SPECIAL

昇格の瞬間。泣き崩れたマネージャーの脳裏に浮かんだのは歴史を紡いできた人々への想いだった。FC町田ゼルビア・渡辺直也チーフマネージャーインタビュー(後編)

2024.03.01

今シーズンから初めてのJ1を戦う航海に漕ぎ出すFC町田ゼルビア。このクラブには、まだ専用練習場を持つことができず、借りているグラウンドの近くの“一軒家”で選手が着替えていた時代を知るスタッフがいる。渡辺直也チーフマネージャー。44歳。もともとはスカパー!でデータマンをやっていた男は、その想いを断ち切ることができず、気付けばサッカーがより身近にある現場へと身を投じていた。後編ではゼルビアで過ごしてきた“約10年間”の思い出と、苦難の歴史を知るマネージャーがこのクラブにいる意味を、渡辺にじっくりと伺った。

←中編へ

Jリーガーたちは2階建ての一軒家で着替えていた!

――渡辺さんは2014年にゼルビアへマネージャーとして入られていますが、当時のクラブを取り巻く環境はいかがでしたか?

 「少し間は空いていますけど、ヴェルディからゼルビアに行ったので、ビックリすることが多かったです。ヴェルディには歴史も長いよみうりランドという場所がありましたけど、当時のゼルビアは専用の練習場もない、クラブハウスもない状況でしたからね。当時はJ3に在籍していた頃でしたけど、結構な衝撃を受けました。

 その頃は小野路公園の人工芝のグラウンドで練習していたんですけど、坂の登り口にお蕎麦屋さんがあるじゃないですか。そこの3件ぐらい隣の一軒家に、朝はみんなで集まるんです。クラブがそこを借りていたんでしょうね。2階建ての一軒家にみんな集合して、そこで着替えて、坂を上ってグラウンドに行くと。終わったらその家に戻ってシャワーを浴びるんですけど、普通の家のお風呂ですからね。そこに若い選手がキャッキャッ言いながら、2人一緒に入ったりするんですよ。『何だ、この世界は……』『これがJリーグのクラブ?』って(笑)」

――ああ、スタッフだけではなくて選手もその一軒家に集まるんですね。

 「そうですよ。2階の一部屋が監督とコーチの部屋で、テーブルと椅子はありましたけど、荷物も置けないような狭さでしたね。ゼルビアに行く時にも、ヴェルディの時に対戦はしていたので、街のイメージはないですけど、J2にいたチームというイメージだったので、その環境は衝撃的でした。『凄いところに来たな……』と。

 でも、引き受けたからにはやらなきゃいけないですからね。スタッフはほぼ全員“はじめまして”の方々で、選手はヴェルディで一緒だった深津康太と、大学生の時にヴェルディに練習参加で来ていた平智広以外は知らないような状況でした。そもそもシーズンインして、キャンプが終わったぐらいから来ていたので、『認めてもらおう』と思って頑張っていました。

 確か最初の遠征が盛岡だったんですよ。その時にチームは新幹線で移動していたんですけど、僕は『前日にチームトラックの助手席に乗って行ってください』と言われて、『え?そんなことあるの?チームと一緒じゃなくていいの?』って(笑)。ヴェルディではそれが当たり前だったので、最初はちょっとビックリしましたけど、別に嫌ではなかったので『わかりました』と」

――その時のマネージャーは1人だったんですか?

 「いえ、2人だったんですけど、もう1人は遠征に行かない残り組の選手の練習に立ち会わなくてはいけないのと、経費の問題もあったと思います。そこで衝撃は受けましたけど、受け入れて、大型トラックの運転はできないので、助手席に座っているだけで、運転手の方の眠気覚ましになればいいなぐらいの感じでたまに喋ったりして(笑)。

 それでホテルに着いて、荷物を下ろして、チームの選手とスタッフが来るのを待つと。そこからは先ほど話した前泊の流れから、試合に行って、終わったらまたトラックで一緒に帰りました。たぶんチームの方は丸山さん(丸山竜平・強化部スカウト担当)が帯同して見ていたんじゃないですかね。強化部長でしたけど、そもそも強化部自体が丸山さんしかいなかったですし、丸山さんが羽田までマイクロバスを運転して、選手を送り届けていたこともありましたよ」

――凄い世界の話ですね。

 「初めてJ3に参戦するクラブならまだわかりますけど、J2にいたクラブなので、それは『ああ、凄いなあ』と思いましたね。その時のJ3はチーム数が少なかったので、リーグ戦も3巡だったんですよね。試合数は少なかったですけど、遠征の思い出は強烈でした。一番遠い遠征先は琉球でしたね。その時だけ飛行機に乗って、秋田と鳥取にはトラックに乗って行きましたけど、さすがに遠くて、中間地点ぐらいで運転手さんとホテルに泊まりましたよ(笑)」

――1日じゃ着かないんですね(笑)。……

残り:14,388文字/全文:16,277文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

TAG

FC町田ゼルビア

Profile

土屋 雅史

1979年8月18日生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社。学生時代からヘビーな視聴者だった「Foot!」ではAD、ディレクター、プロデューサーとすべてを経験。2021年からフリーランスとして活動中。昔は現場、TV中継含めて年間1000試合ぐらい見ていたこともありました。サッカー大好き!

RANKING