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「ガンバ大阪の10年後のために何ができるのか」――パナソニックスポーツ・久保田剛社長インタビュー

2023.12.19

2022年4月1日、パナソニックグループはパナソニック スポーツ株式会社を設立し、ガンバ大阪を同社の子会社とすることを発表した。この決定がクラブに与える影響を具体的に把握しているファン・サポーターは少ないだろう。

コロナ禍による収益減を経験し、各Jリーグクラブが経営戦略の在り方をあらためて問われている昨今。“親会社”はガンバ大阪の現状をどのように捉えているのか。そして、パナソニック スポーツの設立によって、クラブへのサポートの在り方は変化するのか。

パナソニックスポーツ社長執行役員・久保田剛氏にインタビューを実施した。

スポーツを事業として成り立たせるためには……

――最初にパナソニック スポーツを設立した経緯を教えていただけますか?

 「ひとつの契機として2019年に日本で開催されたラグビーワールドカップがあります。(埼玉パナソニック)ワイルドナイツから日本代表メンバーに6名が選出されましたが、そうした価値を会社(パナソニック)として活かしきれていないのではないかという議論が当時常務だった片山(栄一)を中心にありました。また、(パナソニック パンサーズが活動する)バレーボール界においても事業化の話があり、各スポーツ界の状況に対して受け身ではなく、主体的にできることをやっていこうとパナソニック スポーツ設立につながっていったものです」

稲垣啓太選手など多くの日本代表選手が在籍するワイルドナイツ

――パナソニックには2020年に「スポーツマネジメント推進室」というスポーツの事業化を目指す組織が立ち上がりました。この組織を母体としてパナソニック スポーツが設立された訳ですが、株式会社化することで各チーム(クラブ)との関係性は変化したのでしょうか?

 「『スポーツマネジメント推進室』は法人化に向けた準備室のような組織で、ワイルドナイツやパンサーズらコーポレートチームを運営する企業スポーツ部門と、『オリンピック・パラリンピック推進本部』の一部メンバーからなるガンバ大阪の事業支援部門で構成されていました。それがパナソニック スポーツとなりました。変化としては、これまで以上に『事業として成り立たせるためにはどうすればいいか』をコンセプトに活動しているということですね。日本のスポーツチームの多くは、母体となっている企業が相当な投資を続けないと継続できないのは事実としてあります。でも、スポーツは価値があるものだと信じています。だから、その価値表現も含めて、手法を編み出していこうと各チームと連携して活動を始めているところです」

パナソニックスポーツ社長執行役員・久保田剛氏

――パナソニックスポーツ設立のタイミングで、ガンバ大阪を子会社化しています。

 「パナソニックにとってガンバ大阪はブランド価値向上を担う側面が強かったですが、パナソニック スポーツの子会社となることで独立したスポーツビジネスの文脈での関係性になります。ただ、勘違いしていただきたくないのは、親会社だからといって(ガンバ大阪に対して)ガバナンスやマネジメントを現場まで踏み込んで直接的に効かせるということではありません。ガンバ大阪は30年前から運営されている会社ですから、これまで培ってきたことを尊重したい。相互的に刺激を与えあって成長できる関係性をイメージしています」

――コロナ禍による経済的なダメージの影響もあり、親会社とJリーグクラブの関係性については、あらためて議論される機会も増えています。

 「結論を先に言えば、Jリーグの30年は良かったと思います。地域のアイデンティティ表現が生まれ、クラブを通じてスポーツそのものの魅力が多くの人に伝わった。ただ、ワープした……という表現が正しいのか分かりませんが、先に仕組みを作ったので、その裏で企業が支えている事実が見にくくなっている側面があります。企業名を外すことが美徳となったことによるひずみが生まれていることもまた事実です」

――今年1月に本田圭佑氏がSNSに投稿した「クラブに企業名を入れられるようにするべき」という意見も話題になりました(※取材日:2023年12月8日)

 「J1リーグで上位の60億~70億という売上は母体となる企業の存在が必要です。そうした現状を考えれば、企業名を出すのはフェアかもしれませんが、そうなるとクラブが地域のものにならない。ガンバ大阪はすでに地域のものであり、サポーターのものですよ。今からクラブ名に企業名を入れるのは考えられないと思います。ただ、企業名を出さない奥ゆかしさも含めて、企業からスポーツに多くの投資がされている事実をもっと知って欲しいという気持ちはあります」

パナソニックスポーツとガンバ大阪は「相互的に刺激を与えあって成長できる関係性」と久保田氏は語る

競技で勝つことが第一義

――パナソニック スポーツの運営はアメリカのスポーツ投資会社である「フェンウェイ・スポーツ・グループ」(以下、FSG)を参考にしていると聞きました。

 「日本には我々のような企業はないので、比較的思考が似ているという点ではFSGを参考にしている部分はあります。今夏にFSGの方々に会いにアメリカに行ってきたのですが、(FSGが所有する)リバプールとレッドソックスを同じノウハウで経営せずに、それぞれの競技を尊重しながら支援する姿勢には共感しました。各チームのノウハウは見える化しつつも、成功例を押し付けるのではなく、参考情報として共有する。効率化を重視することが常に良い結果を生むとは思っていません」

――パナソニック スポーツの運営はMCO(マルチ・クラブ・オーナーシップ)にも近しい部分があるのではないかと見ています。例えば、シティ・フットボール・グループでは、各国にいる営業担当がグループ内の複数クラブを組み合わせて企業にパートナーシップの提案するようなことも行われています。

 「FSGでも同じようなアプローチが行われていると聞きました。パナソニック スポーツでも今後そうした活動を行う可能性はありますが、あくまでニーズがあればの話ですね。例えば、ワイルドナイツのホームタウンは埼玉県で、ガンバ大阪よりも浦和レッズの方が親和性は高い。各企業が必ずしも複数の競技(チーム)で露出が増えることを喜んでくれる訳ではないと考えています」

――リソースの共有という観点で、今後グループ間の人的交流が促進される可能性はあるのでしょうか?

