半年で下部リーグの脇役からアストンビラの主役に。24-25のサプライズ候補、モーガン・ロジャーズが覚醒した理由
2大会連続となるEURO準優勝を受けてガレス・サウスゲイト前監督が退き、リー・カーズリー暫定監督の下で北米W杯に向けて再スタートを切ったイングランド。その“スリーライオンズ”への招集待望論が巻き起こっている1人こそ、U-21代表MFのモーガン・ロジャーズだ。わずか半年で下部リーグの脇役からアストンビラの主役へと成り上がるまでに至った覚醒の理由を探ってみよう。
2024-25シーズンのプレミアリーグ第2節、CL出場チーム同士の一戦となったアストンビラ対アーセナルの好カードは、昨季にシーズンダブルを喫したアウェイチームが2-0の勝利を収めた。
試合後には多くのメディアで決勝点を決めたアーセナルFWレアンドロ・トロサールが取り上げられたが、それ以上に反響が大きかったのは、アストンビラMFモーガン・ロジャーズのパフォーマンスである。
この22歳のアタッカーは自慢の推進力からチャンスを作り出し、トーマス・パーティとデクラン・ライスという2人の強靭な中盤相手に何度もドリブルで突破。特にトーマスをフィジカルで引きずり倒した61分のシーンは、多くの人が思わず声に出して驚いたのではないだろうか。
試合後に『Sky Sports』では「アストンビラのモーガン・ロジャーズはジュード・ベリンガムのようになれるのか?」と題して、元イングランド代表MFジェイミー・レドナップとアストンビラOBのリー・ヘンドリーが分析する特集が組まれた。
そこでレドナップは先述したトーマスを引きずり倒すシーンを見て、ラグビーの元ニュージーランド代表であるジョナ・ロムーの全盛期にたとえてロジャーズを賞賛。“暴走機関車”の異名を持つロムーは、何人もの相手選手にタックルを受けながらも強引に前進していくパワフルなプレーで知られていた。
そんなラグビー界のレジェンドを彷彿とさせるロジャーズは、他にも『NBC Sports』や『talkSPORT』、『The Athletic』、『The Guardian』など、あらゆるメディアに取り上げられる。彼は半年前までチャンピオンシップでプレーしていたこともあって、日本での知名度も高くはなかったが、アーセナル戦をキッカケに認知度が一気に広がった。
誰も1年前に彼がアーセナル戦で大活躍するとは予想していなかっただろう。というのも、彼のブレイクはかなり珍しいケースなのだ。
過去にチャンピオンシップからプレミアリーグのクラブへとステップアップして名を揚げた例は何例もある。同僚のオリー・ワトキンスやクリスタル・パレスのエレベチ・エゼ、バイエルン・ミュンヘンのマイケル・オリーセがその代表例だ。彼らは2部で「敵なし」とも言えるほど圧倒的な結果を残し、それゆえの個人昇格だった。
しかしロジャーズは彼らとは違い、チャンピオンシップで通算61試合4ゴール8アシストと結果を残せていない。2023年夏に、マンチェスター・シティからミドルズブラに移籍した際の移籍金もわずか「100万ポンド」だった。そのミドルズブラでも絶対的なレギュラーというわけではなく、半年間の在籍でリーグ戦のスタメンを飾ったのは28試合のうち半分の14試合しかない。
たった半年前まで2部でも絶対的な選手ではなかった男がなぜ、アーセナルのようなトップレベルの相手に圧巻のパフォーマンスを披露することができたのだろうか。彼のこれまでのキャリアを振り返りつつ、「覚醒」の理由について考察する。
シティから引き抜かれるも…器用すぎるがゆえの伸び悩み
ロジャーズのことを「チャンピオンシップで絶対的な活躍ができなかった」と紹介したが、もともとは世代別のトップタレントとして期待されていた。
8歳から育成に定評のあるウェストブロムのアカデミーで育った彼は、16歳でトップチームデビューを飾ると、2019年夏にマンチェスター・シティに400万ポンドの移籍金で引き抜かれた。獲得に至った決定打となったのが2018-19シーズンのFAユースカップでのパフォーマンスだとされている。ロジャーズはウェストブロムU-18の一員としてマンチェスター・シティU-18との準決勝に臨み、得点にこそ絡まなかったが、スタンドで観戦していたジョセップ・グアルディオラやミケル・アルテタら関係者を驚かせる活躍を見せたのだった。
その数カ月後にマンチェスター・シティの一員となると、同い年のコール・パーマーとともに若くしてグアルディオラ監督率いるトップチームのトレーニングにも参加。将来的な戦力として期待され、加入から1年半後からは下部リーグのクラブへのローン移籍で経験を積んだ。
しかし、ローン先であまり結果を残すことができなかったこともあり、マンチェスター・シティのトップチームで試合に出場することは叶わなかった。初の貸し出し先となった当時リーグ1に所属していたリンカーン・シティ(2020-21)ではチームを昇格プレーオフ進出に導く活躍を披露したが、ボーンマス(2021-22)、ブラックプール(2022-23)とチャンピオンシップのクラブではそれぞれ1ゴールにとどまった。
この頃のロジャーズは、それまで中心的な存在だった年代別代表にも2021年以降は遠ざかるなど伸び悩んでいた。というのも、器用すぎるがゆえに「適正ポジションがわからない」選手となっていたのだ。……
Profile
安 洋一郎
1998年生まれ、東京都出身。高校2年生の頃から『MILKサッカーアカデミー』の佐藤祐一が運営する『株式会社Lifepicture』で、サッカーのデータ分析や記事制作に従事。大学卒業と同時に独立してフリーランスのライターとして活動する。中学生の頃よりアストン・ヴィラを応援しており、クラブ公式サポーターズクラブ『AVFC Japan』を複数名で運営。プレミアリーグからEFLまでイングランドのフットボールを幅広く追っている。