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監督6人誕生の迷走劇で英3部降格…なのにお祭り騒ぎ!?(前編)バーミンガムサポーターがそれでも前を向く理由

2024.05.21

レスターの優勝でレギュラーシーズンを終え、2位イプスウィッチに続く昇格枠1つを3位リーズと4位サウサンプトンがプレーオフ決勝で争うチャンピオンシップ。そんな上位勢の陰で涙を呑んだのが、6人もの監督に率いられながらも残留に一歩及ばなかった22位バーミンガム・シティだ。サポーターは3部降格にさぞ打ちひしがれているであろう……と思いきや最終節後に即パーティーへ繰り出すほど希望に満ちあふれている理由を、現地で同クラブを応援してきたEFLから見るフットボール氏に前後編に分けて教えてもらおう。

 5月4日の15時過ぎ。暫定での就任を合わせて実に6人もの監督が指揮を執り、ひと時たりとも休むことなくピッチ内外で話題を振りまき続けたシーズンの果てに、バーミンガム・シティの公式X(旧Twitter)アカウントのプロフィール文が密かに変更されたことに気付く人は少なかった。

 “Birmingham. On the Rise Again.”(バーミンガムは再び立ち上がる)

 昨夏の新オーナー就任以降、このクラブを待つ輝かしい未来を指し示すキーワードとして様々な場面で用いられてきたこの言葉が、この時ばかりはプロフィールに相応しいものではなくなってしまった。1994年以来、ちょうど30年ぶりとなる3部への降格。ホームでの最終節で5位ノリッチを1-0で破ったのにもかかわらず、残留を争うライバルたちもすべて同時刻に白星をつかんでいたのだ。

 試合後の景色は実に奇妙なものだった。降格という結果には到底似もつかず、スタンドから轟いたブーイングは消え入るような声量。それどころか主に若者たちからなる3分の1程度の観客は何の意味もなくピッチに乱入し、その中で40ヤード付近から見事フリーキックを決めてみせた青年の動画はソーシャルメディア上で広く拡散された。

「降格したけど俺たちのユーモアのセンスは残ったままだ」という自虐とともに投稿されたフリーキック弾の映像

 そこには絶望感など、微塵もなかった。

 壊れたレコードのように「ルーニーのせい」、「フロントのせい」などと外野が訳知り顔で繰り返す中にあっても、大多数のバーミンガムサポーターの見解は決して揺るがない。「このオーナーの下でなら、この壮大なプロジェクトの下でなら、バーミンガムは絶対に立ち上がれる(On the Rise)」。本拠セント・アンドリュース近くのパブで試合後すぐに始まったのは、盛大な“Relegation Party”(降格パーティー)だった。

動画:著者提供

三好も褒めて伸ばす“トニーおじさん”が一時確信をもたらしたが…

 今シーズンのバーミンガムの状況については、すでに『新オーナー到来で狂喜乱舞。好発進バーミンガムで「プロジェクト」の旗を振る三好康児の現在地』『連勝で上位浮上も監督交代のバーミンガム。未知数のルーニー招へいでも揺るがぬ新オーナーへの信頼』『「No Fear Football」は83日で幻に…現地サポーターと読むバーミンガムのルーニー“監督”解任劇』の記事3本で執筆してきた通り。最初は9月、シーズン開幕当初の戦いぶりを綴ったもの。2本目は昨年10月、ウェイン・ルーニーの監督就任について書いたもの。そして3本目は今年1月、その解任について論じたもの。そのためそれ以降、すなわち今年に入ってからの歩みから話を進める。

 暫定監督のスティーブ・スプーナーを挟んでルーニーの後任としてクラブにやってきたのは、昨年12月にサンダーランドから解任されたばかりの60歳、トニー・モウブレイだった。業界屈指の人格者として知られるだけでなく、その20年以上にも渡る監督キャリアの中で攻撃的なスタイルを構築する手腕、そして選手を次のレベルへと引き上げる指導力をこれでもかと証明し続けてきた彼は、まさしく当時クラブが置かれた奇妙な状況を解決する上での適任者に思われた。

 それは正しかった。前任者がテレビ画面の中で「ファンからのサポートを得られなかったことが失敗した理由」などと嘯き再就職へのPR活動を進めていた最中、モウブレイはまず就任早々の記者会見でスタジアム内で提供される食べ物の質について語ることでサポーターとの信頼関係を即座に築き、その前の2カ月半の間に監督からこき下ろされ続けた選手たちにも上司としてではなく1人の人間として対話を試みることで、このクラブから急速に失われてしまっていた人間的な温かさを取り戻そうとした。初陣がキックオフされる前から、ファンは彼の虜になっていた。

 時としてチーム内で最もテクニカルな選手であるシリキ・デンベレやジュニーニョ・バクーナに優しくワークレートの重要性を説く一方で、就任早々に「とてもインテリジェントな選手」「右サイドがベストだと思う」などと短期間で2度も名指しで称賛された三好康児を中心として、モウブレイは基本的に選手を褒め称えて “Uncle Tony”(トニーおじさん) と呼ばれる所以たる観察眼と求心力を存分に発揮した。FAカップ3、4回戦を含めた着任後8試合の成績は4勝1分3敗。特に2月中旬、ホームで迎えたモウブレイにとっての古巣対決2連戦でブラックバーン(この時すでにジョン・ユースティスが新監督に就任していた)とサンダーランドに連勝した後には15位に浮上し、この時はもう誰もが今季は安泰だと確信していた。

サンダーランド戦でコーチングエリアから両手を広げて指示を出すモウブレイ監督

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Profile

EFLから見るフットボール

1996年生まれ。高校時代にEFL(英2、3、4部)についての発信活動を開始し、社会学的な視点やUnderlying Dataを用いた独自の角度を意識しながら、「世界最高の下部リーグ」と信じるEFLの幅広い魅力を伝えるべく執筆を行う。小学5年生からのバーミンガムファンで、2023-24シーズンには1年間現地に移住しカップ戦も含めた全試合観戦を達成し、クラブが選ぶ同季の年間最優秀サポーター賞を受賞した。X:@Japanesethe72

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