますけど、やはり循環はしていくでしょうし、菊地や小川には監督のオファーが他から来たら、行けばいいと言っています。いつまでも僕の下で一緒にやるような感覚ではなく、いずれライバルになると思うんです。ただ、今は力を貸してほしいと。この点はやはりクラブに感謝ですね。クラブがファミリーを認めてくれなければ、NOでしたし、今回は北海道コンサドーレ札幌と、その部分で意見が一致したので良かったです」
北海道は「新しいものを生み出す気風がある」
――そのオファーについて、クラブとの話し合いで覚えていることはありますか?
「最初の時点で、まず北海道に招待してもらったんですよ。今の河合GM、竹林強化部長など皆さんに出迎えていただき、さらに石水社長自らプレゼンをしていただいたんですね。コンサドーレはこういうチームで、僕にオファーを出すのはこういう理由です、と。まずその熱量というものが、非常に好感を持てましたし、その時点ではまだ決断していなかったのですが、このチームは本当に色々なものを変えたいんだなと、思いました。
あとは1人の人間として、北海道という文化にも興味を持っています。実は昨年の9月に一度、プライベートで北海道へ来たんですよ。さっぽろオータムフェスタというお店がたくさん並ぶ素晴らしいイベントがあって、それを楽しみに、完全プライベートで行ったんですけど、人も良くて、雰囲気も良くて、小樽にも行ったけどそこも素晴らしくて。そういう意味では北海道の文化に興味があって決めたというのもあります」
――以前、鳥栖で監督に就任した時、コンビニの店員さんの対応から、九州人の気骨のようなものを感じたと話していましたよね。まだ札幌で過ごした時間は短いかもしれませんが、すでに北海道人の気質を感じるようなことはありますか?
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Profile
清水 英斗
サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』『日本サッカーを強くする観戦力 決定力は誤解されている』『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。
