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メイヌー、ラッシュフォードらを発掘。マンチェスターUの地域密着型アカデミースカウティング

2024.02.07

主砲のマーカス・ラッシュフォードから最新作のコビー・メイヌーまで、下部組織からトップチームに安定して選手を輩出しているマンチェスター・ユナイテッド。彼らを発掘したアカデミースカウティングの秘密を、現地イングランドで活動したスカウトの田丸雄己氏に解説してもらった。

過去10年の下部組織出身者売却益は約280億円!

 コビー・メイヌー。ストックポート生まれの18歳。ファーストチームデビューを飾ったのは2022-23シーズンのカラバオカップ準々決勝チャールトン戦(2023年1月10日)だったが、プレミアリーグで初のスタメン入りを果たしたのは翌季の第13節、エバートン戦(2023年11月26日)でのことだった。

 直近5戦3勝1分1敗と調子を上げていた敵軍の本拠グディソンパークは、決してユースから上がりたての18歳を暖かく迎える雰囲気ではなかった。そんな殺気だったアウェイゲームでも動じないメイヌーは、中盤深めのポジションでCBからボールを引き出すとセンターサークル近くまでボールを運び、機を見てスルーパスを差し込んでいく。守備に転じればサイドまで流れてカバーリングすると、ゴールラインクリアまで披露した。

 その後も[4-2-3-1]のダブルボランチにレギュラーとして定着したワンダーキッドは、第22節ウォルバーハンプトン戦でリーグ戦初ゴールを記録。それも試合終了間際のアディショナルタイムに3-4の打ち合いを制す劇的決勝弾だった。敵陣左ハーフスペースでリターンを受けると、得意の小気味良いボールタッチで3人をかわして右サイドネットにコントロールショットを流し込んだ。

 こうしてチームが苦戦する中で希望の星となりつつあるメイヌー以外にも、マンチェスター・ユナイテッドは下部組織からタレントを輩出し続けている。現在同じくトップチームに在籍しているエースのマーカス・ラッシュフォードやスーパーサブのスコット・マクトミネイもいわゆる生え抜きだ。彼ら以外にも『CIES Observatory』のレポートによれば、現在欧州5大リーグでプレーするアカデミー出身者(15歳から21歳までの間に最低3年在籍している選手)の数は26人と世界6番目で、イングランド勢ではトップ。過去10年間で下部組織から生み出した移籍金収入は日本円にして約280億円で、売却数の27人から平均すると1人あたり約10.3億円にも上る。

 そんなイングランドを代表するビッグクラブのアカデミースカウティングを紹介するにあたり、筆者はクラブスカウト、その周辺クラブのアカデミースカウトを含め関係者6人に取材。ユナイテッドの独自取り組みやアカデミー全体のトレンドが明らかになった。

イギリス南部全域もカバー。80人強のスカウト体制

 まずは把握できた範囲で、その組織構造を紹介する。少なくとも以下の10人はフルタイム雇用されているようだ。

ルーク・フェドレンコ/ヘッドオブアカデミーリクルートメント
カラム・タン/ヘッドオブローカルリクルートメント
ベン・クラーク/アカデミーリードスカウト
スティーブン・アジェヲレ/リードフェーズスカウト(U-17~20担当)
コナー・ハンター/リードフェーズスカウト(U-13~16担当)
スティーブン・ティアニー/リードフェーズスカウト(U-9~14担当)
フィン・オーレアリー/アシスタントリードフェーズスカウト(U-9~14担当) 
ベン・クラーク/プレアカデミーリードスカウト(U-6~8担当)
ジャマール・ジャレット/サウスエリアリードスカウト
ベン・マクファーレン/アカデミーテクニカルスカウト

 頂点に位置するのがフェドレンコ。このヘッドオブアカデミーリクルートメントがアカデミースカウトチーム全体を束ねている。補佐役としてタンとクラークが構え、彼らの下では6歳から20歳までの年代を分類して、各年代にリードスカウトという責任者を配置している。ちなみにユナイテッドのアカデミーはU-9からスタートするため、最年少グループよりも前の世代であるU-6~8のスカウティングはプレアカデミーと呼ばれ、そのリードスカウトはクラークが担当している。

 年代に加えて存在するのがエリアだ。それぞれの担当地域についてはEPPP(Elite Player Performance Plan)に沿った範囲となる。このレギュレーションでは選手の車での通学可能時間がカテゴリー別で年代毎に定められており、例えば最上位のカテゴリー1に位置づけられているユナイテッドでは、U-9~11は1時間以内、U-12~13は1時間半以内、U-14以上は国内全域、U-18以上で世界全域と、キャッチメントエリア(獲得可能範囲)が決まっている。そのため、U-6~8を担当するクラークは本拠地マンチェスターやその近辺のタレント発掘に力を注ぐが、U-9~14を担当するティアニーとオーレアリーはマンチェスター周辺はもちろんのことU-14に加入する場合を見越した国内全域のスカウティングも担当する。

ユナイテッドの本拠オールドトラッフォードを中心に空撮したマンチェスターの街並み

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Profile

田丸 雄己

1994年生まれ。高校卒業後、イギリスに短期留学した後、Jクラブやサッカーコンサルティング会社での勤務を経験。その後、イギリス、ロンドンにあるセントメアリーズ大学に進学。在学中にチェルシーアカデミーでスカウトのインターンを経験し、現在は英二部ストーク・シティとスコットランド一部マザーウェルでスカウトとして活動中。ロンドンエリア、Jリーグのスカウトを担当している。

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