ポヤトス監督率いるガンバ大阪は“ファミリー”として戦う――倉田秋が語る「一体感」を生むために必要なこと
2022シーズンは最終節でJ1残留を決める苦しいシーズンとなったガンバ大阪。今シーズンは新監督にダニエル・ポヤトス氏を迎え、巻き返しを狙う。新戦力ではチュニジア代表のイッサム ジェバリや、イスラエル代表のネタ ラヴィを獲得するなど、近年のブラジル、韓国路線から補強方針の変更も見られる。
昨シーズンはキャプテンを務め、フィールドプレーヤーでは藤春廣輝とともにチーム最年長である倉田秋は、そんな新チームをどのように見ているのか。新監督や新戦力の印象、沖縄キャンプでのコミュニケーション、逆襲を誓う2023シーズンへの想いを聞いた。
ポヤトス監督が強調する「我われはファミリー」
――沖縄キャンプも終盤です。現在のコンディションはいかがですか?(取材日:2023年1月30日)
「結構仕上がってきましたね。今年はキャンプ前にしっかり自分の体をつくる時間がありましたし、沖縄に来てからも例年以上に強度の高い練習ができているので。トレーニングマッチも2試合やって、チームとしてもいい感じですよ」
――新監督としてダニエル・ポヤトス氏が就任しました。チームの雰囲気に変化はありますか?
「ダニ(ポヤトス監督)がミーティングで強調しているのは『我われはファミリー』ということ。ガンバは元々選手同士の仲が良いんですけど、そういう監督の影響もあって、新しく加入した選手も自然にチームに溶け込んでますね」
―ここ数年のキャンプは、コロナの影響でコミュニケーションが規制されていましたが、今年は緩和されているみたいですね。
「そうですね。去年はご飯を食べた後は部屋にすぐ戻って、一歩も外には出られないみたいな状況でしたけど、今年はホテル内でも、ピッチでも、コミュニケーションの量はかなり増えていると思います」
――ということは、「倉田塾」(倉田選手による若手に対する筋トレ指導)も開催されているんですか?
「よく知ってますね(笑)。沖縄にはトレーニング器具がないのと、練習の強度が高くて皆疲れているんで、キャンプではやってなくて。大阪に帰ってから、希望する若手選手がいれば教えようかなと思ってます。けど、厳し過ぎるのか、皆すぐ辞めるんですよ(笑)」
――今シーズンのガンバ大阪は、ポヤトス監督(スペイン)をはじめ、イッサム ジェバリ選手(チュニジア)、ネタ ラヴィ選手(イスラエル)が加入して、例年以上に多国籍グループとなります。
「外国籍選手と思わないことが大事じゃないですか。通訳を通して会話することもありますけど、あまり意識せずに、気軽にいじったりもしながら。そっちの方が相手も楽やと思うし。アラーノやダワンは日本語を理解しているし、ジェバリも英語なので。特にジェバリとはこのキャンプでよくコミュニケーションをとっているんですよ。僕は英語を喋れないので、雰囲気で(笑)」
――クラブの公式YouTubeではジェバリ選手が器用にお箸を使って寿司を食べる様子が配信されていたり、自身のSNSでお好み焼きを食べている写真が投稿されていたり、日本に馴染もうとしている姿勢が見られます。
「見た目がワイルドなので、最初は怖い奴かなと思ったんですけど、実際は明るくフレンドリーなタイプで。ジェバリからもよく話しかけてくれるし、人間的にも素晴らしいですよ」
ベクトルを自分に向ける。それができれば……
――始動から約3週間が経ちました。“ポヤトスサッカー”の印象を教えてください。
「昨年と比較すると、チームとしての決まりごとは多いかもしれないですね。(ポヤトス監督と)話していても頭の中に戦術の引き出しがいっぱいある感じがします。キャンプでは考えるのではなく、自然に体が動くようになる練習を繰り返していて。現時点では30~40%くらいの完成度だと思いますけど、ダニは『疑問に思ったことは何でも聞いてくれ』というタイプの監督。選手とのコミュニケーションも多いので、徐々にチームが連動するようになっています」
――片野坂知宏監督、松田浩監督、ポヤトス監督……それぞれに志向するサッカーは違うので、短期間で戦術(監督)が変わり続ける難しさもあると思います。
「シーズン途中で監督が変わる難しさと比べると、キャンプから新しいサッカーに挑戦できるのは新鮮さもあって楽しいですよ。ダニの戦術を全員が完全に理解するには多少時間がかかるかもしれないですけど、沖縄での試合でも『練習でやった、あの場面や』というシーンがでてきたので、僕としては試合に直結する練習ができていると感じられていることは大きいですね」
――監督が変わって戦術が変わる一方で、昨シーズンから蓄積されているものもありますか?