 「それは考えています。これから事業化がより進むであろうパナソニックパンサーズの社員がガンバ大阪で勉強してもらうとか、1回本社(パナソニック スポーツ)の業務経験を積んでもらってチームに戻るとか。ずっと同じ組織にいると考え方がどうしても硬直化してしまうところもあるでしょうから、違う経験をしてもらうという意味もあります」

――「事業化」という言葉が出ましたが、パナソニック スポーツが各チームにアプローチする領域は競技面ではなく、事業面という理解で正しいですか?

 「はい。ただ、『事業化=収益』ではなく、ガンバ大阪であれば、アジア、世界で勝つこと、Jリーグで常に優勝争いに絡むことも含まれています。競技で勝つことが第一義としてあって、それを維持するために収益が必要という考え方です。強くて魅力のあるチームであることが、我々の最大の価値なので。債務超過になるのはダメですが、利益をいくら上げても勝たなければ評価されません。それがスポーツの世界です」

インタビュー中、何度も「競技で勝つこと」の重要性が語られた

長期的な目線での投資

――ここからは対象をガンバ大阪に特化する形でお聞きします。パナソニック スポーツがクラブとのコミュニケーションで意識していることを教えてください。

 「基本スタンスとしては、ガンバ大阪が行っている取組みを尊重した上でサポートすること。クラブ経営はプレッシャーの強いビジネスなので、どうしても目の前のシーズンや試合を重視することになります。投資も勝つための選手人件費が優先される。効果が見えにくいものに関しては(投資に)迷いが出ると思うので、そこは背中を押す。具体的にはグローバル戦略などが、それに該当します」

――2023年2月にはタイ・リーグ チョンブリFCとの提携を締結しました。

 「ガンバ大阪のグローバル展開は遅れてしまっている現状があり、今後は欧州クラブとの連携も検討、調整しています。ただ、付け焼刃で行っても意味がない。マリノスのようなMCOという形式になるかは分かりませんが、サッカー界のトレンドもふまえつつ、10年先まで見据えられる体制を組むことは支援する重点テーマの1つです」

――ガンバ大阪のグローバル戦略を重視するのは、パナソニックがグローバル企業であるという理由もあるのでしょうか?

 「いえ、その考え方はガンバ大阪にとって負担でしかありません。チョンブリとの提携に関しても、ガンバ大阪が重視している『育成』の文脈で適切な相手は誰かなのかを重視して決定されています」

――他に現在想定している長期的な目線での投資対象事業を教えてください。

 「基本的には(クラブの)内発的な考えを重視しつつですが……例えば、万博記念公園駅前の再開発にも注目していますし、女子チームを運営することを検討していいかもしれません。これは私の勝手な希望でもありますが、パナソニックスタジアム内に醸造所を併設するとか、梅田でガンバ大阪に完全に特化したスポーツバーを経営するというアプローチもあっていい。こうしたアイデアを含め、我々はガンバ大阪の10年後のために何ができるのかという視点で考え続けるのが仕事です」

パナソニックスタジアム吹田を活用した事業の開発はクラブの売上増にむけたポイントの1つ

――2021年に実施したインタビュー取材で小野忠史社長(ガンバ大阪)は「(1年での)売上高100億円を目指す」ことを明言されています。過去実績を考えると簡単な目標ではありませんが、お話いただいたような事業が実現すれば可能性が出てくるように感じます。

 「例えばチケット代を大幅に値上げして、入場者数が今以上に増えたとしてもマッチデーインカムの上限はあります。スポンサー収入はパナソニックからの金額も含め、現時点でも相当な額だと考えています。放送権料はこれから大幅に上がる可能性が高いとはいえないでしょうし、100億円はおっしゃる通りまだ距離がある目標で、私としてはアジアや世界で戦うための事業規模の目安と受け止めています。パナソニック スポーツとしては一時的には支出を増やすことになっても、長期的には大きな収益源になる可能性のある事業への投資は重要だと考えています」

――本日はありがとうございました。最後にもう1つだけ質問させてください。昭和を企業スポーツの時代、平成を地域スポーツの時代と捉えた時、令和は何の時代になるとお考えになりますか?

 「綺麗ごとだと言われてしまうかもしれませんが、スポーツを通じた社会課題の解決が重視される時代になっていると思います。スポーツは人を引きつけ、繋ぐ力があります。そうした価値をもう少し可視化して、いわゆる非財務の価値も高める。ガンバの売上高は60億円程度ですが、本当は何百億……いや、何千億の価値があるはず。立派なスタジアムがあって、歴史があって、ファンベースも大きい。もっと輝けるはず。それをステークホルダーの皆さんと考え、表現していく。そういう目線でスポーツ業界に一石を投じたいと考えています」

Takeshi KUBOTA
久保田

1968年生まれ、香川県出身。明治大学政治経済学部卒業。NTT、ソニー系列の広告会社などを経て2010年11月より大宮アルディージャにて取締役事業本部長を歴任。2019年9月にパナソニック株式会社に入社し、2022年4月に設立されたパナソニック スポーツ株式会社代表取締役社長執行役員CEOに就任。趣味は歴史街道歩き、ジョギング。

Photos: Ryo Kubota , Getty Images

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Profile

玉利 剛一

1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。その後、筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。2019年よりフットボリスタ編集部所属。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆を行っている。サポーター目線をコンセプトとしたブログ「ロスタイムは7分です。」も運営。ツイッターID:@7additinaltime

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