「技術を捨てた国は勝てない」――FIGCの頭脳が語る“平均化の正体”(前編)
【特集】イタリア代表はなぜ、弱くなったのか?#6
W杯4度の優勝を誇るイタリアが、2大会連続で出場できず、北中米W杯予選でも再びプレーオフに回ることになった。だが、より深刻なのは結果そのものではない。バッジョ、トッティ、デル・ピエーロといった天才を輩出してきた「タレント大国」から、世界を驚かせる選手がほとんど生まれなくなっているという事実だ。少子化、外国人枠、若手の出場機会減――説明は出尽くした。しかし、どれも決定打にはなっていない。本特集では、成功している国ではなく、失敗している国の内側にこそ学ぶべきものがあるという視点から、イタリアサッカーが直面している問題点を検証する。
第6、7回はイタリアサッカー連盟(FIGC)の育成責任者、マウリツィオ・ビシディへのロングインタビュー。年代別代表は結果を出している。それでもA代表は停滞する。なぜ“勝つ世代”が“残る世代”にならないのか。彼が指摘するのは、戦術偏重と技術軽視、そして育成がトップチームを模倣してしまった構造的歪みだった。
勝つ世代は、本当に上へ届くのか
――前回話を聞いたのは2024年12月ですから、1年ちょっと前でした。イタリアの育成年代サッカーの状況、問題、そして展望について様々な視点から掘り下げました。今日はそれをアップデートしつつ、いくつかの論点を掘り下げて行ければと思っています。まず、近年のイタリア育成年代代表についてですが、U-17、U-19、U-20のレベルでは素晴らしい結果を残しつつある一方、その上のU-21、そしてとりわけA代表では停滞が続いています。年代別では優秀な結果を残した選手が、20歳を過ぎてより重要なレベルで台頭しないとしたら、それは何を意味するのでしょうか。
「その流れはもうすぐ逆転するだろうと思っている。つまり近いうちに私たちはU-21、そしてA代表でいい結果を出し、下のカテゴリーでは少し苦戦するようになるだろう。ここ2~3年U-17、U-19代表で結果を出してきた選手たちは、U-21でも結果を出せるクオリティを持っている。ただ、それ以上に大事なのは、彼らがクラブで活躍しているかどうかの方だ。DFでは右のパレストラがカリアリ、左のバルテザーギがミランで試合に出ており、CBペアはコムッツォ(フィオレンティーナ)とキアロディア(ボルシアMG)だ。中盤もピジッリ(ローマ)、エンドゥール(フィオレンティーナ)が出場時間を増やしている。下のカテゴリーで得たポジティブな結果は、徐々に上のカテゴリーにも到達しつつある。私がむしろ心配しているのは、2009年、10年以降に生まれた若い世代についてだよ」
――CLのドルトムント対アタランタでは、サッスオーロから引き抜かれたCBのレッジャーニ(2008年生まれ)がドルトムントで先発していましたね。
「ああ。彼は11月のU-17W杯でキャプテンを務めた。彼の世代にも同じドルトムントのサムエレ・イナシオをはじめ、いい選手は多い。それと比べるとその次の世代はやや見劣りする」
技術より戦術を選んだクラブ
――今19歳から21歳の彼らには、それ以前の世代と比べてどんな違いがありますか?
「彼らはU-15から継続的に代表でプレーし、私たちと多くの国際試合を重ねて、多くの経験、多くの成功を積み重ねて自信を高めてきた。代表でたくさんの試合をこなしたことでグループとしても結束し、強いチームになった。育成年代の5~6年を通じて1つのプロセスを辿ってきたから、U-21でもそれを示し、A代表でも重要な戦力になっていくと信じている。彼らの世代には明るい未来を見ているよ。ただ、それ以降の世代は事情が異なる。クラブのレベルで、育成年代前期においても技術よりも戦術に重きを置いて目先の勝利を追求する傾向がさらに強まっているからだ。彼らの年代にしては試合が多過ぎ、トレーニングが少なすぎる。だからより下の世代では物事があまりうまく進んでいないと感じている」
――育成年代前期では、早熟な選手、早生まれの選手ばかりが選ばれている、クラブはこの年代ですら目先の結果を求めるので、その年齢層の中で今すでに準備ができている選手を優先して、将来性に目を向けようとしていない、という話も聞きました。
「それも事実だ。それに、クラブの経営的側面も急速に変化してきている。イタリアでは重要なクラブの多くに外国資本が入ってきた。外国人オーナーは育成への関心が低く、特にイタリア人選手の育成は優先事項ではない。いくつかのクラブでは育成部門への投資が少し減ってきている」
――例えばどのクラブ?
「いや、名前を挙げるのは控えておくが、投資が減っているクラブがあるのは事実だ。これはFIGCとして私たちが向き合うべき問題だと思っている。もう1つの大きな問題はトレーニングの内容だ。多くのクラブの育成部門で、戦術的なトレーニングが増える一方で、技術トレーニングに割く時間が減っている。その結果、基本的な能力に欠陥がある選手が生まれている。パスを回すのは上手いが、局面を打開する、目の前の敵を抜き去る、デュエルに勝つ能力が低い。試合を決定づけるようなプレーができない選手が多くなっている」
「発見させる」だけでは足りない
――トレーニングに関しては近年、新しいメソッドや理論が広まってきていますよね。エコロジカル・アプローチのように、教えたり従わせたりするのではなく、自由にプレーしながら自ら発見する環境を与えるというような。こうしたメソッドはイタリアの育成現場にも入ってきているのでしょうか。
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Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。
