「選手一人ひとりの幅が広がる」ミシャ式の伝道者、高嶺朋樹が名古屋で背負う信頼と期待
【特集】愛弟子が語る監督論#5
複数のクラブで同じ監督の下でプレーする選手がいる。俗に「愛弟子」と呼ばれる存在だ。なぜ彼らは、指導者が変わってもその背中を追い続けるのか。そして、なぜ監督は彼らを再び必要とするのか。本特集では、愛弟子だからこそ見えた別角度から、指導者という仕事の本質に迫る。
第5回では、北海道コンサドーレ札幌時代に共闘したミハイロ・ペトロヴィッチ新監督と今冬、名古屋グランパスで再会を果たした高嶺朋樹をピックアップ。「選手一人ひとりの幅が広がる」ミシャ式の伝道者が新天地で早くも体現する「頼もしさ」とは?
誰に聞いても「特殊」なミシャ式の“ピッチ上の監督”として
新加入、しかも形としては半年間の期限付き移籍にもかかわらず、その存在感はもはや絶対不可欠のものがある。戦術の浸透に時間がかかると言われるミハイロ・ペトロヴィッチ監督を迎えた名古屋グランパスにとって、共闘経験がある選手が重宝されるのは当然のことで、例えば北海道コンサドーレ札幌でその才能を見出された浅野雄也も今季始動前に「札幌の時と同じような感じでやっていくから、お前からもチームにいろいろ還元してやってほしい」と連絡を受けている。他にも森保一監督時代の広島でプレーした稲垣祥や野上結貴らは「ポイチさんがミシャのやっていたことを、攻撃の部分ではほとんどやっていた。それを引き継いだ感じで」(野上)と高い理解度を示し、現体制でも主力の位置を占めている。誰に聞いても「特殊」と答えるいわゆる“ミシャ式”は、それを知っている選手にアドバンテージがある戦い方であり、高嶺朋樹は新戦力というよりはむしろ“教官”のような役回りも期待されての名古屋加入だった。
「最初は特にやり方の部分だったりで分からない選手がいますし、そこは自分が率先して教えていけることは多くあると思うし、後ろのビルドアップのところだったり、前の選手の動き方だったり。そういうのは自分のプレーの中でも、やったことのあるプレーヤーとしての役割はある」
名古屋での第一声からしてすでに高嶺は先生役を自認していた。さらにミシャ式の肝はと問われて、立て板に水でスラスラと答える。
「守備に関して言えば、やっぱり一人ひとりの対人能力っていうのは確実に必要になってくると思いますね。攻撃のことを言えば、キーパー含めた後ろからのビルドアップと、展開を大きく変えるサイドチェンジと、あとサイドの1対1の能力っていうのは必要になってくると思う。結局は全員なんですけど、チームの中で連動すること、特に2シャドーと1トップのところのコミュニケーションは、たぶん監督が口酸っぱく言うところだとは思います」
始動日に聞いたこの台詞から約2カ月。我われはその言葉通りの指導風景を目の当たりにしている。そしてその指導を形にするためのお手本役として、高嶺や浅野は重用されてきた。始動直後からキャンプの中盤ぐらいまで、高嶺は本来のボランチではなく3バックの左で起用されることが多く、それは札幌でも経験済みのポジションである以上に、攻撃のスタート地点である最終ラインで求められることを体現する存在として、つまりロールモデルとしての起用だった。同じ理由で浅野は本来のシャドーではなくウイングバックで、稲垣もしばしば3バック中央で使われ、お手本としての役割を拝命している。チーム全体の理解度が上がってきた現在はそれぞれ本来のポジションでの起用が固定化されているが、始動から最も頼りにされていたのは、間違いなく高嶺だった。今でも練習の前後には、彼を捕まえて個別に話をするミシャ監督の姿がよく見られる。その意味では高嶺は、比喩的な意味合いを超えての“ピッチ上の監督”としての役割を担っているのかもしれない。
「背中で引っ張る」を地で行く、練習へのこだわりの強さ
加えて高嶺の得難い才能あるいは本質と言っていいものが、新体制のトレーニングの質を引き上げた。始動直後から高嶺は積極的にチームメイトに練習メニューの意図を説明し、「緩いぞ!」と雰囲気を引き締めるような声を出し、ゲーム形式では「そのボールは出すな!」と指導に近い指示も送っている。それは前述した監督からの要求が理由でもあるが、それ以上に自身の性分から来るものだと彼は言う。「普通に練習で手を抜きたくない。そういうのはしたくないです、絶対に」。沖縄キャンプでは練習を効率的に回すためかゲーム形式にフル出場することがほとんどで、インターバルごとにへたりこむ姿が日常茶飯事だった。「背中で引っ張る」という表現があるが、それを地で行くのが高嶺という男である。
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Profile
今井 雄一朗
1979年生まれ、雑誌「ぴあ中部版」編集スポーツ担当を経て2015年にフリーランスに。以来、名古屋グランパスの取材を中心に活動し、タグマ!「赤鯱新報」を中心にグランパスの情報を発信する日々。