「厳しい残留争いを戦い抜いたチームワークと、守備面で選手個々が高い強度でプレーできることですね。ダニは攻撃が好きな監督なので、昨シーズン後半の守備の強度をベースに、今トライしている攻撃の戦術を上乗せできれば良いチームになると思います」
――倉田選手はよく「チームワーク」や「一体感」の重要性について言及されています。
「レギュラーの11人や、ベンチ入りメンバーの18人は監督が決めること。僕自身が心掛けていることなんですけど、ベクトルを自分に向ける。それができれば、自然に一体感が生まれて、常勝軍団になれる。『アイツがいるから試合に出られない』とか、そういう考えを皆の中から消したくて、周りにも伝え続けています。どんな状況でも毎日1秒1秒を大切にして、全力で練習に取り組む。それが一番大事だと思います」
――その考え方は、どのような経験から得たものですか?
「若い時にメンバーから外された経験が何回かあって。その時は周りのせいにしていたんですけど、そのシーズンは充実感がまったくなかった。だから、昨年同じような状況になった時に『全力でやろう』と決めました。まずは自分が変わらないと、人の考えを変えることはできないので」
――昨シーズン、松田浩監督体制下で出場機会を減らす中でも、倉田選手のストイックな練習姿勢に、複数の選手が刺激を受けたと話していました。
「例えば、チームがアウェイの試合で遠征に行っていて、ベンチ外の少ないメンバーで大阪に残って練習する時は(他の選手が)『どんな心理状態かな』とか考えましたね。難しい時こそ奮起すれば、チームの底上げにも繋がる。技術的なことというよりも、メンタル的なことを若手選手に伝えることはあります。自分も若い時にはそういう考えはできなかったので」
――キャプテンとしての葛藤もあったと思います。
「立場が変わってもやるべきことは変わらないので、キャプテンだから自分の行動が変わるということはなかったです。ただ、チームとして結果が出なかったことには責任を感じていました。しんどかった」
――今年はチームとしても、個人としても逆襲のシーズンになります。
「個人としては、昨シーズンは初めて得点が取れなかったので、ゴールとアシストを合わせて10以上の結果をしっかり出したいと思います。どんな選手が加入しても、どんな監督が就任しても『自分がナンバーワン』だと思ってるし、自分が試合に出るべきやと思ってます。そこが揺らいだらプロとしてやっていけない」
――最後に今シーズンへの想いを教えてください。
「今トライしている戦術の完成度を高めることができれば、ワクワクするサッカーを見せられると思います。もちろんタイトルを狙いますけど、僕としては『ガンバのスタイルはこれだ』、『ガンバのサッカーが見ていて一番面白い』というものを今シーズンは見せつけたいですね」
SHU KURATA
倉田 秋
大阪府高槻市出身。中学からガンバ大阪の下部組織でプレー。ユース時代はキャプテンを務め、2007年にトップチームに昇格。献身的なプレースタイルで、MFを中心に様々なポジションでプレー。2015年には日本代表に選出。2017年からはガンバ大阪で背番号10を背負い、2022年はキャプテンに就任。フィールドプレーヤー最年長としてチームを牽引している。
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Photos: ?GAMBAOSAKA, Getty Images
Profile
玉利 剛一
1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。その後、筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。2019年よりフットボリスタ編集部所属。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆を行っている。サポーター目線をコンセプトとしたブログ「ロスタイムは7分です。」も運営。ツイッターID:@7additinaltime